交通事故で危篤状態の男性は、なぜ奇跡的回復を遂げたのか?ある父と家族の記録

Business Journal / 2013年10月17日 18時0分

写真

 ドキュメンタリー番組を日々ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で“裏読み”レビューします。

【今回の番組】
 10月6日放送『NNNドキュメント~くちパクでI Love You 全身麻痺の父と家族の記録』(日本テレビ系)

 スターダストレビュー、ビリー・ジョエルが紹介程度ではなく、明確な意図を持って流れていた。10月6日放送の『NNNドキュメント』は日曜の深夜にもかかわらず、まるで音楽ドキュメンタリーを見ているような気分になれた。音楽と映像が、生きる道具として活用されている様が伝わってきて、ドキュメンタリー制作者としては「作品づくり」という観点でしか映像を撮れていないことを実感させられた。

 島本敬士(53)さんと家族にとって、映像はコミュニケーションの道具だった。番組で紹介されるそれには、旅の思い出が詰め込まれている。デジタルビデオテープの山には、ディズニーランドで笑う幼い息子たちの姿や、柳川の川下りを楽しむ様子などが残されている。

 父親が回すカメラの視点は、プロには撮れない温かいまなざしが感じられる。また音楽は夫婦の愛を伝える道具でもあった。妻の桂代(47)さんが好きだったスターダストレビューのコンサートに敬士さんを誘ったことで2人は距離が縮まり、結婚に至ったという。

●危篤状態からの回復

 敬士さんは5年前に交通事故に遭い、危篤状態に陥った。その時、桂代さんは夫の耳元でこの思い出の曲を聞かせ続けた。そして敬士さんは意識を取り戻した。奇跡ともいえる回復だが、声を失い、首から下は動かせない状態。自発呼吸ができないため、気管切開をしたのだ。ハンディカムカメラが、その当時を撮影していた。

 カメラを回しているのは桂代さん。麻痺のため、表情はわかり難いがカメラを止めるように訴える敬士さんに対し「もういいとか言いなさんな。自分が頑張っている姿を後で見るのもいい」と言い張る。この記録が、いつかいい思い出になることを信じているし、そうならなきゃいけないと覚悟を決めているように思えた。

 番組スタッフが当時の撮影をしていたわけではないが、現在の桂代さんの付き添いを見ていると、相当な困難があったことが想像できる。そして2人の息子たちも父と母を支えている。長男は「お父さん、お母さんというよりも夫婦ということを感じた」と語り、次男は「自分たちが生まれる前も、こんな感じだったのかな」と想いをはせる。困難が家族の新しい一面を引き出したことは間違いない。「ベタな言い方かもしれないですけど、自分もそういう夫婦になりたいな」とまで言う弟に対し、兄はこらえ切れずに笑ってしまった。でも、そんな様子が自然で美しい。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング