レンブラント、印象派、そして20世紀アートを最良の環境で観るDIC川村記念美術館が千葉県佐倉で開く「最後のコレクション展示」
文春オンライン / 2025年2月9日 6時0分
![レンブラント、印象派、そして20世紀アートを最良の環境で観るDIC川村記念美術館が千葉県佐倉で開く「最後のコレクション展示」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_76801_0-small.jpg)
DIC川村記念美術館外観 撮影:渡邉修
立地環境のよさ、コレクションの質、企画のセンスともに突出し、関東を代表する名美術館として知られたDIC川村記念美術館が、2025年4月から休館となる。現存地で最後のコレクション展示、「DIC川村記念美術館1990-2025 作品、建築、自然」が始まっている。
約180点のコレクションを展示
1990年にDIC、当時は大日本インキ化学工業の総合研究所敷地内につくられたのが同館だ。千葉県佐倉市、北総台地の一角に位置し、林あり池ありの敷地面積は3万坪に及ぶ。春の桜をはじめアジサイ、スイレン、モミジ、ツツジ……。四季折々の草花が来訪者の眼を楽しませてきた。
美術館としての中身も、環境に劣らず充実している。20世紀美術を中心とした一大コレクションを、広々とした展示空間で常時観ることができるのだ。
館内すべての展示室を用いて約180点のコレクション展示をおこなう今展に則して、同館コレクションのハイライトをふりかえっておこう。
まずは20世紀以前の作品として、17世紀オランダの巨匠レンブラント・ファン・レインによる肖像画《広つば帽を被った男》が、来場者を出迎えてくれる。
さほど大きくない画面の内側から、ひとりの男がこちらを見返している。特別な美男子でもなく歴史に名を残す大人物でもなさそうだが、ひとすじの光を受けて浮かび上がるその佇まいは忘れがたい印象を残す。さすが人の個性を画面に写しとることにかけて、美術史上屈指の手腕を誇るレンブラントの作品である。絵の前を立ち去ったあとも、「だれかと出会った」というはっきりとした感触が我が身に残る。
レンブラントからほど近い場所に、19世紀後半に存在感を示した印象派の画家たちの作品も掛かる。ルノワール《水浴する女》は、画面全体が柔らかい筆致と色彩で覆われており、人の夢を覗き見ているかのようで陶然とする。実在感に満ちたレンブラントの人物像とは対照的に、こちらは理想化された人物像の極致とでも言おうか。絵画とはじつにさまざまな表現方法があるものだと感心することしきりだ。
感情を揺さぶる20世紀アート
展示はこのあと、20世紀の作品となっていく。かつて美術作品は人物や風景、静物など具体的なモチーフを表現することに終始してきたが、20世紀に入ると具体物に頼らず、ただ色とかたちだけを示す抽象美術がつくられ始めた。
その初期の作例として、ロシアのカジミール・マレーヴィッチ《シュプレマティズム》はある。当初は具体的なものを描いていたマレーヴィッチは、枝葉の要素をストイックに削っていくうち、幾何学的な模様のみを残す表現へと行き着いたのだ。
その後、多くのアーティストがさまざまなアプローチで、抽象的な表現を志すようになっていく。床上に寝かせた画面に絵の具を垂らしたり投げつけたりして画面を構成するジャクソン・ポロック《緑、黒、黄褐色のコンポジション》や、巨大なカンヴァスに薄い絵の具を何度も流し重ねるモーリス・ルイス《ギメル》など、20世紀アーティストの多様な試みの一端を、今展では実地に観ることができる。当然ながら実物の作品と対面すると、伝わってくる情報量がケタ違いで心に響く。
20世紀を代表する芸術潮流のひとつ、シュルレアリスムの作例もたっぷりある。マックス・エルンストの絵画は一見すると不気味に思えるが、じっくり眺め入っていると、描き手の純粋な好奇心や探究心がはっきりと伝わってきて、観ているこちらも愉しい気持ちにさせられる。
続く繊細な作品の数々
歩を進めると、小さい箱の中に身の回りのささやかなモノや雑誌の切り抜きを組み合わせてコラージュをつくる、ジョゼフ・コーネルの作品がずらり置かれた展示室も現れる。繊細この上ない独自の世界観にどっぷり浸ることができる静かな空間だ。
また、必要最小限の幾何学的な色やかたちを用いて、平面から立体までを生み出すフランク・ステラの作品が並ぶ大空間は、そぞろ歩いていると自分の身体が浮遊し始めるかのよう。同じく、微細な色彩の感覚を大画面で味わう作風のマーク・ロスコ作品を集めた「ロスコ・ルーム」では、身を置いているだけで敬虔な気分に浸れる。
名品の数々によってかくも多様な感情を掻き立ててくれる同館が、今展をもって見納めとなるのは何とも残念なこと。ただし、DIC株式会社の発表によると同館は、「ダウンサイズ&リロケーション」する方針であるという。適切な規模と場所にて、美術館運営自体は継続する意思が示されている。
規模は縮小するかもしれないが、何らかのかたちでこの充実のコレクションが公開・展示される可能性は、大いにあるというわけだ。進展を楽しみに待ちたいところである。
INFORMATIONアイコン
DIC川村記念美術館1990-2025 作品、建築、自然
DIC川村記念美術館
2月8日~3月31日
https://kawamura-museum.dic.co.jp/
(山内 宏泰)
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