“わがままな”俳優・綾野剛、故郷で見せた涙にみる魅力の秘密…厳しさと可愛らしさの同居

Business Journal / 2013年7月25日 18時0分

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 ドキュメンタリー番組を日々ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で“裏読み”レビューします。

【今回の番組】
7月7日放送『情熱大陸〜綾野剛』(TBS系)

 歯磨きしながらインタビューに答える人を初めて見た。

「もう何言ってるんだかわからないよ。もごもごしちゃってるし、シャカシャカうるさいからさ」と爆笑しながら自身の行動にツッコミを入れるが、どうやら彼は「昨夜は、ドラマの打ち上げで盛り上がり、全然寝てない」ということを伝えたいようだ。綾野剛はadidasのジャージ姿で机に向かって爆睡する。「駆け抜けてきた、この一年」と倒置法がばっちり決まった『情熱大陸』ならではのナレーションで番組が始まった。

 とにかく仕事が忙しく、ギリギリな状況にいるということが伝わるオープニングではあった。全身黒ずくめの服にマスク。まるで悪役のような姿にぎょっとさせられたかと思えば、自身の写真集発売を記念した握手会では、当日券を大量に出すことに反対。朝早くから並ぶファンを無視するかのような、過剰なサービスを否定した。その時、スタッフに対して「(朝早くから並んで待っていたファンに対する)礼節でしょ」と説得した。こんな言葉を自分のファンに向けて使う役者を僕は知らない。何度もこの言葉を繰り返し、ナレーションに「古風なところが、この男にはある」と語らせた。

 その一方、ロケバスではお弁当をニコニコ笑いながら食べ、迷い箸さえ見せてくれるのだ。厳しかったり、可愛らしかったり、まったくくるくると表情を変えて、実に面白い。また、ドラマの撮影では、スタッフに緊張を強いるほどの迫力ある演技を見せたかと思えば、「OK」の直後にスキップを披露する。「(役者としての顔を)オフります」と宣言し、カメラの前でも突然、寝始めてしまう。こんなにもつかみどころのない役者って、実にいいな、と思う。さまざまな人格やキャラクターを演じる仕事なのだから、わがままで、自由で、破天荒なほうが面白い。

●少年時代を過ごした故郷をめぐる

 画面の左上に残るテロップは「故郷で涙……謎の男の過去と素顔」だった。この文章の通り、カメラは綾野剛の故郷へと向かう。初日は飲み会。行きつけとおぼしき居酒屋の鮎の塩焼きを「そのままでどうぞ」とスタッフに勧める。さらに、ふと「岐阜だからね」と口にするのだが、これだけで彼が何を言わんとするかがわかってしまう。綾野剛は、ニュアンスで物事を伝えるのが実にうまい。すべてをこと細かく伝えなくても、ちょっとした仕草や表情、会話のボリューム、選ぶ単語で意味が伝わる。そんな風にして周囲の人たちと関係をつくるのが得意なのかな、と想像するが、彼がそこまで意図的なのかはわからない。でも、役者としては素晴らしいコミュニケーション能力だと思う。

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