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自説を「世界」「国際社会」とすり替える日本の新聞。中国の孤立という「つくられた」虚構

Business Insider Japan / 2021年7月27日 6時50分

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2021年6月28日、中国共産党創立100周年を記念し、北京国家体育場(愛称:鳥の巣スタジアム)で行われた祝賀行事。日本では、習近平国家主席の絶大な権力にフォーカスした報道が数多くみられた。 Kevin Frayer/Getty Images

「国際社会は国安法撤廃を求める声を上げ続けたい」

「中国共産党は世界との溝埋める努力を」

香港、台湾や中国を論じるメディアが、「国際社会」や「世界」という主語を使って中国を批判する記述が目立つ。

自己主張と「世界」を一体化させ、それと中国が対立する構図のなかで論理を展開するのだが、「世界の大半の国」をイメージさせる「世界」や「国際社会」とは、果たして実体のある存在なのか。

中国が世界で孤立しているという自説を補強するための権威づけとして、「世界」や「国際社会」なる言葉を都合よく使ってはいないか。

社説なのに「大多数」を主語に語る新聞

メディアが使う例から、実証的にその内実を解剖してみる。

冒頭に引用したうちの後者「中国共産党は世界との溝埋める努力を」は、創設100周年を迎えた中国共産党について日本経済新聞(7月2日付)が掲載した社説。「中国の常識は、世界の非常識」とでも言わんばかりのタイトルだ。

同社説は、改革開放政策(=社会主義の看板を掲げながら市場経済を進める路線)が、中国を世界第2位の経済大国に発展させたことを評価したうえで、「政治改革は一向に進まず、一党独裁体制の中国と民主主義陣営の摩擦はかつてないほど先鋭化している」と批判する。

ここでは「世界」という言葉は「民主主義陣営」という言葉に置き換えられている。世界各地で権威主義的色彩を強める国が増えるなか、「民主主義陣営」というカテゴリーが何を指すのか判然としない。

続いて社説は、米中対立の激化を避けるには「(中国が)国際社会、とりわけ自由主義諸国との溝を埋める具体的な行動に踏み出すのが先決」と主張する。

今度は「世界」を「国際社会」「自由主義諸国」と言い換えるのだが、いずれの定義も依然としてあいまいであることに変わりない。

日本語は主語が欠落しても理解できる言語のひとつ。そこであえて新聞社のポジション=主語を明確にする数少ない記事が社説であると言える。

にもかかわらず、「われわれ」や「本紙」などを主語とせず、「大多数」「大半」を意味するあいまいな言葉で語ろうとするのには、何か政治的意図がひそんでいるのではと疑わざるを得ない。

バイデン米政権は「民主主義対専制主義」との表現で各国に「アメリカか中国か」の二元論的な選択を迫るが、アメリカに呼応する国は決して多数とは言えず、国によって対応はさまざまに分かれている。

そんななかで日本経済新聞が使う「世界」「国際社会」などの表現は、「統一した世界意思」があるかのようなイメージをつくり出し、中国が孤立している印象を際立たせる効果がある。

強引な「色分け」にもとづく社説に説得力ナシ

次に、冒頭前者の「国際社会は国安法撤廃を求める声を上げ続けたい」という東京新聞(6月25日付)の社説をみてみよう。

東京新聞も日本経済新聞と同様、「国際社会」という主語を使う。

中国で香港国家安全維持法(国安法)が施行された2020年6月、スイス・ジュネーブで開かれた国連人権理事会では同法への賛否を各国に問い、結果は「反対」が日米・欧州など27カ国だったのに対し、「賛成」はその倍近い53カ国だった。

香港問題は「中国の内政であり干渉すべきではない」というのが大方の理由だったが、日本のメディアは、国安法に賛成した国の多くが「権威主義国家」「独裁国家」と冷淡に報じた。

反対した27カ国の顔ぶれをみてみると、その多くは欧米諸国で、アジア・大洋州から反対票を入れたのは、日本とオーストラリア、ニュージーランド、パラオ、マーシャル諸島の5カ国だけだった。

インド、韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国など、アジアを代表する多くの国は反対していない。

そうした事実に注目し、理由を分析するのもメディアの重要な役割ではないか。

「権威主義」「独裁」といった決めつけ、色分けに満ちた社説が、「国際社会は国安法撤廃を求める声を上げ続けたい」と書いても、あまり説得力はない。

中国との距離は各国さまざま

バイデン政権は外交の柱に「同盟再構築」「多国間主義」を掲げ、二国間・多国間枠組みのなかで、中国を名指し批判して排除する外交をくり広げてきた。

まずは2021年3月、日本とアメリカが外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で、中国を名指しして「威圧や安定を損なう行動に反対」と明記。「中国の脅威」に対抗するため日米協力の強化をうたった。

