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史上最低視聴率でスタートし…「ヒロインは無理だと思っていた」当時24歳の松下奈緒が朝ドラを“変えた”ワケ

文春オンライン / 2025年2月8日 6時0分

史上最低視聴率でスタートし…「ヒロインは無理だと思っていた」当時24歳の松下奈緒が朝ドラを“変えた”ワケ

松下奈緒。2月8日に40歳の誕生日を迎えた ©時事通信社

 NHKの連続テレビ小説の総合テレビでの放送時間が従来より15分前倒しされて、午前8時ちょうどに始まるようになってから今春で15年が経つ。2010年当時、朝ドラは視聴率が低迷しており、放送時間の変更はテコ入れの一環として行われた。その記念すべき最初の作品となったのが、マンガ家・水木しげるの半生をその妻の立場から描いた『ゲゲゲの女房』である。

 同作はスタート時こそ、朝ドラの初回視聴率の最低記録を更新してしまったものの、貧しい生活のなかでもマンガへの情熱を失わない夫と、それを健気に支える妻の関係がしだいに注目されるようになる。当時普及しつつあったSNSでも連日話題にのぼり、その相乗効果もあってか視聴率は回が進むにつれて上昇、最終回では20%を超えた。それより前の10年間の朝ドラは現代物が主流であり、昭和の高度成長期以前の時代が舞台で、なおかつ特定の実在人物を主人公のモデルとした作品はわずか2作にとどまったが、『ゲゲゲの女房』のヒットを機に再び主流となる。それほどまでに同作の残したインパクトは大きかった。

2004年、音大在学中に俳優デビュー

 この『ゲゲゲの女房』で主人公の水木しげる夫人・布美枝を演じたのが、きょう2月8日に40歳の誕生日を迎えた松下奈緒だ。松下は東京音楽大学在学中の2004年、ドラマ『仔犬のワルツ』で俳優デビューした。音大ではピアノを専攻し、デビュー以来20年間、俳優と音楽の二刀流を貫く。ドラマや映画への出演とともにコンサートやアルバム制作をコンスタントに続け、演奏だけでなく作曲家、歌手としても才能を発揮している。

 一昨年(2023年)より大阪・朝日放送の旅番組『朝だ!生です旅サラダ』でMCを務めているが、松下自身、関西の奈良県に生まれ、兵庫県で育った。ピアノを始めたのは3歳のとき。同じ歳でバレエも始め、小学校時代も継続したが、中学に上がるとき、ピアノとレッスンの曜日が重なり、どちらか選ばなければならなくなる。バレエは小柄なほうが有利とされ、すでに背が高かった松下は迷わずピアノを選んだ。そういえば『ゲゲゲの女房』の布美枝は長身がコンプレックスだったが、松下自身も長らくそうだったという。かつて好きだと告白した男の子に長身を理由にフラれたこともあったと、フォトブックで明かしている(松下奈緒『Laugh & Leilani』ワニブックス、2010年)。

寝る時間以外はずっとピアノ漬け

 しかし、そのスタイルを活かし、高校に入学した2000年には世界最大規模のモデルコンテスト「エリートモデルルック」の日本大会に出場するとグランプリを受賞。これをきっかけにモデルの仕事を始めた。それと並行して、高校2年のときには音楽大学を目指し、本格的に先生についてレッスンを受けるようになる。

 もっとも、音大を受験する子はたいてい小学生ぐらいから準備しており、そのぶん松下は出遅れていた。そのハンディを乗り越えるべく寝る時間以外はずっとピアノを弾き続け、志望する東京音大の先生からもレッスンを受けるため、月1度ほど東京に通った。だが、入試まで数ヵ月に迫ったある日、その先生から「本当に受ける気あるの? 落ちるわよ」と言われてしまう。ショックを受け、もうやめたほうがいいかなとも考えたが、《でも、ここでやめたら何も残らない、あと数ヵ月のことだし、もう一度初心に戻ってやれるだけのことをやろうと。残りの期間で最後の追い込みをして、それがあったから受かったんだと思いますね》と、後年振り返っている(『週刊文春』2011年1月27日号)。

