北京語と広東語はドイツ語と英語くらい違う?…ニッポン人が知らない“現代中国の方言事情”
文春オンライン / 2025年2月7日 6時10分
©mapo/イメージマート
〈 ニセ活仏として約43億円を荒稼ぎ…日本では報じられない中国の面白すぎるB級ニュース 〉から続く
広大な中国では地域によって話す言葉が違う、と思われがちだが実態は……。大宅賞作家・安田峰俊の新著『 民族がわかれば中国がわかる 』より一部抜粋。日本人が知らない現代中国の方言事情を紹介する。(全2回の後編/ 前編 を読む)
◆◆◆
中国語の方言
「中国語ができるって、北京語と上海語のどれを話せるの?」
日本ではときおり、年配の人からこうした質問を受けることがある。現代中国では標準中国語の普通話さえ話せれば、全国ほぼどこでもコミュニケーションが可能だが、いまなお世間の誤解は大きい。
誤解の一因は、戦前・戦中期の日本の軍人や商人を悩ませた「方言」の記憶もあるのだろう。すなわち、標準語が普及するまで中国各地の庶民のあいだで日常的に話されていた口語のことである。
日本語の関西弁や博多弁とは異なり、中国語の方言は中国人同士でも意思疎通がほぼ不可能なほど発音や表現の差異が大きい。たとえば北京語と広東語の話し言葉は、英語とドイツ語くらいの差があるとはよく言われる話だ。
中国の社会で方言が急速にすたれたのは、経済発展とマスメディアの普及が進んだ最近30年ほどである。それ以前は、特に福建省や広東省など華南地域の各省の場合、街ひとつ違うだけで言葉がまったく通じないこともあった(ただし、異なる方言でも書き言葉はほぼ同一である)。
日本の中国語辞書では、中国の方言を官話・呉・湘・贛・閩・粵・客家の七大方言に分けていることが多い。
このうち、官話方言は王朝時代の官僚言葉に由来する。現代の標準中国語と比較的近く、話される地域は中国の北部・西部の大部分を占める(北京の下町で話される官話方言の一種が、狭義の「北京語」である。日本でいう江戸弁に相当する)。
漢族の中で独自の言葉を話す「客家」
他の方言も、上海語を含む呉方言、台湾語(閩南語)を含む閩方言、広東語を含む粤方言が比較的有名だ。特に広東語は香港で使われる言葉なので、1990年代の香港ブームの時代には、日本でも女性を中心に学習者がそれなりに多くいた。ほかに湘方言や贛方言も、それぞれ湖南省付近や江西省付近の言葉である。いっぽう、七大方言のなかで唯一、地名がついていない方言が客家方言(客家語、客家話)だ。「客家」は地方の名前ではなく、言語・文化・歴史などで他の漢族とは大きく異なる特徴を持つとされる、漢族の内部のグループである。
客家系の人々は、福建省・江西省・広東省の省境の山岳地帯に多く住む。なかでも、一族数百人が集住する例もあった巨大な円形多層住宅(客家円楼)で知られる福建省龍岩市や多くの客家系華僑の故郷である広東省梅州市が、文化的な中心地だとみなされている。
清代以降、他地域への移住が活発になったことで、台湾の新竹・苗栗・屏東などの各地や広東省の珠江一帯(広州や深圳など)、香港の新界、さらに広西族自治区や四川省にも客家の分布が見られる。海外移民も盛んで、客家は北米・南米や東南アジアなど各国の華人コミュニティで存在感がある。なかでもタイ南部のハートヤイ(ハジャイ)やマレーシアのボルネオ島にあるサバ州、南米のスリナムなどは客家系の華人住民が非常に多い地域だ。
客家の人口は中国本土に数千万人、台湾に約467万人、香港に約100万人、マカオに約10万人ほどいる。海外の華人社会を含めると、諸説あるが全世界で6000万~1億人程度である。
ただし、客家は「民族」とはみなされていない。彼らはあくまでも漢民族の一部とされ、「方言集団」や「族群」(エスニック・グループ)などの呼称で定義されるのが普通だ。
なにより、客家の多くが自分自身を正真正銘の漢民族であると考えている。彼らを別の「民族」として扱った場合、気分を害する当事者も多いだろう。
なので、中国の少数民族を扱う本書で客家を取り上げるのは、厳密に言えば不適切だ。
ただ、そもそも現代中国の民族区分それ自体が非常に粗雑であることは本書でここまで見てきた通りで、中国にはさらにさまざまなエスニック・グループが存在する。
それらのなかでも、客家は現代中国における「漢族」と「少数民族」の線引きを考えるうえで非常に面白い存在であるうえ、世間で誤解されがちな人たちだ。そこで、あえて取り上げてみる次第である。
(安田 峰俊/Webオリジナル(外部転載))
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