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「ミズハラが犯人だとは思わないよ。ショーヘイは完全に有罪だ」なぜアメリカ人の多くは大谷翔平を“犯人”扱いすることをやめないのか?《ロス在住ジャーナリストは見た》

文春オンライン / 2025年2月9日 18時0分

「ミズハラが犯人だとは思わないよ。ショーヘイは完全に有罪だ」なぜアメリカ人の多くは大谷翔平を“犯人”扱いすることをやめないのか?《ロス在住ジャーナリストは見た》

©文藝春秋

 違法賭博で膨らんだ巨額の借金を返済するために、大谷翔平選手になりすまして、大谷選手の銀行口座から賭博の胴元に不正送金をした水原一平被告に、2月6日(日本時間2月7日)カリフォルニア州の連邦地裁で判決が下された。連邦検察の求刑通りの禁錮4年9ヶ月、賠償金約26億円という量刑だ。水原被告は判決に先立ち、判事に禁錮18ヶ月への減刑と情状酌量を手紙の中で訴えていたが、受け入れられなかった。

 なぜか? それは、手紙の内容についてジョン・ホルコム判事が言い切ったこの一言に答えがある。

「虚偽の陳述や重要な事実の抜け落ちで満ちている。全く信用できない」

 ホルコム判事は、水原被告の訴えが検察側の調査結果と異なっていることを突いた。例えば、水原被告は低賃金でギリギリの生活を送っていると経済的な困窮を訴えていたが、銀行詐欺疑惑が発覚した2024年3月時点では銀行口座には20万ドル近い残高があったことから、ホルコム判事は指摘した。

「これは大きな額だと考える」

 また、大谷選手が水原被告に5桁のチップとポルシェを与えたり、水原被告と妻にファーストクラスのチケットを与えたりしていたことも検察側により指摘されたが、これは手紙の中で自身の待遇に対する不満をまくし立てた水原被告の主張とは食い違うものだった。水原被告の手紙は減刑効果を全然発揮せず、逆に、連邦検察の主張を強める方向へと向かってしまったのだ。

 ホルコム判事は何より、水原被告が盗んだ約26億円が巨額であることも重大視した。その巨額さについて判事は「ほとんどの人が一生かけて稼ぐ金額より多く、また、何度も何度も人生を送って稼ぐ金額よりも多い」と言及している。

 カリフォルニア州中部地区の連邦検事代理のジョセフ・マクナリー氏も、判決後、この量刑について「犯罪の重大さを反映し、強いメッセージを送るものだ。この事件で、大谷選手は金を盗まれ、利用された。彼は水原氏に食い物にされた。水原氏は嘘をつき、騙し、盗んだ。彼の行為は恥知らずだ」と断罪した。

 アメリカでも注目されていた裁判とあって、米メディアも速報したが、その中では、大谷選手が被害者である点も強調されている。

 地元のロサンゼルス・タイムズ紙も「疑いの余地はないが、大谷氏は真の被害者であり、被害を受けてきた。これからも被害を受け続けるだろう」と検察側が求刑文書の中で訴えたことに触れている。

 有力紙ワシントン・ポストも「検察側は先月、水原被告が少なくとも当初はドジャースのスター選手自身が賭けをする習慣があるのではないかとファンが疑うような状況を作り出し、大谷選手の評判を大きく傷つけたと主張した。マクナリー氏は『大谷選手はこの事件の被害者です』と記者会見で何度も主張した」と指摘している。

「目を疑う」大谷を傷つける根拠のない“陰謀論”

 ABCニュースも「検察は、この計画は深刻かつ広範囲にわたる詐欺行為であり、大谷氏は水原氏の行為によって多大な損害を受けたと主張した」と述べている。

 NBCニュースも「検察側は、当初から、このMLBのスーパースターは単なる被害者に過ぎず、野球に賭けたことなど一度もないと考えていることを明確にしてきた」としている。

 米メディアがこぞって「大谷選手は被害者」と訴えたのは、当初、水原被告が、米スポーツメディアESPNに対して「大谷翔平選手が借金を肩代わりして、一緒に8回か9回送金した」などとウソをついていたことから、大谷選手も賭博スキャンダルに関与しているのではないかと疑いをかけられ、陰謀論が起きていたからだ。特に多かった「大谷選手が自身の銀行口座のお金がなくなっているのに気づかないのはおかしい」という見方はドジャースのお膝元のロサンゼルス・タイムズ紙もしていた。根拠のない陰謀論は、大谷選手を傷つけたことだろう。

