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「強豪チームの4番バッター」だった少年はなぜ野球をやめたのか…? 35歳・ゲイのインフルエンサーが見た“日本の不寛容”「いまだに女性の服が着たいと勘違いされる」

文春オンライン / 2025年2月9日 10時50分

「強豪チームの4番バッター」だった少年はなぜ野球をやめたのか…? 35歳・ゲイのインフルエンサーが見た“日本の不寛容”「いまだに女性の服が着たいと勘違いされる」

「強豪チームの4番バッター」だったのに、なぜ好きな野球をやめたのか?(写真左:本人提供/写真右;©石川啓次/文藝春秋)

〈 「結婚も、子供を作る未来もありえない」将来への不安から120キロまで激太りしたことも…35歳の当事者が語る“ゲイゆえの生きづらさ” 〉から続く

 自身のセクシャリティ(性的指向)に気付いたのは中学時代…同級生とは話が合わず、10年近く続けた野球をやめたことも。ゲイでインフルエンサーのたたさん(35歳)がこれまで生きていくうえで、衝突した「LGBTQが認められない」日本で生きることの困難とは? インタビューの後編をお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)

◆◆◆

SNSで「バッシングを集めた」投稿とは?

──「LGBTQとトイレの問題」について発信したら、かつてバッシングを受けたというたたさん。どんなことを言われたんですか?

たた インフルエンサー活動である場所に行ったとき、スタッフさんにトイレの場所を聞いたんです。すると、その人は僕がゲイであることや、活動内容を知ってくれている人だったので、「(男性用トイレ、女性用トイレの)どちらでもどうぞ」って案内してくれたんです。

 彼のことを肯定的に捉えた感想をSNSに投稿したら、めちゃくちゃ批判的なコメントが集まって。「そのスタッフは頭がおかしい」「男が女子トイレに入ってくるな」とか。実際は男子トイレに入ったし、女子トイレに入ったなんて一言も投稿していないんですよ。そこで気付いたのが、僕たちLGBTQがそうじゃない人のテリトリーを侵すと思われたら、批判されるんだって。

 たとえば、僕が「ゲイはキモいって言われて、悲しい」とか発言すると、「そんなことないよ」「私は応援しているからね」など応援コメントがたくさん届くんです。でも、女性側のテリトリーに入りかけると排除されてしまう。

 ちょっと意地悪な見方ですけど、応援コメントをしてくれるすべての人がゲイやLGBTQを受け入れてくれているわけじゃなくて、中には僕たちのような少数派を応援することで「そんな自分が素敵」と酔っている人もいるんじゃないかなって。それくらい反応にギャップがあるんです。

──自分に迷惑がかからない範囲でなら、応援すると。

たた だから、こういう活動をすると、よく周囲の人から「LGBTQはもう世の中で認知されているのに、なんで発信してるの?」と聞かれるんですが、実際は全然まだまだ認められていないんです。社会も非寛容なままだと思います。

 たとえば、男性も利用できるネイルサロンって少ないんですよ。一度、TikTokで「最近あった悲しいこと」という質問に答える動画で、「ネイルができるところが少なくて悲しい」と発信したら、コメントで総叩きにあったこともありました。

 このときも「女性が行く店に来るな」みたいな。もちろん都心だと探せばあるんですよ。でも、地方に行くとそんなサロンないじゃないですか。そういったことを発信しただけで、なぜか反発されてしまう現状があります。

──たしかにそれだと地方在住のLGBTQは困るかもしれませんね。

たた ネイル以外にも大した意図もなく、なんとなく女性専用にしているサービスって他にもあるじゃないですか。それがちょっとでも僕たちにも門戸を開いてくれたら嬉しいって気持ちを発信するだけで、「こっちに入ってくるな、だからLGBTQはキモいんだよ」「自分の権利ばかり主張するな」みたいな声をぶつけられるんです。

自身のセクシャリティに気づいたのは中学時代

──ちなみに、たたさんが自身のセクシャリティに気づいたのはいつ頃でしたか?

たた 中2のときです。学校にすごくかっこいい先輩がいて、彼が卒業するときに「第2ボタンがほしい」と思ったんです。先輩はサッカー部で、みんなの憧れでした。だから友達に「あの先輩に第2ボタンもらおうと思うんだ」と言ったら、みんなから「は?」って反応をされて。他の子たちとは憧れの方向性が違ったんです。友達はリスペクトなんですが、自分はラブのほうの憧れだったという。

──(笑)。

たた そのとき「あ、自分はほかの人とは違うんだ。同性へのラブって、自分だけの感覚なんだ」って気づいたんです。でも結局、先輩からはちゃんと第2ボタンをもらえたんですけどね。ボタンからセーターまで全部もらいました(笑)。

──よかった(笑)。それ以降、まわりの子との差を意識するようになったのでは?

たた 高校時代は進学校だったので、まわりは大人しい子ばかりでした。でも、僕の場合、派手な格好が好きだし、高校時代から髪を染めて、日サロにも通っていました。ただ人と話すのが苦手だったので、ちょっとヤバい子扱いされていたかもしれません。

 そのせいか友達もいなかったです。高校生の会話って、どうしても下ネタに偏りがちじゃないですか。「誰々が誰々とヤッた」とか。それがすごく嫌で。

──2000年代中頃のお話ですよね。LGBTQという言葉も今より認知されていない時代でした。

たた そうですね。だから「男が好き」という自分の性指向も、許されないものだと思っていました。会話にも困ることが多かったです。放課後に多目的室とかで喋っているとき、「お前、誰が好きなの?」と聞かれて。「君だよ」とは言えないから、ウソをつくしかないじゃないですか。好きでもない女子を好きだと偽るのも面倒くさくて。

 そのうち「いつも友達の輪に入らないよね」と言われるようになっちゃって。それでクラスメイトとも徐々に溝ができてしまいました。

野球部をやめた理由は「坊主頭の強要」

──中学時代までは野球部だったそうですが、野球と言えば坊主を強要されたりするチームもあるそうですね。

たた 自分はそれが嫌で野球をやめたんです。野球は幼稚園から中3までやっていたんですが、僕の地域の硬式野球部のシニアクラブに入るには、3年間坊主にしなきゃいけなかったんです。それが絶対に嫌で。母親には「野球が嫌いになったからやめる」と伝えたんですが、本当の理由は坊主にしたくなかったからです。

 本当は続けたかったんです。小6の時に県大会でも準優勝して、4番バッターでしたから。母親にもウソをつくことになってしまった。

──そんなことがあったんですね。

たた あと部活について、思うところがもう1つあります。男子の部活動だと、「男は外で着替えても大丈夫だ」って風潮は、今もありますよね。この間、僕もダンスレッスンを受けたときに、「男性の方の着替えはそちらで」とカーテンで仕切られているだけの場所を案内されて。女性にはちゃんと着替えのための個室があるんですよ。ゲイとして、そういう差にもちょっとモヤモヤしちゃって。もちろんみんな悪気はないと思います。ただ、セクシャリティゆえの違いにもうちょっと気づいてほしいなって。

「女性の服が着たいんでしょ?」といまだに誤解される

──まだまだ知ってもらえていない…となると、たたさんが発信に積極的なのも納得がいきます。

たた 未だに「胸が大きくならなくて悲しかったでしょ」といった同情のDM(ダイレクトメール)が届くこともあるんですよ。あと「女性の服が着たいんでしょ?」とか。ドレスとかは素敵だと思うことはあっても、女性の服を日常で着たいわけではない。

 こうした誤解がなくならない限り、まだまだ発信を続けていくつもりです。

(市岡 ひかり)

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