新型コロナウイルスがもたらした「影のパンデミック」

cafeglobe / 2020年7月8日 5時30分

Un_4 UN Womenのレポート「COVID-19(新型コロナウイルス) 女性と女の子に対する暴力」より(2020年4月発行)

新型コロナウイルスの脅威は、私たちの目に映る世界を一変させた。感染第二波や経済状況の更なる悪化が懸念されるなか、国連女性機関(UN Women)が警鐘を鳴らすのが、女性への暴力の増加だ。

UN Womenが「COVID-19(新型コロナウイルス) 女性と女の子に対する暴力」と題したレポートを公開したのは、2020年4月のこと。このレポートが出された背景や、6月11日に日本政府が発表した「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を取り巻く日本の現状について、UN Women/ILO/EU協調プログラム「We Empower」日本コーディネーターを務める大崎麻子氏に聞いた。

「影のパンデミック」が起きている

UW_INFOGRAPH1A UN Womenのレポート「COVID-19(新型コロナウイルス) 女性と女の子に対する暴力」より(2020年4月発行)

世界で2.43億人。この数字は、過去12か月の間に、親密なパートナーによる性的・身体的暴力を受けた15~49歳の女性と女の子の数を示したものだ。

UN Womenのレポート「COVID-19(新型コロナウイルス) 女性と女の子に対する暴力」 によると、フランスでは3月17日のロックダウン以降、DVの報告件数が30%増加。キプロスでは30%、シンガポールでは33%、電話相談サービスの受理件数が増加している。

カナダ、ドイツ、スペイン、英国、米国でも、政府当局や女性の人権活動家、NGO等の市民社会組織が、DVの報告件数と緊急シェルターの需要の増加を報告。この状況を、UN Womenは「影のパンデミック」と表現した。

UW_INFOGRAPH1B UN Womenのレポート「COVID-19(新型コロナウイルス) 女性と女の子に対する暴力」より(2020年4月発行)

自然災害、紛争、感染症——これらの非常事態から、男性と女性は異なる影響を受けることが分かっていると大崎氏は語る。

「過去の教訓から言えるのは、非常事態になると女性や女の子に対する暴力が増加するということです。特に今回は『外出自粛』政策が取られましたので、DVやオンラインでの性的搾取が増加することが予見できました」(大崎氏)

DVやオンライン上の暴力は、取り返しのつかない事態になるまで外からは見えない。UN Womenがこのレポートを出したのは、広く注意喚起を促し、政府(行政機関)、市民社会組織、民間セクターがそれぞれどのような役割を果たすべきかを周知するためだった。

加害者の監視の目があり、外部にサポートを求められない

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自宅に閉じ込められるロックダウン生活においては、女性や女の子は家族である加害者から距離を置くことができない。

加害者の監視の目から外部にサポートを求めることができなかったり、支援サービス自体が休業せざるを得ない状況にあったりすることから、イタリアやフランスでは「逆に支援要請が減少している」という事態も起きているとレポートは訴える。

外出自粛で増加する“オンライン暴力”

逃げ場のない暴力の檻と化してしまうのは、家庭だけではない。UN Womenが危惧することのひとつが、オンライン上の暴力だ。

欧州刑事警察機構の報告によると、ロックダウン以降、児童虐待の画像等を求める者のオンライン活動が活発化しているという。チャットルームの使用やテレビ会議なども増えているが、ソーシャルイベントにダイヤルインする際に、ポルノ映像が送りつけられてくるなどの例も増えている。

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感染拡大とそれに伴う外出自粛で、オンライン・プラットフォームの利用は増加している。この状況を、他者を傷つけ、搾取する機会として悪用するケースが増えているのに対し、各国の法整備、教育、(防止や摘発のための)技術開発が追いついていないと大崎氏は指摘する。

「2017年のG7サミットでは『オンライン上の暴力対策』が首脳間の合意事項となり、具体的施策もリストアップ(※)されました。

日本でも6月11日に発表された『性犯罪・性暴力対策の強化の方針』には、『SNS利用に起因する中学生・高校生などの子供の性被害を防止するため、子供の性被害につながる恐れのある不適切な書き込みをサイバーパトロールにより発見し、注意喚起のためのメッセージを投稿する広報啓発活動を推進する』という施策が盛り込まれていますが、G7で合意された施策を参考にしながら、もっと幅広く議論されることが必要です」(大崎氏)

※「デジタルの文脈における性的及びジェンダーに基づく暴力、虐待、ハラスメントの撲滅に対するシャルルボワコミットメント」より。

暗号メッセージやアプリで支援

UW_1 UN Womenのレポート「COVID-19(新型コロナウイルス) 女性と女の子に対する暴力」より(2020年4月発行)

こうした状況下で、世界の政府や市民社会組織はどのような対策をとっていたのだろう。

UN Womenがレポートで紹介しているのは、スペインのカナリア諸島のケースだ。女性が加害者に気付かれずに通報できるように、薬局で「Mask-19」という暗号メッセージを提示すると、警察が出動する取り組みが行われた。

英国のカンブリアでは、警察が郵便配達員と宅配配達員を動員し、虐待の兆候に目配りをするよう要請。パートナーが自分の携帯電話をチェックしていることを恐れている女性のためには、一見DV関連サイトには見えない「Bright Sky(明るい空)」 というアプリを普及させ、そのサイトを通じて情報と支援が提供されたという。

日本政府の対応は?

