中央・総武線“ナゾの終着駅”「三鷹」には何がある?
文春オンライン / 2025年2月10日 6時10分
![中央・総武線“ナゾの終着駅”「三鷹」には何がある?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_76766_0-small.jpg)
中央・総武線“ナゾの終着駅”「三鷹」には何がある?
先日、津軽半島を旅する機会があった。津軽といえば尊富士、吉幾三、そして太宰治である。この3人、まるで共通点もなさそうなのに、金木という津軽半島の小さな町の出身だというから、なんとも不思議なものを感じずにはいられない。
そうした中でも、やはり津軽といったら太宰治のふるさとという印象が強い。小説『津軽』執筆のため、太宰は1944年の初夏にふるさとを訪れ、津軽各地を巡った。そして、それから4年後の1948年6月、太宰は自宅のあった三鷹の町を流れる玉川上水に入水自殺している。だから、三鷹も津軽と同じく太宰治と縁の深い町、というわけだ。
「三鷹」が抱える2つの“悩ましさ”
かつて太宰が暮らした三鷹の町の玄関口・三鷹駅は、なかなか葛藤の多い駅だと思う。きっと、中央線ユーザー、それも三鷹以西に居を構えているような人ならば、きっと首肯してくれるのではないか。
いちばんの葛藤は、三鷹駅が中央特快の停車駅であるということだ。快速との乗り継ぎができるようにはなっているのだが、これが実に悩ましい。
都心方面の中央線に乗っていて、三鷹駅で快速が中央特快の待ち合わせ。少しでも先を急ぐならば中央特快に乗り換えるべきなのだが、実のところ新宿駅への到着時間は5分ほどしか変わらない。
運良く座席を得ていれば、そのまま快速に乗り通すべきか、それとも5分を惜しむべきか。そんな葛藤に直面することになる。
もうひとついうと、中央線沿線を代表する町としてまず名が上がる吉祥寺駅。駅周辺の繁華街とメンチカツ、そして焼き鳥。井の頭公園もよく知られ、中央線文化の最先端を走る町だ。
そんな吉祥寺は三鷹のお隣の駅なのだが、中央特快は吉祥寺には停まらない。乗車人数は三鷹駅より吉祥寺駅の方が4万人も多いのに。このあたりも、まさに三鷹という駅が葛藤を抱えていることの証左といっていい。
そんなわけで、三鷹駅にやってきたのである
もちろん三鷹駅とて1日の乗車人員は8万人超。三鷹の森ジブリ美術館の最寄り駅(吉祥寺からも歩けます)でもあるし、新宿駅まで20分もかからない。
それに、中央・総武線各駅停車の始発駅でもあるから、少し並んで座っていけば、殺人的な通勤ラッシュも回避できる。ほらごらん、葛藤だなんだというまでもなく、とてもいい町ではなかろうか。
そんなわけで、三鷹駅にやってきたのである。
まずは目抜き通りがまっすぐ伸びる南口へ
中央線が快速と中央特快の待ち合わせをし、中央・総武線各駅停車の始発駅。そんな三鷹のターミナルは、3面6線となかなか規模の大きなホームを地上に持つ。
改札口やコンコース、駅の南北を結ぶ自由通路はホームの上の橋上に。このあたりは何の変哲もないありふれた構造だ。が、三鷹駅のすごいところは、コンコースがある2階部分のさらに上、3階にまでエスカレーターが通じていて、飲食店やら何やらが入っているということだ。
さらに改札外にも駅商業施設があって、エキナカとまとめてアトレヴィ三鷹。さすがに吉祥寺ほどではないけれど、なかなか充実した駅ではなかろうか。
そのまま南口に出てくると、ペデストリアンデッキが広大な駅前広場を覆っている。広場を見下ろせば、小田急バスが行ったり来たり。三鷹駅は北口が関東バス、南口が小田急バスの根城なのだ。
広場の中央からはまっすぐ南に目抜き通りが伸びている。この道沿いはザ・駅前商店街。アーケードにこそなってはいないが、商業ビルからチェーンの飲食店、スーパーにドラッグストアなどがずらりと並ぶ。
道沿いにはちょっぴり古めかしいURの団地などもあったりして、この地域の開発の歴史が偲ばれる。なんでも1960年代にできた公団団地で、いまは建て替え事業の最中なのだとか。
そんな賑やかな駅前の目抜き通りを中心に、その裏手の路地沿いを含めて三鷹駅の南口には繁華街というべき町が広がっている。
そうした中にも大きなマンションもいくつも建っているし、駅から少し離れればそこはもうまったく静謐な住宅地。ちょうど三鷹駅の直下を北西から南東へと流れる玉川上水沿いを辿ってゆけば、井の頭公園もそれほど遠くない。
とどのつまり、三鷹という町は緑あり、ほどよい繁華街あり、それでいて住宅地は静かな好環境と、まさに住みやすさという点では欠点の見当たらない町なのである。そこに加えて中央特快の停車駅であったり、各駅停車なら絶対座れるよ、というおまけが付いてくるのだから、文句のつけようがなかろう。
三鷹駅は、その名の通り三鷹市のターミナルである。といっても、三鷹市は三鷹駅が北の端。他に市内の駅は京王井の頭線の井の頭公園駅と三鷹台駅だけだから、広大なベッドタウンたる市域の多くを三鷹駅がカバーしているといっていい。三鷹駅前の繁華街は、三鷹市唯一の繁華街、というわけだ。
そして、三鷹駅の北口に出れば、こちらはもう武蔵野市だ。
武蔵野市を代表する繁華街は、言うまでもなく吉祥寺。だから、三鷹駅北口は繁華街というほどではなく、駅前のごく狭い一角に飲食店やドトールコーヒー、ルノアールなどがあるくらいで、南口側よりは静けさが勝つ。
「三鷹」の由来はやっぱりタカ?