そのトーンは翌4月の日米首脳会談および共同声明にそのまま引き継がれた。

さらに、6月にイギリスで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、日米が強く主張した台湾問題の明記をはじめ、香港、新疆ウイグル問題で中国を名指し批判し自由と人権への尊重を求める文言を盛り込んだ。

台湾問題の明記や中国の名指し批判に消極的だったフランスとドイツは、激論の末、最終的に日米の要求に従い、名指し批判に応じたが、決してすんなりと決まったわけではない。

こうして「同盟再構築」というアメリカの狙いは、日米間とG7では何とか達成された。

だが、日米両国が共通の外交・防衛戦略にする「自由で開かれたインド太平洋」の中核として重視する日米豪印4カ国首脳会合(Quad、クアッド)の共同声明(2021年3月)では、伝統的に非同盟のポジションを貫くインドに配慮し、中国批判は一切封印されている。

インドの非同盟姿勢は、米中のバランスのなかで安定を求めようとするASEAN加盟国も共有する。

さらに、中国やインド、ロシアなど新興国の代表が入る20カ国・地域(G20)となると、対中批判はもちろんできない。実際、6月のG20外相会合は中国批判を一切封印した。

また、7月2日にオンライン開催された日本・太平洋島嶼(しょ)国首脳会合も、中国の友好国が多いため、名指し批判どころか「自由で開かれたインド太平洋」への支持も明確に打ち出さなかったことをつけ加えておきたい。

会合後の首脳宣言には、「法の支配に基づく自由で開かれた持続可能な海洋秩序の重要性」との文言が盛り込まれたが、島しょ国側の関心は「中国の海洋進出」ではなく、地球温暖化に伴う海水面の上昇問題や、プラスチックなどの海洋ごみ、核廃棄物などの汚染物質対策にある。

日本政府が4月に決定した東電福島第一原発の「処理水」海洋放出について、首脳宣言は、日本政府に安全性を確保するよう注文をつけたほどだ。

元国際司法裁判所長・小和田恒氏の視点

okada_china_newspaper_owada 2011年7月、オランダ・ハーグの国際司法裁判所で判決文を読み上げる小和田恒氏。 REUTERS/Michael Kooren

元国際司法裁判所長の小和田恒氏(元外務次官)は、朝日新聞のインタビュー(7月20日付)で、「国際社会」の定義について、元来は「欧州中心の主権国家が併存する近代的国際秩序の枠組み」と説明する。

小和田氏は、2度の大戦を経て「国際社会」の中身は大きく変わったとみる。

彼は冷戦終結とグローバル化によって、新興国が加わった新たな「国際社会」ができるはずだったが、冷戦終結を「アメリカ中心の資本主義の勝利」とみる誤解によって、転換は進まなかった。

その誤解は、冷戦終結直後から一時「アメリカ一極支配」時代を生み出した。さらにいま眼前に広がっているのは、中国が絡むほぼすべてのアジェンダをめぐり、対立・分化が際立つ世界の姿だ。

小和田氏は、冷戦終結後のあるべき変化として、新興国がメンバーの多くを占め、温暖化やコロナ禍などグローバル課題に取り組むことのできる「地球社会」に置き換わるべきと語るが、新しい「国際社会」の姿はみえていない。

「世界」「国際社会」「民主主義国家」の実像

アメリカの若手研究者からは最近、バイデン政権の「民主主義対専制主義」という二元論外交を批判し、「民主主義国家」とは、アメリカとイギリス、フランス、日本など、旧植民地主義国家による「金持ち民主主義国」を指すに過ぎないと批判する論文が発表されている。

その主張は、バイデン外交が「民主主義国家」から、ブラジル、インド、インドネシア、メキシコ、南アフリカなど「グレーゾーン」国家を排除し、実質的には「南半球の貧困民主主義国家を無視して、富裕と貧困の対立と衝突を深める結果を招いている」と、厳しく指弾する。

「世界」と「国際社会」の中身を点検すれば、アメリカと日本、欧州の一部国家とオセアニアなどであり、決して「世界の大多数」ではない。国連加盟国だけでも190を超えることを考えれば、「ひと握り」と言ってもいいかもしれない。

「民主主義国家」も、引用した論文の主張を汲めば、旧帝国・植民地主義国家を中心とする「金持ち民主国家」であり、それらの国々に「世界」の意思を代表させるのは無理がある。少なくとも「世界の大多数」とは言えないだろう。

自らをあたかも「世界」や「国際社会」と一体視させる言葉を使うメディア記事に出会ったときは、メディアリテラシー(=情報の真偽を確かめる力)を発揮し、その内容が検証に耐えられるものかどうか、厳しくチェックしたい。

(文・岡田充)

岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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