突然の引き継ぎ、民事再生−−IKEUCHI ORGANICが「赤ちゃんが食べられるタオル」を目指すまで【注目の地方企業#4 前編】

キャリマガ / 2019年3月26日 11時2分

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日本の企業数は400万社以上。就活で企業研究が大切だとわかってはいるものの、インターネット上の膨大な情報を眺めていると、ついついよく見聞きする大手企業だけをチェックしがちです。

しかし、ユニークな事業を展開する企業は都市部だけでなく、全国各地に点在しています。本企画で、企業研究でつい見落としがちな地方企業をフォーカスしてみましょう。今回訪れたのは、「今治タオル」で有名な愛媛県今治市にあるIKEUCHI ORGANIC株式会社です。

同社が手がけるタオルづくりのコンセプトは「最大限の安全と最小限の環境負荷」。持続可能なタオル製造のために、100%風力発電で工場や事務所を動かし、タオルの原材料はもちろん、製造工程すべてにおいて厳しい環境基準をクリアしています。

現在、日常使いからギフトまでさまざまな場面で重宝され、東京や京都、福岡でも直営販売店を展開する同社。しかし、過去には取引先の問屋の倒産のあおりを受け、民事再生法の適用を受けた過去も……。どん底からのV字回復、そして多くの人に愛される現在の姿になるまでの道のりを、代表取締役・池内計司さんと取締役社長・阿部哲也さんに伺いました。

タオル業界激変の時代に、環境を意識した商品を開発

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明治中期から、多くのタオル会社が軒を連ねる愛媛県今治市。IKEUCHI ORGANICの前身である「池内タオル株式会社」の創業者・池内忠雄さんの実家は、そんなメーカーの1つでした。忠雄さんは1953年、実家から独立して会社を立ち上げます。

忠雄さんの息子、池内計司さんが社長を引き継いだのは30年後の1983年でした。大学卒業後、大好きなオーディオ機器のプランナーとして電機メーカーで働いていた計司さんが、実家に戻ってじっくりと事業の引き継ぎを受けようとした矢先、忠雄さんが病で急逝。引き継ぎがほとんどないまま、代表に就任します。

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その頃の今治はどのような様子だったのでしょうか。当時を振り返っていただきました。

「1980年代は海外からの輸入タオルがまったくなく、国内でのタオル需要も安定していました。今治にも当時、タオルメーカーが500社ほどあったんです。ちょうど製造方法が『革新織機』へ切り替わった頃で、従来の2〜3倍のタオルを生産できるようになりました。それで徐々に生産過剰になり、タオルは激しい価格競争の時代になっていきます」

そして、1990年代には輸入タオルが増加。タオルケットや企業ロゴを入れたノベルティ白タオルなど、製造が簡単なタオルから中国製タオルが大量に入ってくるようになりました。シェア100%だった国産タオルは価格競争に勝てず少しずつ力を失い、90年代後半になると国内タオルのシェアは20%程度まで大幅に低下。タオル市場に逆風が吹き荒れます。

そんななか、池内タオルは「タオルハンカチ」のOEM生産に特化したのが功を奏し、売上は安定。また、新しもの好きの池内さんは業界で初めてCADを導入し、高い織り技術力を生かした経営を進めました。

そして1999年、広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ「しまなみ海道」の開通を機に、今治を代表する商品を目指し、池内さんの理想を詰め込んだ環境配慮型タオルブランド「IKT」を立ち上げます。その一つが主力商品「オーガニック120」です。2019年3月に発売20周年を迎える本製品は、原料の綿を少しずつ変えて成長しながら、現在まで売れ続けています。

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環境に配慮した製品を本格的に作るため、リリースされたばかりだった企業の環境配慮に対する国際規格「ISO14001」を取得。当時、同規格取得に取り組む中小企業はほとんどなく、もちろんタオル業界では初の取り組みでした。

「これまでOEMで依頼されたものを作っていましたが、一方で自分が作りたいものもある。オーガニック120は、その『作りたい』という思いをひたすら詰め込んだ製品です。自社商品はエンドユーザーとリアルに対話できるので、いいことも悪いことも全部直接届きます。いただいた声は、商品にどんどん反映していきました」(池内さん)

池内さんはその後、オーガニック120をはじめとするオリジナルブランド「IKT」を東京やアメリカの展示会へも積極的に展開します。気候変動への影響を考慮し、2002年には本社工場や事務所の電気を100%風力発電に切り替えました。

同年4月には、アメリカの著名なトレード・ショーに出品し、日本で初めて最優秀賞を受賞。これをきっかけに、国内マスコミはもちろん、小泉純一郎首相(当時)の施策方針演説でも地方企業の事例として取り上げられるなど、同社の知名度はぐんぐん上っていきます。

取引先の倒産……OEMからオリジナルブランドへ切り替えを決断

f:id:hito-contents:20190325170043j:plain▲今治市の工場まで、多くのIKEUCHI ORGANICファンの方が見学に訪れる

国内200店舗以上でオリジナルブランド製品の取り扱いが決まるなど、IKTが波に乗った2003年。思わぬアクシデントが発生します。それは、売上の7割を占めていたタオルハンカチ問屋の自己破産でした。池内タオルにも、売掛金を含め約10億円の負債が発生したため、池内さんは民事再生法の適用を申請。オリジナルブランド「IKT」を主軸に企業再生を目指す決断を下します。

「当時、世間では『IKT』が注目されていたものの、売上はまだ年間数百万円程度。実際のところは、OEM事業の売上がほとんどでした。そんなふうに事実と評判の間にある『ねじれ』へ違和感もあった。何より環境や安全を望むお客様の声を聞き、IKTを軸に会社再生へ取り組む覚悟を決めたんです」(池内さん)

すでに誕生から4年が経っていたIKT。池内さんの決断の背景には、「がんばれ池内タオル」というサイトを立ち上げるほどの熱心なファンの存在がありました。なぜ、IKTはここまでファンに愛されるタオルだったのでしょうか?

