【インタビュー】新垣結衣、芝居は「見え方を意識しない」経験から導かれた表現術
cinemacafe.net / 2024年6月3日 7時45分
ヤマシタトモコの人気漫画を、新垣結衣主演で実写映画化した『違国日記』が、6月7日(金)に劇場公開を迎える。
ある理由から疎遠だった姉が事故死。姪の朝(早瀬憩)と久々に再会した小説家・槙生(新垣結衣)は、葬儀会場で腫れ物を扱うような目に遭っている彼女を見て「たらい回しは無しだ」と朝を引き取る決断をする。その日から始まる同居生活を描いた物語だ。
「あなたの感情も私の感情も自分だけのものだから、分かち合うことはできない。あなたと私は別の人間だから」というセリフに代表されるように、真の意味で他者を尊重しながら寄り添う道を探していく人々を温かく見つめる本作。原作の大ファンという新垣さんに、撮影の舞台裏と自身の芝居に対する「無意識の変化」について伺った。
原作の魅力「日々を優しく丁寧に生きている姿が愛おしい」
――『違国日記』が映画化されると聞き、最初に新垣さんのビジュアルを目にした際に「槙生ちゃんだ!」と感じました。どのように具現化していかれたのでしょう。
とにかく原作を何度も読み返して、画を自分の中にしっかり焼き付けて「こんな感じではないだろうか」とイメージしながら演じていった、ということに尽きます。自分の中だけじゃなくて見ていただいた方にも伝わっているのであれば、すごく嬉しいです。
私自身が元々原作を好きだったということもあり、オファーをいただいた際には驚きと、好きな作品なので嬉しい気持ちと、だからこそプレッシャーを感じました。自分自身に対しても、ハードルを上げてしまうところがありました。本番前には、頭の中で原作の該当シーンの槙生ちゃんの顔を再生して臨んでいました。
――新垣さんにとっての、『違国日記』という作品自体の魅力をぜひ教えて下さい。
好きなところは本当にたくさんあって挙げたらきりがありませんが、まずはこの作品ならではの言葉選びが好きです。『違国日記』の登場人物たちも、それぞれが“違う人間”であることを理解しながら、誰かと一緒にいて楽しくなったり寂しくなったり、トラウマに触れることもあったり、様々な気持ちになった事実をただただ抱えながらも日々を優しく丁寧に生きている姿がとてもリアルですし、愛おしく感じます。
――ご自身にとって思い入れがある作品であるぶん、映画づくりという多数の方々が関わる創作の場では、必ずしも他者と解釈が一致しないこともあったのではないでしょうか。
撮影に入る前に瀬田なつき監督にお会いして、作品についての話し合いをさせていただきました。そのうえで、実際の芝居の細かい部分については任せていただけた気がしています。もちろん監督の中で「このシーンではこういう風に見せたい」が演出としてあるので、そういったことは現場で確認しながら調整をしていきました。
衣装やヘアメイクについては、事前にスタッフさんが用意して下さったものをとにかく全部着てみるのですが、やはり実際に身につけてみないとわからないもので、アイテムだけ見ると槙生ちゃんっぽくても、私が着るとサイズ感やデザイン的にこっちのほうが槙生ちゃんに近くなる、というものはやっぱりあって、みんなで意見を出し合いながら進めていきました。
スムーズにいかなかった印象は全くないのですが、かといって最初からバチッと決まったということもなく、常に確認しあいながらの作業でした。
芝居において「どういう風に見えるか」は意識しない
――新垣さんが以前「槙生ちゃんは無理に表情を作らない」と評していたのが印象に残っています。作品を拝見していても、自然な雰囲気が流れていました。
監督がお芝居の雰囲気に関してナチュラルさを重要視していて、シーンの最後などに「アドリブのアイデアが何かないですか」と聞かれることが結構ありました。長尺でアドリブだったのは餃子のシーンくらいですが、そうしたアプローチが自然な雰囲気に繋がったのかもしれません。
――今回の現場ではモニター確認に行く時間が取れなかったと伺いましたが、完成した本編をご覧になって「こういう表情になったのか」と感じた部分はございましたか?
撮影中に「どういう顔になっているのだろう」と特に気にかけていたのが、お葬式のシーンでした。原作の槙生ちゃんの表情をイメージしつつ取り組みましたが、出来上がったものを見たときに「こういう顔になったのか」とは感じました。
――新垣さんほどのキャリアをお持ちであれば「表情筋をこう動かしたらこういう風に見える」という技術的な計算はある程度成り立っているのではないか? とも思うのですが、いかがでしょう。
お芝居を始めたばかりのときは表情が乏しくて、自分ではこういう風にやっているつもりでもカメラを通すと全然足りない、という経験をしました。カメラの向こう側にいる、ご覧になっている方々に届けるためには自分の感覚よりももっとパーセンテージを上げる必要があり、それでやっとちょうどよくなる――といったことを少しずつ覚えていきました。
ある段階から「これくらい動かせばこんな風に見えるんじゃないか」とはなんとなく想像できるようになりましたが、その感覚が毎度バチッとハマるわけではありません。そのため日々勉強ですが、最近はあまり「どういう風に見えるか」は考えていないかもしれません。
まずは考えないでやってみて、監督が「もっとこういう風に見せたい」があればご指示いただいて、応えられるようにするという意識で取り組んでいます。そういった意味では、先ほどお話しした葬式のシーンも「どういう風に見えているんだろう」とは思いつつも、本番前に原作の槙生ちゃんの顔をイメージしたらその後は考えていませんでした。出来上がったものを見て「こういう表情になったんだな」と後から感じる、という形です。
「見え方を意識しない」芝居の自覚とその後の変化
――新垣さんは近年、映画『正欲』『違国日記』やドラマ「フェンス」「風間公親-教場0-」等々に出演されています。見え方を意識しすぎない“変化”は、何かきっかけがあったのでしょうか。
いえ、気づいたら「そういえば意識していないかもしれない」という感覚です。昔は、お芝居をしながらこういう動きをしたというような“つながり”をしっかり覚えているタイプでした。映画やドラマは同じことを違うアングルで何度も演じる必要があるため、例えば食事シーンだったら「このセリフを言いながらこれを食べて、その次はこれを食べた」をしっかり覚えておかないと、違うカットでカメラの向きが変わったときなど、あとから編集した際に動きが繋がらなくなりますから。
もちろんタイムキーパーさんが教えて下さる場合もあるのですが、全ての現場にいらっしゃるわけではありません。そのため自分でしっかり覚えて動くようにしていましたが、最近は気づいたら「あれ、私はこの時どんな動きをしたっけ」と何も覚えていない感じになっています。きっと自分が気づいたタイミングよりも前からその兆候はあったような気がします。
――自覚されたときから、お芝居に対する意識は変わったのでしょうか。
ある作品の撮影中に、不意に不安になりました。そして「自分がさっきどんな動きをしたか・言い方をしたのか覚えていないのですが、大丈夫ですか」と監督に伺ったら「僕はそういった編集が得意なので大丈夫です。気にせずにお芝居してください」と言っていただけました。
そういうこともあって、「ダメだったら監督が言って下さるはず。その時に前のカットに近づく努力をすればいい」と思うようになりました。そのため、「意識していない」ことを自覚した後も、あまり意識はしていません。もしいつか怒られちゃったら、そのときに変えます(笑)。
ヘアメイク:藤尾明日香(kichi)
スタイリスト:小松嘉章(nomadica)
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