誹謗中傷と批判は違う。インターネットを「よい言論空間」にするために

cafeglobe / 2021年1月12日 18時30分

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インターネット空間は、メディアだけでなく、個人がさまざまな意見を発信できる場になった。あらゆる可能性が広がったことで、悪意ある発言が現れていることも確か。

MASHING UP Vol.4で、2020年11月26日(木)17時から行われたセッションでは、スピーカーにHANASHI Filmsディレクターでジャーナリストの伊藤詩織氏、文芸春秋digitalプロジェクトマネージャーの村井弦氏、モデレーターに前Business Insider Japan統括編集長でジャーナリストの浜田敬子氏を迎え、「言論空間としてのインターネット」と題して、個人とメディアの発信における課題や、これからのあり方を話した。

紙では成し得なかったオンラインメディアの可能性

モデレーターの浜田氏は、新聞社での雑誌編集者を経て、若い人にニュースを読んでもらいたい、とインターネットメディアであるBusiness Insider Japanに移った。それにより、インターネットの力によってさまざまな人に情報が届くことを実感しているという。同様に、月刊誌『文藝春秋』から文藝春秋digitalに移った村井氏は、インターネットで感じた一番の衝撃を思い返す。

「コンテンツに触れた人の声が瞬間的に返ってくることが、最も衝撃的だった。ある種、脊髄反射のようなものと言ってもいいかもしれない。気に入らない人が出ていたら、大して読んでもいないのに反応してしまう。ただし、悪い反応ばかりでもなくて、半分くらいはポジティブな反応もあると感じる」(村井氏)

モデレーターの浜田氏も、インターネットメディアに主戦場を移したことで、大きな力を感じるに至った。

「さまざまな社会の問題をテーマとして取り上げると、インターネットならすぐに意見が集まる。なかなか読者の声が届かない雑誌と比較すると、その圧倒的なパワーに驚いた。最も顕著な例では、私たちの記事がインターネットで拡散され、テレビから取材を受けたり、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストにも取り上げられたりと、世界中に広まった。これは紙の雑誌ではありえなかったことだと思う」

オンライン上の誹謗中傷によって何が起こるか

media_01 文芸春秋digitalプロジェクトマネージャー 村井弦氏

一方で、SNSなどによる誹謗中傷が、個人やメディアに向けられやすいのもインターネットの特徴だろう。過去に受けた性被害を公表した伊藤詩織氏は、インターネットで多発する誹謗中傷の事実をこう語る。

「今回のトピックは、私がここ数年直面し、悩んできた問題でもある。インターネット上でさまざまなことを言われるのは公表する前に想像していたつもりだったが、実際の言葉を受けると、精神的に耐えられないほど。さらに、裁判をするためにインターネット上にある言葉を探していく作業は、とても苦痛を伴うものだった」(伊藤氏)

紙の媒体と異なり、インターネットの場合は、それらの言葉を放置しておくと蓄積されてしまう。伊藤氏だけでなく、同様の経験をした人が目にしてダメージを受けることもあるからと、リサーチチームを作って対策を講じているという。

「『見なければいい』と言われることもありますが、ソーシャルメディアをはじめとするインターネットは、もはや、私たちにとって欠かせないインフラ。見るなというのは、これまで利用していた公共の道を『通るな』と言われているようなもの。日々の仕事や生活にも支障をきたしてしまう」(伊藤氏)

伊藤氏は、まだ日本の法律が追い付いていない中、同じようなことが起きないよう裁判などを進めている。

「批判」と「誹謗中傷」は明確に異なる

media_02 HANASHI Filmsディレクター、ジャーナリスト 伊藤詩織氏

SNSの個人の発言によって死に追いつめられる人がいる一方で、政治家などの権力者に対する批判はジャーナリストやメディアの責務でもある。では、「批判」と「誹謗中傷」はどのように違うのだろうか。

