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カーボンニュートラルの陰で進む原発復権。「最大限活用」と転換した霞が関の論理

Business Insider Japan / 2021年4月30日 6時0分

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美浜発電所など運転から40年を超える老朽原発3基の再稼働について、福井県知事は4月28日、同意を表明した(写真は2011年撮影)。 REUTERS/Issei Kato

気候変動対策を最重要課題と位置付けるバイデン米大統領の呼びかけで開催された気候変動サミットに合わせ、菅義偉首相は温室効果ガスの排出を2013年比で46%削減を目指すと発表した。世界的な脱炭素の流れに抗しきれなくなった形だが、脱炭素の陰では密かに原発の復権が進んでいる。

脱炭素といえば再エネではないのか

筆者は外務省在籍時代、世界が脱炭素に舵を切った2017年から2019年にかけて気候変動担当の総括補佐として、エネルギー基本計画の策定や温室効果ガス排出削減関連の意思決定、G7、G20を含む日本の気候変動外交の立案に携わってきた。

世界的な脱炭素の流れをけん引しているのは、太陽光や風力といった再生可能エネルギー(以下、再エネ)だ。気候変動の議論が近年活発になるのと並行して、かつては高いと言われていたコストは急速に低減した。

以下のグラフを見ていただければ、コストの低減とそれによるコスト優位性、地域によってはすでに最も安いエネルギー源になっていることが分かる。

図表 世界で新たに委託された公益事業規模の再生可能エネルギー発電技術におけるLCOE(均等化発電原価:発電量あたりのコスト)。 出典:IRENA Renewable Cost Database

国際エネルギー機関が「これからの王様は太陽光」と形容するのは、気候変動の文脈のみならず、資本主義にも合致する誘因があるためだ。

いまや再エネは低コストで、エネルギー安全保障上も国内生産が可能で、そして気候変動対策にも資するエネルギー源になった。ここだけ切り取れば、日本も選択をしない手はない。実際日本政府も、再エネの主力電源化を掲げている。

問題は、主力電源化の「化」だ。これは都合のよい表現で、増加率が見られていれば「化」と取ることができる。つまりどのタイミングで主力電源になるかは分からないが、そこに向かっていれば「主力電源化」を宣言できるのだ。

日本のエネルギー行政が再エネに向かわない背景

太陽光発電所 平野の面積が限られている日本では太陽光発電所の発電量を大幅に増やすことは難しい。 REUTERS/Toru Hanai

ただ、そのようにアリバイ作り的にならざるを得ない事情も確かにある。

日本の場合は、そもそも再エネの適地が少ない。山地が国土の73%を占め、平野も人口が密集しているところが多い。再エネは太陽光であれ、風力であれ、地理的要因から制約を受けるため、発電容量を大量に増やすことが難しい。いま、政府が洋上風力に活路を見出しているのは、海であれば地理的制約から脱却できるという理由からだ。。

さらに再エネは、発電量が自然条件に左右される。電力は、需要に対して供給を合わせる需給管理が非常に重要になる。この需給管理がうまくいかなければ、大規模停電を引き起こし、その影響は甚大になる。

特に太陽光は、日中のみに発電が集中するため、1日における変動の振れ幅が大きい。コントロールしづらい電源であり、エネルギーの全体像を管理するエネルギー行政側からすれば、安易に増やしづらいという考えが根強くある。日本の場合、再エネの不安定さを平準化させる役割を石炭火力が担っているのは、脱炭素文脈からは皮肉なことだ。

カーボンニュートラル=原発となる思考

気候変動サミット 4月23日に行われた気候変動サミットの様子。各国のリーダー達がオンラインで参加し、気候変動対策の方針を確認し合った。 REUTERS/Tom Brenner

一方で、国際社会の要請で脱炭素への取組みは急務だ。

今回の気候リーダーサミットでの宣言によって、日本は2030年までに温室効果ガス排出を2013年比で46%削減しなければならなくなった。ただエネルギー行政からすれば、先述の通り再エネの大幅増は現実的ではない、政府が期待する洋上風力が大量に発電できるようになるのは2040年でこの温室効果ガス排出削減目標には貢献できない、エネルギー源としての不安定さもある、といった事由がすぐに浮かぶ。

さて、どうするか。それでこの思考様式の「型」にはめると、原発しかない、という思考につながる。

彼らの思考を代弁するならば、ロジックは以下の通りとなる。

カーボンニュートラルに必要なのはCO2を排出しない電源であり、原発もCO2排出を伴わない。再エネはこれから増設していかなければならないが、原発はすでに設備投資があり、必要なのは再稼働という意思決定だけだ。

それに固定買取制度というような補助金的な枠組みに頼ることなく、化石燃料よりも低コストで発電が可能だ。エネルギーの出力についても一度稼働してしまえば、常時一定のエネルギー出力が確保され、需給管理上も計算が立つ。

加えて、日本には原発に関する高い技術があり、原子力関連産業も多い。国際競争力や雇用の観点、産業界との調整においてもこれほどいい条件がそろっている電源はない。

このカーボンニュートラルの議論をうまく活用して、原発の必要性を再度議論し、追い風に使いたい。

このような考えにつながることも容易に想像できる。そして実際に、すでに政府はそのように布石を打ち、それに即した議論が始まっている。

「白紙から見直す」から「最大限活用」に

第一原発事故 10年前に悲劇があったにもかかわらず、日本はこれからも原子力に依存し続けなければいけないのだろうか。 REUTERS/Air Photo Service

