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弟子たちの年齢は38歳、44歳、51歳…「中年で入門しても成功できない」落語界の“暗黙のルール”に立ち向かった師匠の優しさ

文春オンライン / 2025年2月9日 6時0分

弟子たちの年齢は38歳、44歳、51歳…「中年で入門しても成功できない」落語界の“暗黙のルール”に立ち向かった師匠の優しさ

『七人の弟子』(立川談四楼 著)左右社

 去年、立川談四楼師匠から仕事を貰い、館林の落語会に出た。その楽屋や打ち上げで「やけに弟子多いなあ。でもこの子達は前座なのに、なんで老けているんだろう?」と不思議に思ったものだ。それが、談四楼師匠が標榜する「中年再生工場」だということを、本書を読んで初めて知った。

「落語は、大袈裟に言えば人生を語るものなのだ」「単なる若さより、その人の持つ社会経験を重視していたのだ」と師匠は語る。同じ落語家として「なるほど」と思うが、現実はそう簡単ではない。

 俺の所属する落語協会は「前座として入門できるのは30歳まで」と決まっている。31歳以上は入門できない。「中年で入門してもプロの落語家としては成功出来ない」落語界暗黙のルール。しかし、その常識に談四楼師匠は立ち向かう。

 44歳、元編集者。大叔母の介護のため、会社を辞めた51歳の女性。結婚して子供もいる38歳元漫才師。東大卒の44歳、元商社マン。47歳で入門し、結局辞めていったおじさん。

 よくもまぁ、これだけの中年が弟子入りに来るなんてびっくりだ。しかし師匠は弟子にすれば、前座として面倒を見て、落語を教え、その中年の将来を心配する。中年前座が二つ目となり、お祝いで駆けつけた両親に「立派になりました」と声をかける。嘘でも俺はこんな事は言えない。なぜなら二つ目は落語地獄の始まりだ。これから延々と売れる奴、売れない奴と選別されて行く。しかし、それを知っている師匠はあえて言う、「おめでとう」と。なぜなら、前座から二つ目になるまでに夢破れて辞めていく人間がどれほど多いか知っているからだ。

 俺は不思議でならない。なぜ中年の弟子に、こんなに優しいのか? その答えは本書の最後に収められた短編にあった。「三日間の弟子」に。

 七代目立川談志。俺も少しだけ接点はあった。でもそれは強烈な出会い。圧倒的なオーラと怖さとちょっぴりの優しさ。その優しさが、弟子の談四楼師匠に継承されていたのだ。

 そして、余談だが、本書によって「その後」がわかった落語家がいた。

 立川わんだ。かつての快楽亭ブラックの弟子ブラッC(シー)。その昔、「トンデモ落語会」というキワモノの会があった。その会で前座で働いていたのがブラッCだ。

 その彼がブラック兄貴のせいで行き場を失い、談四楼師匠に拾われ三四楼となり、なんと真打になっていたなんて。でも彼が背負わされた苦労を知って涙が出た。本当に快楽亭ブラックはクズ芸人だ。わんだ、お父さんの介護終えたら一緒に新作やろうぜ!

 本書は師匠の思い出話や楽屋噺も交え、変な中年弟子の行状に笑い、コロナの惨劇で泣かせ、最後はグッと胸に来る噺で締める。令和の立川談四楼作人情噺である。

たてかわだんしろう/1951年、群馬県生まれ。70年に立川談志に入門、83年真打昇進。同年、『屈折十三年』で小説家デビュー。以来、落語活動と並行して執筆活動を行う。著書に小説『ファイティング寿限無』、『声に出して笑える日本語』シリーズなど。
 

さんゆうていはくちょう/1963年、新潟県生まれ。落語家。新作落語を中心に活動。著書に小説『ギンギラ★落語ボーイ』など。

(三遊亭 白鳥/週刊文春 2025年2月13日号)

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