『ロンバケ』の山口智子に憧れて……

 じつは高校時代にはすでに「女優をやりませんか」とスカウトされていたが、受験と二つ同時にはできないと、合格するまで待ってもらったという。俳優になることは、小学5年生のときにドラマ『ロングバケーション』でヒロインを演じる山口智子に憧れてからというもの、ひそかな夢だった。音大入学とともに事務所に入ると、いくつかオーディションを受け、先述のとおりドラマでデビューする。大学時代は、できるかぎり出演オファーに応えられるよう、毎日授業の単位の計算をしてはスケジュールを調整していたとか。

「中途半端な気持ちじゃ絶対にできない世界なんだ」

 そんなふうに学業と両立させながら演技の仕事を始めたものの、こちらも生易しい世界ではなかった。彼女はそのことを2本目のドラマ『人間の証明』(2004年)で痛感する。同作で共演したのは竹野内豊のほか、緒形拳、松坂慶子とベテランばかり。《そんな先輩たちがさらに努力をして必死に演じているのを目の当たりにして、(中略)中途半端な気持ちじゃ絶対にできない世界なんだと、思い知りました。さらに、この作品の監督もすばらしい方で、たくさんの指導をしていただいたおかげで、演技の難しさ、楽しさ、深さを考えるようになりました》という(前出『Laugh & Leilani』)。

“無理だと思っていた”朝ドラヒロインに抜擢

 音大卒業の前年、2007年にはNHKのドラマ『グッジョブ〜Good Job』で初主演を務める。同年度後期の朝ドラ『ちりとてちん』ではピアニストとしてテーマ曲を演奏した。もちろん、俳優として朝ドラのヒロインを演じることも目標の一つではあったが、松下のなかでは10代のフレッシュな人がやるイメージがあり、すでに20代になっていた自分には無理だとも思っていたという。それが先述のとおり朝ドラのリニューアルとも重なり、24歳にして『ゲゲゲの女房』のヒロインに抜擢される。

 朝ドラで10ヵ月のあいだ一つの役に取り組んだ経験は松下にとって大きかった。演じるうち《ひとつひとつの布美枝の行動や決断が、自分のものとして感じられるようになっていったんですね。だから、布美枝の思い出や経験は、自分の思い出や経験にもなっているんです》とクランクアップ後に顧みるほど役にのめり込んだ(『ステラ』2010年9月24日号)。

「朝ドラのおかげで貪欲になれた」

 こうして布美枝の役は、松下自身にも、また視聴者の側にも大きなものを残すことになる。それだけに《その役を手放したとき、次はどうすればいいのか、どういう役に巡り合えれば再び夢中になれるのか、とても怖かったですね》と明かしている(『日経エンタテインメント!』2011年5月号)。ただ、彼女は続けてこうも語っていた。

《好きだった役を離れるのがイヤだった一方で、「休みたくない」とも強く思いました。一息つくと、朝ドラで得た感覚を忘れてしまいそうな気がしたんです。朝ドラのおかげで自分は時間に追われて走っているほうが合っていると分かったし、それまでよりも貪欲になれたと思うんですよね》(同上)

 そんな松下をドラマ関係者は放っておかなかった。『ゲゲゲの女房』の翌年、2011年には民放ドラマ初主演となった『CONTROL~犯罪心理捜査~』で、融通のきかない頑固な熱血刑事という布美枝とはまったく違う役に挑む。その後も、『闇の伴走者』(2015年)では一見クールながらドジなところもある元警察官の調査員を演じるなど、役の幅を広げていった。昨年放送の『スカイキャッスル』でも、子供を医大に入れるため執念を燃やす母親を好演し、新境地を感じさせた。

個性的な男性のパートナーの役に

 他方で、『芙蓉の人』(2014年)では気象学者である夫の野中到とともに富士山頂での越冬観測に挑んだ野中千代子、2017年放送の『時代をつくった男 阿久悠物語』と『トットちゃん!』ではそれぞれ作詞家の阿久悠、バイオリニストの黒柳守綱の妻と、『ゲゲゲの女房』のあとも史実にもとづくドラマで個性的な男性のパートナーの役を多々演じている。

