「テッパンはジャパニーズ・ウイスキーと…」『VIVANT』監修も務めた公安OBが明かす、海外で情報収集のために使った“プレゼント”とは
文春オンライン / 2025年2月12日 6時0分
![「テッパンはジャパニーズ・ウイスキーと…」『VIVANT』監修も務めた公安OBが明かす、海外で情報収集のために使った“プレゼント”とは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_76774_0-small.jpg)
©AFLO 写真はイメージ
〈 「尾行されているな」と思ったらどうする? 『VIVANT』監修を務めた公安OBが教える2つの撒き方「公共交通機関で…」「鏡やガラス窓を…」 〉から続く
スパイやテロリストの行動を追尾し、不正な情報漏出や破壊活動を防ぐ「外事警察」と呼ばれる警察部門が存在する。中でも、警視庁の公安部外部課はドラマ『VIVANT』(TBS系、2023年7月~9月放映)に登場したことでも注目を集めた。
ここでは、警視庁公安部外事課のOBであり、『VIVANT』の公安監修者を務めた勝丸円覚氏が「カウンターインテリジェンス」の世界について明かした『 公安外事警察の正体 』(中央公論新社)より、一部を抜粋して紹介する。
アフリカのとある国の日本大使館に赴任が決まり、『VIVANT』で描かれたように海外での任務、つまり在外公館警備対策官の職に就くこととなった勝丸氏。その仕事内容とは——。(全4回の4回目/ 最初 から読む)
◆◆◆
渋滞狙いの強盗とテロ
大使をはじめとする移動ルートを設定し、安全対策を講じるのも、警備対策官の職務である。
日本と違い、アフリカの多くの国では、車というのは犯罪者にとって非常に魅力的なカモだ。どの国でも大抵そうだが、ひとたび渋滞にはまるとたちまち物乞いに囲まれる。窓をノックしてくるくらいならまだいいほうで、ひどい場合には叩き割らんばかりの勢いで叩いてくるし、聞くに堪えない罵声を浴びせてくることもある。
渋滞狙いの強盗も多い。「スマッシュ・アンド・グラブ」という、南アフリカやナイジェリアで有名な手口があり、渋滞にはまっている車の窓をハンマーや石などで叩き割り(スマッシュ)、目立つ金品をつかみ取っていく(グラブ)。車の中でスマホやタブレットを操作していたり、目立つところにブランドバッグを置いていたりすると、そういう目に遭いやすい。
2023年には、ほんの少し開けていた窓からいきなり手を突っ込まれて携帯電話を奪われた日本人男性が、取り返そうと車を降りたところ逆に集団暴行を受けて殺害されるという事件が、アフリカのウガンダで起きている。
渋滞を狙ったテロも、アフリカではあまり例を見ないが、ちょうど私が外務省に出向していた時期にパキスタンで起きた。主要都市カラチの市街地から空港に続く幹線道路で、元首相のパレードが行われて道路が混雑していたところ、自爆テロが発生したのだ。車と人のひしめき合うなかだったため、犠牲者の数も数えられないという戦慄すべき報告を受けた。報道ではおよそ百数十人が死亡したと言われているが、肉片だらけで、正確なところはまったくわからなかったらしい。
大使や国会議員の移動ルートを守る
物騒な話が続いたが、途上国において移動ルートの安全を保つというのはこれほど重要なのである。大使館の幹部級となると、どこに行くにしてもルートを最低3パターンは用意する。同一のパターンを繰り返せば、テロリストや誘拐犯に行動を読まれてしまい、突然の銃撃といった不測の事態に遭遇しやすくなるからだ。
そのため、ルートを変えられる程度に前進警備の車を走らせ、異常がないかチェックさせる。反政府デモは起きていないか、武装した怪しい集団はいないか、渋滞は起きていないか、そうしたことを報告させる。後続する本隊には武装警備を随伴させ、いざというときにはルート変更を指示したりして、安全を確保する。
大使だけでなく、日本から大臣や国会議員が訪問する際にも、こうした警備体制をセッティングし、実行する。ルート設定のために、犯罪多発地域の情報は常にアップデートしなければならないから、現地警察や民間警備会社から最新の情報を手に入れなければならない。
こうして、2つ目の任務である情報収集が必要になってくる。私が監修したドラマ『VIVANT』に登場する自衛隊の秘密組織“別班”のような業務である。警察出身者は、警備対策官か領事として赴任するが、防衛省出身者は防衛駐在官、または警備対策官か領事という職位が与えられることもある。いずれについてもいえることだが、基本的には自国日本の国益や権益に対する脅威についての情報を集めている。
ただ残念ながら、日本の場合、アメリカやイギリスに匹敵する大規模なインテリジェンス活動とは言いがたい。日本の在外公館でやれることは、基本的な情報収集とその分析だ。
現地における情報収集
たとえば現地警察や軍、情報機関と連絡を取り、テロリストや犯罪者の情報を得る。どの地域に犯罪が集中しているか、といった情報や、日本人を敵視するような過激派組織やイデオローグがいないか、といった情報の収集に努める。
専門家を探して話を聞くこともある。大学などの研究者だけでなく、世界各国の兵器情報が載る年鑑の発行元などにアプローチしたりもする。予算もなければ、これ以上の活動を幅広く在外公館で行う義務もないが、できうる範囲で情報を収集している。
不審な日本人がいないか追跡することもある。1970年代に連続企業爆破事件を起こした過激派組織「東アジア反日武装戦線」のメンバーだった桐島聡が病死したと、2024年1月に大々的に伝えられたが、彼も海外に逃げているとみられていたため、情報提供を求める対象だった。このほか、日本赤軍関係者、凶悪事件の容疑者などの情報も集めた。