「そもそもタオルの品質にこんなにこだわる会社は、世の中にほとんどありません。しかも、僕らのこだわりは見た目のデザインではなく、環境負荷の低さや安全性の高さ。そこに真摯に向き合ってきた姿勢に共感してくださった方がいらっしゃいました。新聞に民事再生の記事が載ったときは、『何枚タオルを買えば、助かりますか?』というメールが何通も届いたぐらいです」(池内さん)

その後、製造時の環境負荷が低いだけではなく、お客さんが買い換えずに済むような長く使い続けられるタオルを開発し、コンセプトに共感するお客さまが増えていきます。それだけでなく、社員がブランドへの誇りを持てるようになり、定着率も向上。そして、2007年に民事再生手続きを終えます。 

熱心なファンに後押しされるかのように、その後も新製品を開発。その一つがワインのように年によって品質が変わってしまうコットンの違いを生かした「COTTON NOUVEAU(コットンヌーボー)」でした。今までデメリットとされていた繊細すぎる品質を、個性と捉え直した製品です。

そして、創業60年の節目を迎えた2014年。アートディレクターのナガオカケンメイさんと協力し、「IKT」のブランドリニューアルを開始しました。商品に込めてきた想いがストレートに伝わるようコーポレートアイデンティティを整理。ブランド名と社名を「IKEUCHI ORGANIC」に統一したのもこのタイミングです。

「ブランド名はIKTで、愛称は『風で織るタオル』。このときに、僕らの持続可能性やオーガニックへのこだわりが素直に伝わるブランド名をじっくり考えました。そこで出てきたのが『IKEUCHI ORGANIC』。ブランド名として考えましたが、これは会社全体で大切にしたいことだという話になり、社名も一緒に変えることになりました」(池内さん)

現在、かつて主流だった問屋委託のOEM生産はほとんどなくなり、オーガニックコットン商品が事業の中心です。民事再生法適用当時は数百万円程度だったオリジナルブランドの売り上げは、その数十倍規模へと大きく上昇しました。

消費者自身が変わるきっかけをタオルで作りたい

2016年には、池内さんから阿部さんへ社長が交代。創業120周年を迎える2073年までに、すべての商品を「赤ちゃんが食べても大丈夫なタオル」にするのを目指しています。この目標には、製品を通じて利用者に伝えたい強い思いがありました。

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「これまで多くの企業は、消費者のメリットや使いやすさばかりを追求し、大量に、早く、安く商品を作り続けてきました。それが積もった今、環境破壊や貧困の問題が生まれています。我々のように環境配慮や持続可能性を突き詰めた『きれいなビジネス』は、ともすれば経済合理性や効率性と真っ向からぶつかってしまうんです」(阿部さん)

多くの会社が価格競争に巻き込まれ、しのぎを削るタオル業界。100%風力発電、原材料はオーガニックコットンを使うIKEUCHI ORGANICのタオルは、消費者に向けたメッセージを含んだ商品であるとも阿部さんは言います。

「僕たちは『つくる責任、つかう責任』という言葉をよく使っています。現状を変えるには企業だけではなく、消費者も自分の買い物のあり方や持続可能性について意識をしないといけない。その考えるきっかけを、私たちのタオルを通してお届けしたいですね」(阿部さん)

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そのために現在もっとも力を入れているのは、2019年2月から始まった「トレーサビリティ」への取り組みです。商品に取り付けられたQRコードを読み取ると、原料のコットンがどこでいつ生産されたのか、紡績されたのか、いつ船に乗りってどこで加工がされたのかなど、あらゆる情報が公開されています。

この取り組みは、これまでの5年をかけてコツコツとデータベースの整備をし、やっと提供できたもの。まずはコットンヌーボーから始めて、ゆくゆくは全商品に展開していきたいと考えているそうです。さらに持続可能性という言葉も、100年単位と5年単位では見える景色はまったく異なるでしょう。それでもIKEUCHI ORGANICは、「できるかぎりの持続可能性」をひたむきに追求し続けています。

創業からどん底からのV字回復、ブランドの目指す先まで、IKEUCHI ORGANICの歩みを紐解いてきました。インタビュー後編では、就活生が気になる新卒採用や人材教育について質問してみましょう。

《後編に続く》 

 

取材・執筆:鬼頭佳代(ノオト) 撮影:村上太

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お話を伺った方:池内 計司(いけうち・けいし)さん&阿部 哲也さん

池内さん(写真左):IKEUCHI ORGANIC 代表取締役。1949年愛媛県今治市生まれ。1983年に家業を継いで池内タオルに入社、2代目社長に就任。2016年より現職。

安部さん(写真右):IKEUCHI ORGANIC 取締役社長。大学卒業後、小売チェーン業などを経て、2009年にKEUCHI ORGANIC株式会社に入社。2016年6月より現職。

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