では、日本はどうか。今回の政府の対応で評価できるのは、次の3点だと大崎氏はいう。

1. 橋本聖子内閣府特命担当大臣(男女共同参画)が、4月10日という早い段階でコロナ禍におけるDV・暴力対応に取り組むというメッセージを出したこと。

2. DV相談の形態を、SNSでも受け付けるなど多様化したこと。さらに対応時間帯を拡大し、多言語でも対応できるようにしたこと。

3. 世帯単位で給付される特別定額給付金を、DV被害者に関しては個別に受給できるような措置をとったこと。

「一方で、相談や保護は、全国の民間の女性団体やシェルターが受け皿になっています。しかし資金は足りず、ボランティアの力で稼働しているところも数多くあります。

民間団体の持続可能な運営や、人材育成に必要な財源が確保され、資金が全国に行き渡ることが重要だと思います」(大崎氏)

今できるのは「声を上げる」こと

Un_2 UN Womenのレポート「COVID-19(新型コロナウイルス) 女性と女の子に対する暴力」より(2020年4月発行)

エボラ出血熱やジカウイルスが蔓延したときも、真っ先に追い詰められたのは、最も「脆弱な層」の女性たち——不安定で、低賃金で、パートタイムのインフォーマルな雇用に就いている女性たちだったと、UN Womenは指摘している。

ロックダウンによる女性の家事負担の増加や収入の減少から、これまで少しずつ改善されてきた“有害な”男女のステレオタイプが、また助長されてしまう可能性もあるだろう。

女性と女の子に対する暴力は、特定の地域だけではない、国際社会に共通する普遍的な問題だ。非常事態時に不安定な雇用についている女性やシングルマザーが被害に合う可能性が高まるのも、各国に共通した負の影響だと大崎氏は指摘する。

「UN Womenは、過去の教訓の蓄積、そして、国際的な知見・情報網を生かしてこのようなレポートを制作し、各国の政府や民間団体や個人に対して、とるべき行動を提言しました。私たちもそれを受けて、日本の実態はどうか、日本の政策はどうなっているか、何ができていて何が欠けているのかを知ること。そして、何が必要なのかについて声をあげることが必要だと思います。

今回、DV対応に関しての動きが速かったのも、性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議が『性犯罪・性暴力対策の強化の方針』を取りまとめたことも、暴力問題に取り組む団体・活動家、そして多くの女性たちが声を上げた結果です」(大崎氏)

UW_5.jp g UN Womenのレポート「COVID-19(新型コロナウイルス) 女性と女の子に対する暴力」より(2020年4月発行)

今後は毎月の収入の変動が大きい非正規雇用の女性たち——特にシングルマザーや、物流・介護・スーパーのレジといった仕事を担うエッセンシャルワーカーに、どのような影響が出ているかの調査が急務となるだろう。

実働時間の減少による収入源や、仕事がなくても解雇されず、失業保険が出ないといった状況や、平常時の労働市場における構造的な性差別についても検討していく必要があると大崎氏は指摘する。

「暴力を容認しない社会、誰一人取り残されない社会を作るには、多くの人たちが声を上げることが不可欠です」(大崎氏)

無力に思えても、声を上げ続けることをやめなければ、変化は必ず訪れるはずだ。

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大崎 麻子(We Empower ナショナルコーディネーター / プラン・インターナショナル・ジャパン理事 / Gender Action Platform理事)
上智大学卒。コロンビア大学国際公共政策大学院国際関係修士(人権・人道問題)。 UNDP(国連開発計画)NY本部開発政策局で途上国のジェンダー平等と女性のエンパワーメント推進に携わり、世界各地でプロジェクトを手がける。東日本大震災被災地での女性支援を機に、国際協力の知見を活かして、日本国内のジェンダー問題、女性と女の子のエンパワーメントにも取り組み始めた。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー主流化専門家として、国際機関、行政機関(省庁・自治体)、NGO、教育機関、メディア等で、調査、政策立案・評価、人材育成、教育活動に携わる。近著に『エンパワーメント:働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。

◆次回は、日本政府が6月11日に発表した「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」についてレポートする。

写真提供/Un Women日本事務所

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