私の場合、ラッキーだったのが、キャリア出身のやかましい「上官」が、赴任国にいなかったことだ。警察庁にキャリア採用されて出向している人々は、情報収集こそが自分たちの役割なので、情報収集と人脈構築に精を出している。それはそれで結構なのだが、都道府県警などから出向している領事を格下に見るケースが少なくないため、情報収集にいちいち口を突っ込んだり、禁止する人もいる。私の場合はこうした人がいなかったため、自由にふるまうことができた。
ジャパニーズ・ウイスキーをプレゼント
情報収集のためにカウンターパートと会う際に、プレゼントを渡したり、少額の現金を渡したりすることもあるが、それらの予算はいわゆる「外交機密費」で賄われる。どれだけの金額を使えるかについては、その在外公館の大使が決裁する。
そこで、私がまずしたことは、どんな土産物がウケるかというリサーチだった。その結果、私が割り出した「テッパン」のお土産品は、ジャパニーズ・ウイスキーとポケモングッズだった。今でこそ「山崎」や「響」はグローバル・ブランドとなったため手土産にするには高嶺の花になってしまったが、当時はそれほど高価でなく、品質も安定しているため、酒を飲む人には大変喜ばれた。
ここで、「あれ、海外には酒類の持ち込み制限があるんじゃないの?」と思った方もおられるだろう。鋭い。海外から入国する際に、「酒類の持ち込みは1リットルまで」とか、「750ミリリットル瓶2本まで」などの制限をほとんどの国は課している。
ところが、外交の世界には秘密道具があって、「外交行嚢」というものがあるのだ。これは世界共通で、大使館貨物である外交行嚢は、航空会社もチェックできないし、税関も審査できない。荷物検査を受けることもない。いっさい手出しできないのである。なので、必要なだけウイスキーをそこに詰め込み、持ち込むことができるのだ。
余談になるが、厳格なイスラム教を奉じるいくつかの国では、酒類の持ち込みは一切禁止されている。ところが、外交官は外交行嚢を使えるから、大使館や総領事館にはウイスキーやワインを持ち込み、置いておくことができる。だから、在留邦人がパーティーなどで大使館に招待されると、現地ではめったにありつけない酒に行列ができたりする。サウジアラビアなどはことに厳格で、密売酒を探すのも難しいから、リヤドやジッダの在外公館のパーティーでは、何度もグラスを持ってなみなみと酒を注いでしまう日本人もいたりする。
私の赴任先のA国はイスラム教国ではなかったし、どちらかというと酒類の消費は活発なほうだったから、ジャパニーズ・ウイスキーの効果は高かった。それに比べると、日本酒や焼酎はあまり好まれなかったが、最近は「SAKE」のブランド化も進んでいるから事情は異なるかもしれない。
もうひとつのキラー・コンテンツ
もうひとつのキラー・コンテンツのポケモングッズは大して値の張るものではなかったが、特にカウンターパートに小さな子供がいると、効果は絶大だった。おそらく、家庭で「素敵なパパ、ママ」を演出するのに一役も二役も買ってくれたのであろう。ひとたび渡せば、「次に一時帰国するときにまた買ってきてくれないか」と頼まれるほどだった。
地味に見えるかもしれないが、情報収集というのは、こうした努力の積み重ねで出来上がっている。どれだけ高価な物を渡そうと、高級レストランで会食しようと、相手に疑念を抱かれてしまえば何の意味もない。私も親しくなったカウンターパートとはそういう場を共にすることもあったが、これは信頼関係あってのことだ。絶妙な「入り口」を見つけ、そこからネットワークを張っていくのが、腕の見せ所である。
(勝丸 円覚/Webオリジナル(外部転載))
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「バーで親しくなった多くの米兵と肉体関係を…」ホステスのふりをして在日アメリカ海軍の情報を聞き出した“若い女性スパイ”の正体
文春オンライン / 2025年2月12日 6時0分
-
「これはお国にとっても重大なことだから」と3人の男に説得され…吉田茂邸に住み込みで働いていた“純朴なお手伝いさん”の驚くべき正体
文春オンライン / 2025年2月12日 6時0分
-
「尾行されているな」と思ったらどうする? 『VIVANT』監修を務めた公安OBが教える2つの撒き方「公共交通機関で…」「鏡やガラス窓を…」
文春オンライン / 2025年2月12日 6時0分
-
第101回外務省在外公館派遣員試験 神田外語大学から10人の学生・卒業生が合格 ~累計89カ国260人の合格実績~
Digital PR Platform / 2025年2月10日 2時5分
-
安倍首相の写真を使い、日本のグラビアアイドルを送り込む…中国スパイが仕掛けるハニートラップの最新手口
プレジデントオンライン / 2025年1月23日 7時15分
ランキング
-
1カフェで「商談」「長時間作業」は“アリorナシ”? 賛成派「個人の自由」VS否定派「他の人に迷惑」 “リアル”すぎる意見が続々
オトナンサー / 2025年2月12日 8時10分
-
2毎回洗うのは面倒…「羽織ったカーディガン」は何回目までセーフ? プロが解説、洗う頻度と注意点
まいどなニュース / 2025年2月11日 20時15分
-
3【2025年2月運勢】やぎ座・山羊座の占い
HALMEK up / 2025年2月9日 6時0分
-
4トヨタ最新「ルーミー」に反響集まる! 「一気に昔の高級車っぽくなる」「レトロ感がたまらない」の声も! “高級感&渋さ”アップの「昭和感サイコー」な専用パーツとは?
くるまのニュース / 2025年2月11日 6時10分
-
5さっぽろ雪まつりが閉幕 232万人が来場
共同通信 / 2025年2月11日 22時37分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)