急激に経済発展する国々が、こぞってクラシック・オーケストラを設立する合理的理由

Business Journal / 2018年12月31日 21時0分

 僕も何度か指揮をしたベトナム国立交響楽団で、音楽監督を長年務めている指揮者の本名徹次氏などは、日本企業のベトナム進出という好機を見事に生かし、日本企業のバックアップも取り付け、ベトナム交響楽団を見事に発展させました。ベトナム国内でも高い評価と尊敬を受けているだけでなく、レベル向上にも力を発揮し、何度も日本公演を大成功させ、ベトナム交響楽団は日本でも知られるようになってきました。

 ほかにも、中国、韓国、台湾と、国、市のバックアップを受けて運営しているオーケストラもあります。面白いのは、台湾の長栄交響楽団です。同楽団は、世界最大級の海運会社である長栄グループの創始者・張栄發氏が設立したのですが、人件費は長栄グループが負担し、そのほかの運営資金は楽団自体が稼ぐという形態になっています。オーケストラの支出の多くは人件費なので、ある意味、経営的には盤石となります。

 さて、香港、シンガポール、マレーシアのようなアジアの主要オーケストラと、日本のオーケストラの成り立ちには、大きな違いがあります。もちろん、日本のオーケストラのすべてに当てはまるわけではないのですが、ほとんどは第二次世界大戦後に日本の急激な復興とともに、オーケストラを演奏したいと願う音楽家たちによってつくり上げられました。

 一方、ほかのアジアの国々は、植民地だったところも多く、しばらくは混乱の中で停滞していたわけで、音楽どころではありませんでした。それが、東西冷戦も終結し、中国も開放政策に転じ、世界が大きく変動するなかで、アジアが急激に発展し、お金を持つ人々も増え、「我が国にも欧米に劣らない文化を」と、オーケストラをつくることになっていきました。つまり、オーケストラをつくる計画が先にあり、大急ぎで音楽家を世界中から集めるようになったという点が、大きく異なるのです。そこには、政治やビジネスの面で重要な欧米の国々は、経済力だけでなく、文化水準の高さも、一人前の相手として付き合う上での大事な評価基準としているからです。

●芸術分野に注力する理由

 ここで日本の話になります。僕は今年3月まで静岡交響楽団の常任指揮者を務めていました。静岡交響楽団は、地元もバックアップを受け、現在も成長を遂げているオーケストラです。さて、最近になって、どうして静岡がオーケストラへのバックアップに熱心なのか、商工会議所の幹部に話を聞いたところ、このような回答でした。

「静岡は第二次産業、つまり工場が多い県です。しかし、現在、工場は雇用単価が低いアジアの国々に移転してしまい、人口も経済も流出しているのが静岡の大きな問題です。そこで現在、経済界としては、海外を含めたハイテク企業や知的産業を誘致したいと考えています。ところが、そのような企業の社員は収入や生活環境だけでは、こちらに来てくれません。彼らは文化水準も居住の判断基準にするので、静岡の芸術文化を底上げする必要があります。そんなわけで、我々静岡県としても、地元のオーケストラにはがんばってほしいと思っています」

 日本も豊かな国になりました。これからは芸術が、単なる人生を豊かにするだけのものではなく、経済的にもますます重要になっていくのではないかと思います。
(文=篠崎靖男/指揮者)

※本記事は、アジアのオーケストラを研究している立命館大学経営学部教授・近藤宏一氏の協力を頂きました。

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