時系列で原発に関する政府の説明ぶりをみていきたい。

福島第一原発事故前までは原発ルネサンスと言われ、事故前の民主党政権は、2030年までに少なくとも14基以上の原発を新増設する計画を掲げていた。しかし、事故を受け、当然、この方針を撤回する。

2014年安倍政権下で改定された第4次エネルギー基本計画では、

「震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する。ここが、エネルギー政策を再構築するための出発点であることは言を俟たない」

と、事故の反省を全面に出す方針発表となった。

この方針が、2018年の改定では、

「原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」

という形で、原発については再稼働は前提とするが、依存度は減らしていくという減少トレンドだけを記載する形に修正。再稼働はあきらめないが、国民感情も踏まえ依存度は低減するというこの表現が、長らくセットで用いられてきた。

それが、カーボンニュートラル宣言を機に変更されることになる。

2020年末に示されたグリーン成長戦略においては、

「原子力については、確立した脱炭素技術である。可能な限り依存度を低減しつつも、安全性向上を図り、引き続き最大限活用していく。安全最優先での再稼働を進めるとともに、安全性に優れた次世代炉の開発を行っていくことが必要である」

との記載に変更。先ほど解説した思考様式がそのまま反映されているかのような「確立した脱炭素技術」に始まるこの記載の中で最も注目すべきは、「最大限活用」の表現。これはこれまでなかった表現であり、さらに「最大限」というのは、状況が許す限りマックスまでやるという意味合いを持つ、政府が書く表現としては非常に強い表現である。

この表現を見ると、いかに着実に、原発行政に関して寄り戻しをしてきているかが分かる。そして、このカーボンニュートラルの波は、原発の再稼働に向けては、逃してはならない大波であるととらえていることは間違いはない。

原発復権にカーボンニュートラルは渡りに船

菅首相 連日、コロナ関連の会議に追われている菅首相だが、気候変動対策に関しても定期的に有識者会議を開いている。 Eugene Hoshiko/Pool via REUTERS

政府は何かを重要な意思決定をするときに、形式上、有識者会議を招聘する。コロナ対策がその典型だが、これは、政府が恣意的に意思決定したのではなくて、有識者の知見に基づいて意思決定をしているという形をとるためだ。エネルギーに関する議論もまさにその形をとっているが、その有識者は巧妙に選定されており、当然政府の息のかかった有識者も、ということが多い。

カーボンニュートラルに向かうグリーン成長戦略が発表されたのと同時期に開催された総合資源エネルギー調査会基本政策分科会というエネルギーの大枠を話し合う会議は、それを象徴する場となった。

発端は、脱炭素文脈から入った資源エネルギー庁の局長の発言だが、かなりの時間を原子力に割いたそのポイントを要約すると、以下の5つに要約される。

脱炭素に向けて再エネのみならず、原子力を含め活用する 原子力は、電力の安定供給、経済効率性、脱炭素文脈での優位性の利点がある 世界各国はカーボンニュートラルの手段として原発を活用しているのが実情 安全性は追及した上で、初期コストの高い原発は稼働するならば長期を視野 新しい原子力技術へ挑戦

これに対して、驚くほど、先ほど述べたエネルギー行政側の意見に寄り添い、そして後押しする意見が続いた。

これまで「ベースロード電源」(発電コストが安価で安定的に供給できる電源)という表現で原発の重要性を維持しながら、再稼働に関する難しいかじ取りをしてきた原発推進派にとって、カーボンニュートラルは渡りに舟なのである。少なくともこの象徴的となった審議会においては、カーボンニュートラルをテコに原発推進をしたい意向が隠し切れない格好となった。

原発の復権に向けたトーンセッティングを、政府の中ではこうして着々と進め、来る日の足固めをしているように見える。

既存の思考の枠にとらわれたエネルギー行政

いずれにしても2030年までに温室効果ガス排出を飛躍的に減少させないといけない中で、これまで長くお家芸として育ててきた原発への思いを捨てきれない気持ちも、選択肢として取らざるを得ないと考える思考様式も分からなくはない。少なくとも、高い脱炭素目標を立てたときに、結果として一時的な移行期の手段として原発という選択を取らないわけにはいかなくなるだろう。

ただ、世界が着々と再エネ比率を向上させ、蓄電池や水素も視野に入れながら、未来のモデル作りを行っている中、いまの日本での議論は、積極的に未来志向のモデル作りにチャレンジするというより、既存の思考の枠にとらわれているようにも見える。

あれだけの事故が起きたことでエネルギー源としての期待値計算が変わってきた中で、復権ありき、長期依存の形で議論が進むことの是非は問われてもいい。

(文・前田雄大)

前田雄大:EnergyShift発行人兼統括編集長(afterFITメディア事業部長)。1984年生まれ。2007年、東京大学卒後、外務省入省。開発協力、原子力、大臣官房業務などを経て、2017年から気候変動を担当。G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草や各国調整を担当し、宣言採択に寄与。パリ協定に基づく成長戦略など各種国家戦略の調整も担う。2020年より現職。群馬県に移住、平日は東京滞在の二拠点生活。YouTubeのエナシフTVでキャスターも務める。

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