「イデオロギーがなく融通無碍、一方で…」フジテレビ・日枝久氏の33年長期政権はなぜ実現したか?〈労働組合で学んだ人心掌握〉
文春オンライン / 2025年2月9日 8時30分
日枝久氏 Ⓒ文藝春秋
中居正広氏の女性とのトラブルが端緒となり、フジテレビの会社としてのあり方がクローズアップされている。フジテレビの最高権力者とされるフジサンケイグループ代表・日枝久氏は「長期政権」をなぜ築けたのか。
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「こいつはおれを裏切った」
巨大ダムに開いた小さな穴が、一気に決壊を引き起こした。
フジサンケイグループは、フジテレビを中心にラジオ、新聞、不動産など多くの事業体を抱える異色のメディア集団だ。その盟主だった鹿内家3代目の議長・鹿内宏明を日枝が追放したクーデターを第1幕(1992年)、買収騒動に曝されたライブドア事件を第2幕(2005年)とすると、この空前の経営危機は第3幕となり、ついに主役が退場を迫られている。
クーデターから数えれば33年にもなる日枝の長期政権は、どのように成立、維持されてきたのだろうか。若かりし日を知る同期の1人は日枝を「イデオロギーがなく融通無碍、一方でパワーポリティクス(力の統治)に強い関心があり、組織のどこを押さえればいいかを把握する力は抜きんでていた」と評する。
財界出身で初期の社長、鹿内信隆(初代議長)の下で1966年に労働組合ができたとき、日枝も若手として参加し、激しい組合潰しを経験、脱落者が相次ぐ姿を目の当たりにした。日枝は2004年、筆者のインタビューにこう語っている。
「(組合を辞めた)こいつはおれを裏切ったなと。あれだけ決めておいたのにと。僕の中にも、そういういろんな人のイメージができる」
厳しさに直面したときにあらわれる人の本性を見て、眼力の糧にしたのだろう。信用できる仲間を長年かけて周囲に作っていった。その1人がフジ・メディア・ホールディングス常勤監査役を務め、人事部門に目を光らせる腹心の尾上規喜だ。
日枝は配属された各部署で、大口スポンサー開拓(営業部)、視聴率向上(編成部)などに力を発揮。急死した2代目議長・鹿内春雄の遺志もあり、1988年、50歳の若さでフジテレビ社長に上り詰めた。
ただ、新たに議長となった鹿内宏明が志向する合理的経営の下で、日枝は“血判状”を交わした仲間と92年、クーデターを起こす。先の同期が言う。
「最大の理由は日枝の子飼いの役員が飛ばされたからで、日枝は、次は自分がやられると思った。経営のあり方という大所高所からではない、実にくだらないクーデターだった」
トップを追い落とした者は、それを必要以上に恐れる
日枝はパブリックカンパニーを目指すとし、1997年に上場を果たす。一方、鹿内宏明は追放されたものの、フジテレビの親会社だったニッポン放送大株主の立場を支えに、日枝との長き暗闘に入った。05年、日枝はニッポン放送との親子逆転を成功させたが、その渦中でライブドアが乗っ取りを仕掛けて騒動となった。財務の悪化も顧みず、日枝は巨費を投じて防衛に成功、これで盤石の体制が作られた。
日枝の権力はグループの他の基幹社から末端まであまねく行き渡り、かつてクーデターで否定したはずの“グループ司令塔”を、2008年にフジ・メディア・ホールディングス(認定放送持株会社)という形で復活させ、トップに就いた。
日枝体制の大きな特徴は、組織や人事を完全掌握し社内を統制したことだ。日枝はかつてグループを支配した鹿内家の統治による萎縮、不自由さを批判し、打倒したが、権力を握るとそれ以上のことをおこなった。(文中敬称略)
※本記事の全文(13000字)は、「文藝春秋」2025年3月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「 文藝春秋PLUS 」に掲載されています(中川一徳「 日枝久への引退勧告 」)。
全文では、河川敷で火の上を歩かせるロケを行い、老人が重度のやけどを負った事件の詳細、2005年の買収騒動直後の株式総会の「やらせ疑惑」、日枝氏がもたらした「非道」などについて、レポートしています。
(中川 一徳/文藝春秋 2025年3月号)
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