なぜシャープは批判“報道”されるのか?いま社内で静かに進む、組織改革の実像と行方

Business Journal / 2013年9月16日 7時0分

 高橋社長は、社長就任発表後、金融機関への挨拶回りを終えた5月17日に全社員に向けて、「シャープはチャレンジ精神をなくしている。このおかしな企業文化を変えよう。10年後、20年後も、残る会社にしよう」と呼びかけた。その際、中期経営計画の内容には触れていない。社長がコロコロと替わり、社員が動揺するのがよくない。彼らの心をしっかりつかむことが最優先課題である、と考えたからだ。

●旧経営陣との新しい関係

 最近、シャープ社内からこんな情報も得た。

「今でも、辻さんは、やる気満々。『私がもう少し若ければなあ』と言っています」

「辻さん」とは、社長、相談役を務めた後も特別顧問として残り、高橋社長就任と同時に退任した辻晴雄氏のことである。奥田氏が社長に就任した後も、大赤字の責任をとって退任し代表権のない会長になった片山幹雄氏だけでなく、片山氏の前任社長の町田勝彦氏が相談役として、さらにその前任である辻氏が取締役会での影響力を持ち続けたことで、「シャープの経営は3頭体制」とマスコミから批難され続けてきた。金融機関からも同様の声が出ていた。

 最近、私の書斎を整理していると「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/2004年3月27日号)が出てきた。カバーストーリー(特集)のタイトルは「7つのキーワードで読む液晶王国 シャープ」である。当時は同誌だけではなく、ほとんどのマスコミ、ジャーナリストが絶好調のシャープを描いていた。私も同年6月に『シャープの謎』(プレジデント社)を上梓し、町田社長(当時)率いる同社の強いコア事業を持つ多角化戦略について論じた。

 この頃は、シャープ社内やマスコミだけでなく、世の中も「液晶王国シャープ」の行方に注目。シャープの社員は「うちは歴代、経営者に恵まれていますから」と口を揃えたように言っていた。当時、経営陣の側にいた社員は今、「誰もがシャープの未来を疑わず、今のような苦境に陥るとは想像もしていなかった」と振り返る。

 暴論に聞こえるかもしれないが、ここで、敢えて私論を提言しておこう。「成功と失敗の両方を経験した」、いや、「天国と地獄の両方を見た」重鎮でやる気満々の辻氏に意見を聞いてみてはどうだろうか。「3頭体制」と揶揄された頃とは環境も変わった。金も地位も名誉も気にしていない健康な80歳の元経営者は、損得勘定抜きで思いもつかぬ老練な知恵を授けてくれるかもしれない。辻氏、場合によっては町田氏にも老害ならぬ老益を期待したい。「今の私には関係ないこと」と突き放してしまうよりは、ボランティア精神を発揮し、実践知に裏付けられた意見を提示することで、晩節を汚さず有終の美を飾ることができるのではないか。

 退任した役員たちは、けじめをつけないといけないが、現経営陣と「新しい関係性」を築けるか否かは、高橋社長の腕の見せ所である。建設的な関係を築き経営が好転すれば、株主や銀行からも文句を言われる筋合いはない。

 維新の旗手である高橋社長にとっては旧幕勢力に頭を下げたくないかもしれないが、ここは、NHK大河ドラマ『八重の桜』で見られる新島八重の兄である山本覚馬に学び、仇敵と冷静に対話することも重要ではないか。昨日の敵は今日の友である。会津藩の什の掟(じゅうのおきて)にあった「ならぬことはならぬものです」という考えは、どの経営者も持っている。だが時には、状勢を敏感に察知し、柔軟に対処することも求められる。
(文=長田貴仁/経営学者 ジャーナリスト)

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