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引退は「人事異動」社会人野球のレジェンド トヨタ自動車 佐竹功年(41) 第二の人生「プロ野球じゃないとダメですか?」【5年目Dの取材記②】

CBCテレビ / 2024年11月23日 7時2分

CBC

ことし6月、初めてご本人とお会いする日、私たちは緊張していた。今回の取材相手はトヨタ自動車の佐竹功年さん。私も同行するプロデューサーも大学まで野球をしていたので、もちろん佐竹さんの名前は知っていた。

私は「社会人野球界で活躍している、とんでもない球を投げる投手」「独特な投げ方でサングラスをかけてプレーする人」という印象。

その佐竹さんがことし7月の対抗野球大会を最後に引退する。私たちが緊張していたのは、引退するときだけ取材させてほしい、という厚かましいお願いをしに行くという自覚があったからだ。

すごい人に会えるという元野球人としてのワクワクと、いくら仕事とはいえ、失礼にあたるのではないかという不安が交差するなか、6月末に雨上がりのトヨタスポーツセンターを訪ねた。

佐竹さんは颯爽と室内練習場にやって来た。「初めまして!」。おそるおそる名刺を差し出すと、晴れやかな笑顔で対応してくれた。「ひとまず、良かった。というか、サングラスをしていないとこんな顔なんだ」。引退を間近に控えた緊張感や悲壮感は一切なかった。

「吉見一起、源田壮亮、栗林良吏が大絶賛」

社会人野球には「都市対抗」と「日本選手権」という2大大会が存在する。トヨタはこの都市対抗で2回、日本選手権では7回優勝している名門。佐竹さんはほとんどの優勝を経験している。

なかでも2016年には都市対抗のMVPに相当する「橋戸賞」を受賞するなど、数々のタイトルを受賞してきた。その功績は数え始めれば、キリがない。では一体、佐竹さんはどんな投手なのか?私はトヨタのOBでプロ野球へと進んだ3人に聞いた。

球界を代表する守備の名手、西武ライオンズの源田壮亮選手は“コントロールの良
さ”を特長に挙げた。「プロでいろんな投手の後ろを守ったが、あそこまで正確に投げる人はいない。笑っちゃうくらい」。

中日ドラゴンズの黄金期を支えた吉見一起さんは「ピーク時はプロの一軍で投げられるボールを投げていた」と太鼓判を押す。

広島カープの守護神、栗林良吏投手は「プロでやっていたら佐竹さんのすごさを日本中の皆さんに知ってもらえていたのにもったいない」と感じていた。

「40歳で150キロ近い球を投げ込むサラリーマン」

私も、実際に佐竹さんの投球練習を見て思った。はっきりいって引退する人の球ではない。40歳にして150キロ近い速球を投げ込んでいた。もっと現役を続けたい、という気持ちはないのだろうか?こんな豪速球、投げたくても投げられない人はたくさんいるのに(もちろん私も)。

佐竹さんはさらっと答えた。

「僕はサラリーマンなので結局は人事異動じゃないかと思う」

返ってきた答えは想像していなかったものだった。昨年末に、チームから引退を言い渡された佐竹さん。それまでは「野球が仕事」。引退後はまた別の仕事を頑張るだけなのだという。

家族に引退の報告をしたとき、妻と3人の娘からは「えっ?そうなの?お疲れ様」とだけ告げられて、10秒ほどで解散したらしい(あくまで佐竹さんの記憶では)。それもまた、私には想像できるはずもなかった。

「社会人野球の象徴として…」

私は、12月8日(日)に放送される、社会人野球に人生をかけた佐竹さんに密着したドキュメンタリー「プロ野球じゃないとダメですか? ~トヨタ自動車 佐竹功年~」のディレクターを担当している。

6月の取材の後、佐竹さんの引退試合となる都市対抗野球大会、そして引退後のアメリカでの様子を取材し、佐竹さんの気さくな人柄がわかる場面に何度も出くわした。

最も印象的だったのが、東京ドームで行われた都市対抗1回戦の試合終了後のこと。劇的なサヨナラ勝利を飾ったトヨタ自動車、その流れを呼び込んだのは、直前にピンチを脱した佐竹さんの投球だったに違いない。ミスター社会人野球とも呼ばれていた佐竹さん、試合後の関係者入り口には、サインを求める多くのファンが殺到していた。これはプロ野球の沖縄キャンプなどではよく見る一コマ。

普段はサンデードラゴンズの取材をしている私。これはあくまで個人的な感想だが、サインに応じる選手を見ると心の底から応援したくなる。それは私自身の経験もある、サインをもらった喜びは生涯忘れることのない記憶として深く刻まれるからだ。

そんなことを思いながら佐竹さんの対応を見ていたが、これが圧巻だった。試合終了から1時間以上が経過し、時刻は午後10時を回っていたと思う。佐竹さんは集まったすべての人にサインを書き、時には写真撮影にも応じ、疲れた顔を見せる事なく東京ドームを後にした。こういうところも含めて“ミスター社会人野球”なんだと思った出来事だった。

社会人野球も、応援してくれる人たちがいるから成り立っている面はある。佐竹さんは「社会人野球を盛り上げたい」とずっと口にしてきた。ファンを大切にしてきた佐竹さんなら、きっとその目標を叶える日が来るはずだ。

「あっ、しまった!俺、まだサインしてもらってないじゃん!」これを書きながらふと気づいた私である。

【CBCテレビスポーツ部・上原大輝】
入社5年目「サンデードラゴンズ」ディレクター

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