「プロ野球じゃないとダメですか?」社会人野球のレジェンド トヨタ自動車 佐竹功年(41)第二の人生【5年目Dの取材記①】
CBCテレビ / 2024年11月16日 7時2分
大谷翔平擁するドジャースがワールドシリーズを制覇した。その熱気と感動はアメリカだけでなく、日本をも巻き込んだ。そんなタイミングで、この本場アメリカの野球に触れる機会があった。
私は入社5年目、普段は毎週日曜日に放送しているドラゴンズ応援番組「サンデードラゴンズ」のディレクターをしている。取材はバンテリンドームがメインで、遠くに行ったとしてもビジター球場のマツダスタジアム。それが今回、初めてアメリカロケに行くことになった。それも1人で。
「私って税関通りましたっけ…?」
10月上旬 羽田空港を出発し、ひとまず到着したのがダニエル・K・イノウエ国際空港。「誰…?」と思ったが、ハワイ・ホノルルにある空港だった。
私はここで乗り継ぎをしてアリゾナ州へ向かう。乗り継ぎは人生初体験だった。
「乗り継ぎは“transit”もしくは“transfer”と書いてある方に行けばいい」と海外経験豊富な先輩達から教わっていたが、これがどこにも見当たらない。いや、書いてあったのかもしれないが、どうやら見落としたようだ。
とりあえず入国審査と荷物のピックアップは無事に済ませ、その後は人の流れに身を任せながら歩みを進めると、気が付いたら外に出ていた。「私って税関通りましたっけ?」スマホの翻訳機能と、日曜夜の番組でおなじみのお笑いタレントさん並みの“ジェスチャーを駆使した二刀流”で、近くにいた“空港職員っぽい方”に尋ねた。見た目は完全に外国の方だ。
「大丈夫だよ、ターミナル1へ行きなさい」
返ってきたのはまさかの日本語だった。
「最高気温42℃、道路にサボテン、そこにいたのはレジェンド」
こうしてたどり着いたアリゾナ州のフェニックス・スカイハーバー国際空港。取材初日、最高気温は42℃、道路の脇にはサボテン。しかし、湿度は一桁と聞いた。日本ほど厳しい暑さとは感じなかったが、唇が乾いて仕方がない。リップクリームを持ってくればよかったと後悔した。
向かったのはサプライズ・スタジアム。テキサス・レンジャーズなどがキャンプで使用する球場だ。そこにいたのはトヨタ自動車の野球部で19年間プレーし、ことし夏に引退した佐竹功年さん41歳。
社会人野球の最高峰とされる都市対抗野球大会でトヨタを初の優勝に導くなど、輝かしい実績を持つ“社会人野球のレジェンド”だ。現役引退後、コーチングなどを学ぶため、ことし9月からレンジャーズの元を訪れていた。
そんな佐竹さんはとにかく優しかった。私が小さなカメラを片手に、一人でアメリカに来たことに驚きを隠せない様子で、アメリカ滞在期間中は昼食の手配から取材先の送迎までしてくれた。取材する側がここまでお世話になるのは申し訳ない。その気持ちを本人に打ち明けると「甘えてください」と言ってくれた。
私と佐竹さんの歳の差は14。親子とまではいかないが、これだけ歳が離れた取材対象者は初めて。アリゾナの乾いた空の下で、父親に似た親しみを覚えた。
ちなみに送迎中の車内で、アメリカで不安になった事はありましたか?と尋ねると、「入国審査の時にホテル名をうまく伝える事が出来ず“Get back”と言われて最後尾から並び直したよ」とのこと。社会人野球のレジェンドもひとりの日本人なんだ。取材をしてきて初めて親近感がわいた瞬間だった。
「なぜか飛び交う日本語、短いアップ」
取材を始めたとき、アメリカの選手たちが私の顔を見かけると「元気ですか?」「お腹すいた」と日本語で話しかけてきた。私も英語で「Very hungry?」と返しておいた。
これは、去年までこのチームでコーチをしていた現ソフトバンクの倉野信次コーチの影響らしい。
倉野コーチの人望は厚く、佐竹さんも「日本人を受け入れる土壌ができあがっていた」と話す。
練習が始まると日本では見ない光景を目の当たりにする。まずアップが短い。全員で足並みをそろえて走ったりすることもない。
自身もしっかりとアップをする選手だった佐竹さんでさえ「日本人はアップが長すぎるんじゃないか」と話した。
選手たちの目の前を「犬」が駆け抜ける
すると突如として、犬がグラウンドを駆け抜け、選手の横を通り抜けていった。
ここは球場に隣接するサブグラウンドかつ公園のような場所ではあるが、練習中のメジャーリーガーの卵たちの横を犬が駆け抜けていくとは思わなかった。
さらにこの翌日、今度は練習中にキャッチボールをする子どもの姿があった。相手をしているのは佐竹さんだ。聞けばリハビリ中の選手の場合、家族が練習に来ることもよくあるのだという。家族との時間を大事にするアメリカらしい光景なのかもしれない。
去年、コーチをしていた倉野さんもチームから「休んで家族と会いなよ」と言われたときに断ると「それはクレイジーだよ」と諭されたそうだ。
「社会人野球は“甲子園”くらいのポテンシャルがある」
未来のメジャーリーガーを育てるための教育リーグの試合。公式戦ではない。有名選手が出ているわけでもない。それでもスタジアムに観客はやってくる。日本の社会人野球ではあまり見ない光景だ。
佐竹さんはアメリカでの経験をトヨタ自動車に持ち帰りチームへと還元する。狙うのはトヨタが強くなることだけではない。日本の社会人野球全体を盛り上げたいと話す。
“都市対抗”と“日本選手権”社会人野球の2大大会は、ともに負けたら終わりのトーナメント方式。一発勝負のその雰囲気から“大人の甲子園”とも呼ばれている。
甲子園でもなく、プロ野球でもない、“社会人野球”が盛り上がれば、日本の野球界全体のためになる。現役時代はレジェンドとして社会人野球を引っ張ってきた佐竹さん、これからは“裏方”として社会人野球を盛り上げるつもりだ。
私も小学校から大学まで野球をしていた。大した実績はなく平凡な野球人だったが、中学生くらいまではプロ野球選手になるのが夢だったのもあって「自分に夢を与えてくれたプロ野球に関わる仕事がしたい」「プロ野球選手の凄さを伝えたい」そう思って今の道に進んだ。
でも、佐竹さんの取材をしてきて気付いたことがある。社会人野球は面白いという事だ。
私は、12月8日(日)に放送される、社会人野球に人生をかけた佐竹さんに密着したドキュメンタリー「プロ野球じゃないとダメですか? ~トヨタ自動車 佐竹功年~」のディレクターを担当している。
野球をしていた人間にとって、プロ野球に進むことだけが成功なのだろうか?
【CBCテレビスポーツ部・上原大輝】
入社5年目「サンデードラゴンズ」ディレクター
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