それでも、駅前には松屋フーズの本社があったり、背の高いマンションが建っていたり、少し歩けば横河電機の本社があったりするから、人通りもクルマ通りも絶えることはない。
徒歩圏内ではないけれど、武蔵野市役所がいちばん近いのも三鷹駅北口だし警察署もあるから、武蔵野市のシビックゾーンたる役割を持っているのだろう。南口ほどではないというだけで、こちらも充分すぎる東京郊外の駅前風景であった。
北に武蔵野、南に三鷹というベッドタウンの市境に位置する三鷹駅。この一帯は、武蔵野台地の中央に位置する。古く、徳川将軍家の鷹場(御鷹場)があったことから、“みたかば”が転じて“みたか”になったのだとか。江戸時代初期に玉川上水が開削されると、新田開発などが進められた。
さらに明暦の大火を機に、江戸の町の人々が移り住むようになる。三鷹駅南口は「下連雀」というが、これは神田連雀町の人々が移り住んだことによる(ちなみに吉祥寺も本郷の吉祥寺の門前町が明暦の大火後に移転したことから名付けられた)。
以後、玉川上水の恩恵もあって、三鷹は近郊農村として発展した。だから、近代に入っても都市化はまだまだ訪れず、典型的な“武蔵野”の風景が広がっていたに違いない。1929年には中央線沿いに車両基地が設けられるが、それも土地に余裕があったからだろう。
ところが、1930年に三鷹駅が開業すると、少しずつ変化が現れはじめる。
約100年前、時代に飲み込まれていくこの町の「変化」
1930年には横河電機製作所吉祥寺工場が開設。これが駅設置のきっかけになったのだろうか。さらに1938年には中島飛行機武蔵製作所ができる。いずれも軍需工場であった。
当初は南口だけだった出入口も、1941年には北口が誕生している。当時は「武蔵野口」と呼ばれていたという。北側にあった横河電機や中島飛行機への通勤客が利用したのだろう。
南口、現在の三鷹市側にも中央航空研究所などの軍事施設が置かれ、三鷹は小さな“軍都”の様相を呈するようになる。太宰治が三鷹に居を構えたのは、こうした都市化が進む最中の1939年のことだ。
ちなみに、中島飛行機の工場までは三鷹駅から引き込み線も分かれていた。いまでは引き込み線の跡は堀合遊歩道として整備されており、一部には線路の跡も見ることができる。東京近郊、日帰りの廃線散歩などと洒落込んでみるのも、悪くないかもしれない。
ともあれ、軍需工場が集まっていたこともあって、三鷹は戦時中には空襲被害があった。『津軽』の旅からおよそ1年後、1945年4月には太宰も空襲から逃れて甲府、次いで津軽へと疎開している。
空襲を受けた工場街が見せた戦後の「転身」
そして戦後。横河電機はそのまま本社を三鷹に置いて現役で、中島飛行機の工場は1年だけプロ野球で使われた武蔵野グリーンパーク野球場を経て公園と団地群に生まれ変わった。
戦後の人口急増によって、三鷹駅周辺は瞬く間にベッドタウンとして形を整えた。“軍都”だった時代はごくわずか。戦後のベッドタウン・三鷹の時代のほうが遥かに長くなっている。
線路沿いを西に歩くとこの町のシンボルが見えてきた
かつての軍需工場への引き込み線跡に向かって線路沿いを西に歩くと、線路と車両基地をまとめて跨ぐ巨大な跨線橋が見えてくる。太宰治が散歩などでしばしば足を運び、好んでいたという跨線橋だ。
1929年、この地に車両基地を設けるにあたり、町の南北の往来のために国鉄が建設。長らく三鷹のシンボルとして愛され、子どもたちが行き交う電車を眺めるスポットにもなっていた。
そんなシンボルも、老朽化によって2023年12月に閉鎖。現在は撤去工事の最中だ。一部は記念に保存されることになるという。そんな跨線橋から太宰も見下ろしたであろう中央線も、絶え間ない変化にさらされている。この春には、ついにグリーン車がお目見えするのだ。
となれば、中央特快に乗り換えるか、それとも快速で座るチャンスを狙うか……などといった葛藤からは解放されるのだろうか。グリーン車とて料金を払っても必ず座れる保証はないから、なんともいえないところ。激しい混雑でおなじみの中央線、座席を巡る葛藤が止むことはなさそうだ。
そんな中央線のグリーン車、3月14日までは料金不要で乗ることができる。機会があれば、ためしに乗りにいってみようと思う。グリーン車から見る中央線の沿線風景は、いつもとちょっと違って見えそうだ。
写真=鼠入昌史
(鼠入 昌史)
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