 しかし、大谷選手は今も傷つけられている。ESPNが“X”で水原被告の量刑を報じた投稿に対して寄せられたコメントを見ると、同被告に厳罰が下されたこの後に及んでさえも、目を疑うような憶測が多々上がっているのだ。

 相変わらず、水原被告をスケープゴートとみる声は止んでいない。中には「誰もが彼はスケープゴートだと言っていた。今もそう思いますか?」という疑問を投げかけ、投票を募った者もいる。その結果は冗談ではないかと思うほど恐るべきものだ。“YES”と回答した人が56%と過半数もいたのである。

 水原被告をスケープゴートと疑わない見方はデフォルトになってしまったのか?

「ミズハラは史上最大のスケープゴートだ」「まともな人間ならミズハラが犯人だとは思わないよ。ショーヘイは完全に有罪だ」「スケープゴートのミズハラが禁錮5年とはクレージーだ」「ミズハラはスケープゴートに違いない。1700万ドルも盗んだという罪なのに禁錮が5年くらいというのは納得できないよ」「スケープゴートになるとは(ミズハラはオオタニの)いい友達だ」

 大谷選手が賭博をしていたとまで訴える声もある。

「ショーヘイがギャンブルをしていたことはみんなわかっているよ」「ミズハラはかわいそうだ」

「オオタニがミズハラを利用して賭けをしたんじゃないか?」「ミズハラは堅実だよ。賭博をしていたのは間違いなくオオタニだよ」「ショーヘイがギャンブルをしていたことはみんなわかっているよ」「ミズハラはかわいそうだ。誰かのギャンブル中毒のために犠牲になったとは」

 大谷選手はスケープゴートになった水原被告にお金を払うに違いないとみる声もある。

「オオタニはミズハラにお金を送るつもりだろう。ミズハラは態度が良ければ最長3年の禁錮で出所できるだろう」「出所したら、金をもらって裕福になるんじゃないのか」「出所したら、ショーヘイからたっぷりの報酬が与えられ、すべては魔法のように消え去るだろう」

 複数犯による犯行だとみる声もある。

「ミズハラが単独で行動したわけではないことは誰もがわかっているが、良いプレイをしているオオタニを刑務所に送りたいとは思わなかった。誰かがスケープゴートになる必要があったんだろう」

 様々な陰謀論が流布しているアメリカだが、“世界の宝”と言える大谷選手を真犯人扱いする根も葉もない投稿が“X”上に溢れているのはあまりにも悲しい。

 そして、これからも、大谷選手を中傷するようなコメントは出てくることだろう。連邦検察は求刑文書の中で「大谷氏はこれからも被害を受け続けるだろう」と述べているが、その通りだと思う。過去や現在はもちろん、将来も、大谷選手は水原被告の賭博スキャンダルの影響を受け続けることになるのかもしれない。水原被告に対する量刑は、そんな大谷選手の将来も見越して下されたものと思われる。

 ところで、水原被告は約26億円という巨額の賠償金をどのように返済するのか? 

 少額ずつなら大谷選手に返済できても、全額を返済するのは難しいだろう。ほとんど返済できない可能性は高いと思われる。だからだろう、SNSでは「1700万ドルも盗んで禁錮5年ですむなら、刑務所に入れて」というとんでもない声も聞かれる。「たったの禁錮5年?」と量刑の甘さに呆れる声もある。その意味では、日本で“厳しい判決”と言われている量刑が、米国でどれほどの犯罪抑止力を発揮できるのかは疑問だ。

事件の真実を物語る検事の言葉

 水原被告がどのような形で、どこまで返済できるのかは不透明だが、大谷選手には生涯誠意を尽くしてほしいと願う。

 最後に、前述のマクナリー氏が判決について発表した声明が、この事件の真実を物語っていると思うので紹介したい。

「水原氏は、権力と名声、そして高給を得るという、信頼される特別な立場にあった。残念ながら、彼はこの夢のような仕事を利用して、腹心の友から何百万ドルも盗んだ。これは、アメリカのサクセス・ストーリーが間違った方向に進んでしまった悲しい物語だ。あまりにも間違った方向に進んだため、水原氏は何年も刑務所で過ごすことになる」

 水原被告は、そして大谷選手は今、何を思うのか。

(飯塚 真紀子)

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