「批判は必要なもの。それによって対話や議論が生まれ、改善につながるきっかけになるから。一方で、誹謗中傷は改善を見据えているというより、個人の尊厳を傷つける目的で発せられていて、対話や議論が生まれない。女性からの誹謗中傷に近いメッセージが届いたことがあったが、返信をしても返ってこない。もともと、対話するという気持ちはなく、一方的な言葉で突きつけることが目的だったのでしょう」(伊藤氏)

センセーショナルな記事も多い『週刊文春』を発刊する文藝春秋社として、村井氏はまた別の角度で違いを語る。

「批判と誹謗中傷の一番の違いは、発言に根拠がしっかりとあるか、エビデンスがあるかだと考えている。たとえ誹謗中傷でないとしても、批判された側はダメージを受けるから、批判をする側にもすごく覚悟がいる。時間的なコスト、裏取りや調査などの金銭的なコストもかかる。批判する前に根拠を調べる人が、一人でも増えるよう、働きかけをしていきたいと考えている」(村井氏)

加えて、浜田氏は「何のために書くか」も大事にしている。一般の人より、公益性を考えて、政治家や経営者といった権力をもっている人を批判する。

「権力のある人が好き勝手なことをしたら、世の中に悪い影響がある。メディアは、そういったことをチェックする監視機関であるべきだと思う」(浜田氏)

個人もプラットフォーマーも、新たなステージへ

media_03 前Business Insider Japan統括編集長、ジャーナリスト 浜田敬子氏

さまざまな覚悟と責任をもってメディアを運営していても、個人としての発信と見分けがつかず「インターネットはいい加減」とみられる向きもある。

「ひとことで『フェイクだ』と片付けられてしまう構造は理不尽だと思う一方で、記者が個人としてではなく、会社として発信してきたことにも要因があると考えている。中にいるジャーナリストや編集者、記者が『自分の名前で書いている』と示すことで、読み手に覚悟が示せることもあるのでは。また、ネットメディアだからと無料で何でも提供するのではなく、有料のメディアにすることで信頼が増すのではないか」(村井氏)

「記者が自分の名前で書くのは素晴らしいと思うが、読者から見ると、それぞれの方の倫理観を把握していくのは難しい場合もある。スウェーデンではメディアをウォッチするプレス・オンブズマン(PO)という機関があり、公平でない記事には罰金や、謝罪文を掲載する義務を課せられる。同様の仕組みが日本にもあったらいいのだが」(伊藤氏)

昨今は、メディアだけでなく、SNSなどのプラットフォームを運営する側にも責任が問われるようになってきている。

「ツイッターが2020年10月に『いいね』の仕様を変更し、拡散されにくくした。それは逆に、これまで多大な拡散力があったことを示していると思う。例えばドイツでは、ヘイト的な投稿に対してプラットフォーマーが24時間以内に削除などのアクションを起こさなくてはならないという法律がある。そういった規制がないと、私のように個人的にひとつずつ報告していかなくてはならない」(伊藤氏)

対して村井氏は、事後に対処するだけでなく、プラットフォームの仕組みによる事前のアプローチも増えてきていると指摘する。

「プラットフォームを運営している時点で、構造的に暴力性が入り込む余地があるものだという前提に立つ必要があると思う。例えば、文藝春秋digitalが使用しているプラットフォーム『note』は、コメントをする前にポップアップで攻撃性がないか注意喚起する機能を設けた。発生する可能性を減らすという試みに希望を持っている」(村井氏)

トークも終盤に差し掛かり、参加者からのさまざまな質問に答えたあと、浜田氏が次のように締めくくった。

「一人ひとりによるSNSなどの使い方で、これからのインターネット空間が定まっていくのだと思う。例えば、伊藤詩織さんには誹謗中傷もあったが、たくさんの応援メッセージも届く。それは、インターネット時代だからこそではないか。新しいテクノロジーは自分たちの未来を作るもの。ポジティブに使えば、よい未来につながっていくと思う」

MASHING UPカンファレンス Vol.4

言論空間としてのインターネット
伊藤 詩織 (HANASHI Films ディレクター、ジャーナリスト)、村井 弦(文藝春秋digitalプロジェクトマネージャー)、浜田 敬子(前Business Insider Japan 統括編集長、ジャーナリスト)

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