時代の寵児だった松井証券の凋落…なぜネット証券のパイオニアは業界トップになれず

Business Journal / 2020年6月15日 5時50分

 松井道夫氏は異端児である。証券界の多数派の逆を行く。

「営業マンはいらない。インターネット上で顧客に株式を売買してもらう」

 95年に社長の椅子に座った松井氏が、社運を賭ける決断をしたのがインターネット取引である。インターネット時代の到来を見据え、店頭での対面営業を廃止し、ネット証券会社として産声をあげた。99年に株式手数料が完全自由化されたことを受け、手数料が安いネット証券が相次いで誕生した。松井証券は返済期限のない信用取引を業界で初めて導入するなど斬新なサービスを投入し、シェアを拡大した。それまで無名に近かった松井証券は、ネット証券会社の先駆けとなった。

 手数料自由化とデイトレードの隆盛に乗って「1日定額制」「無期限信用取引」など新機軸を次々と編み出し、松井証券はネット証券の先頭を走ってきた。しかし、輝いていたのは2000年代の半ばまで。手数料の値下げ競争で出遅れ、シェアを落とした。

 ネット取引をする顧客の多くはIPO(新規株式公開)銘柄を事前に手に入れるのに血眼になっていた。ところが、松井氏が野村、大和、日興などのIPOの大手独占を批判して挑戦状を叩きつけたため、野村などを怒らせ、IPO銘柄を割り当ててもらえなくなった。それで客離れが進んだ。

SBI証券、楽天証券に大差をつけられる

 手数料の引き下げ競争は、ついに「ゼロ時代」が視野に入ってきた。ライバルのSBI証券や楽天証券は対面営業や法人関連サービスを拡充して収益源の多様化を図ったが、松井証券は株式売買の仲介を重視してきた。

 営業方針の違いが決算に如実に現われた。SBI証券の20年3月期の売上高にあたる営業収益は1244億円、本業の儲けを示す営業利益は421億円。楽天証券の19年12月期の営業収益は560億円、営業利益は112億円。対して、松井証券の20年3月期の営業収益は241億円、営業利益は89億円である。営業収益では楽天証券がSBI証券の半分以下、松井証券は楽天証券の半分以下だ。20年間、先頭を走っていた松井証券は新規参入組に次々と追い越され、現在では大差をつけられた。創業家出身の社長でなければ、とうに社長交代に追い込まれていただろう。

「古いものを捨ててきた自負心がある」。退任する松井氏は、約30年の経営者人生をこう振り返る。新しいものを生み出すには古いものへの決別は不可欠だが、ネット証券という新しいビジネスのトップランナーには結局、なれなかった。

 新しい社長になる和里田氏は「ネット証券の置かれている状況は20年前と大きく変わった。顧客との接点をいかに広げるかが非常に大きな課題だ。独立系だからこそ業界の垣根を越えた提携ができる」と語り、異業種提携に意欲を見せる。

 松井氏は退任後、夢だった絵を描いて暮らすのが楽しみだという。もともとは東京芸術大学志望だったが、芸大出の高校の美術部顧問の先生に、「芸大を出ても絵を描いて生活していくのは難しい」と言われ諦めた。初心忘れ難しなのだろうか。一橋大学では美術部に所属。今でも時間が許せば自宅で絵を描いている。

(文=編集部)

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