 松下にとって俳優の仕事は、音楽と不可分の関係にある。主演映画『チェスト!』(2008年)で初めてサウンドトラックを手がけて以来、出演作品でしばしば音楽も担当している。演じることは作曲にも反映され、《芝居をやっていて、自分の心が揺さぶられたときに、その感情を覚えておいて、帰ってからメロディーにするというのが、自然につくれる方法なんだと思いました》という(『週刊朝日』2010年9月24日号)。『ゲゲゲの女房』の撮影中も自分の役にちなんで「ふみえ」という曲をつくり、アルバム『Scene25~Best of Nao Matsushita』(2010年)に収録した。

音楽と芝居を両立しながら、20年以上仕事を続けてこられた秘訣

 一時は「音楽とお芝居、どちらかを選ばなくちゃいけないときが来るのかな」と思ったこともあったというが、続けるうち、自分にとっては両方やることが自然で、バランスが取れると気づいたと、ことあるごとに語っている。いずれも表現であることに変わりはなく、《経験したことが芝居にも音にも反映されます。そして、両方やることで自分の感情が、よりビビッドになっているように思います》という(『GALAC』2019年12月号)。

 また別のところでは、《音楽をやっているときは、のびのびとしていて素の自分に近い感じ。役を演じているときは、ドキドキする緊張感があるんです。/女優のお仕事のときは、撮影が終わったあとも、「ちゃんとやり切れたのかな」と考え込んでしまうこともあります。でも、その緊張が刺激になって、音楽に向かうときにも、いい影響を与えてくれます》と、二つの居場所があるおかげで気持ちのバランスが取れているのかもしれないとも話している(『PHP』2019年12月号)。彼女が20年以上仕事を続けてこられた秘訣も、どうやらそこにあるようだ。

音楽とかかわりのある役を演じるほうが難しい

 劇中でも、音楽とかかわりのある役を演じることが少なくない。デビュー作『仔犬のワルツ』からして、当時の自身と同じ音大生の役で、《ホントにラッキーだと思います。自分の環境に近いので、心強い》と語っていた(『anan』2004年4月14日号)。だが、キャリアを重ねるうちに、むしろ自分に近い役ほど演じるのは難しいと実感するようになる。

 昨年公開の映画『風の奏の君へ』で主人公・青江里香を演じたときには、《ピアニストで作曲家である役柄としての里香と、自分自身とをどう変えていけばいいのかなと。里香の気持ちが分かる部分も大きいけれど、自分じゃないし。どこまで私でやるのか、里香でやるのか。境界線て何なんだろうな、という事が、すごく難しいと思いました》と明かした(「ピティナ調査・研究」2024年5月23日配信)。

 劇中でピアノを弾く場面でも、吹き替えなしで演奏する自信はあったものの、《自分がいつも松下奈緒として弾いている音とは違う音が出せるといいなと思いながら演奏しました》と、里香と自分の違いや、彼女がどういう思いで演奏したのかを意識しながらのぞんだという(「telling,」2024年6月6日配信)。このことからも、彼女が役としっかりと向き合い、丁寧に演じていることがうかがえる。

年齢とともに変わってきたこと

 かつて音大受験に必死の追い込みで受かった松下は、芸能界に入ってからも常に目標を立てては達成してきた。20代初めには《一年の初めに小さな目標も作りますよ。“苦手なものを食べられるようになる”という、小さな目標を立てて、本当にレバーを克服しました(笑)》とも語っていた(『anan』2007年10月3日号)。

 そんなふうに何事にも全力で取り組んできた彼女も、40歳を迎えるにあたり少しずつ変わりつつあるらしい。昨年のインタビューでは、「年齢とともに、プライベートの過ごし方にも変化はありましたか?」との問いに、《自分の時間を大事にできるようになりました。20代の頃は自分の時間を削ってでも仕事に没頭することもあり、それが楽しかったし幸せを感じていました。でも年齢を重ねて余裕が出てくると、自分に戻ってインプットする時間も必要だなと感じます》と答えている(「telling,」2024年6月7日配信)。

 数年前、コロナ禍による自粛期間もあって裁縫を始めたところ、ライブ衣装をつくるまでになったという。そんな彼女だけに、プライベートでインプットしたことも、きっと演技や音楽に反映されていくに違いない。

(近藤 正高)

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