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『ボレロ 永遠の旋律』稀代の作曲家を熱演ラファエル・ペルソナ「新たな僕の一面を見つけて」

cinemacafe.net / 2024年8月7日 9時30分

いまも世界中のどこかで、15分ごとに演奏されているといわれる「ボレロ」。その後のクラシック音楽はもちろん、ポップミュージックやジャズにも影響を及ぼし、映画や演劇にもインスピレーションを与えた不朽の名曲。


その知られざる誕生の秘密を解き明かす音楽映画『ボレロ 永遠の旋律』で、作曲家モーリス・ラヴェルを演じたラファエル・ペルソナが、ラヴェルという繊細な天才の役作りについて、メガホンをとったアンヌ・フォンテーヌ監督や共演者について語った。


1928年にモーリス・ラヴェルがバレエ曲として書き上げた「ボレロ」はパリ・オペラ座で初演されて以来100年近く、時代と国境を越えて愛され続けてきた。


実は、この音楽史上最も成功したベスト&ロングセラー曲は、第一次世界大戦での挫折、ミューズへの唯一無二の愛、全存在を肯定してくれた母の死など、ラヴェル自身がその時々に舞い戻り、引き裂かれた魂に深く潜り、そこで追体験した全てを注ぎ込んで作り上げた曲だった。


「ボレロ」を完成させるため心身を削っていったラヴェルを演じたのは、『黒いスーツを着た男』『彼は秘密の女ともだち』などで知られるペルソナ。これまで、『ココ・アヴァン・シャネル』で伝説的ファッションデザイナーのココ・シャネルや、『夜明けの祈り』で修道女たちを救った医師マドレーヌ・ポーリアックなど実在の人物を取り上げてきたアンヌ・フォンテーヌ監督と初タッグを組んだ。


オーケストラのシーンは
「最も美しく、最も素晴らしい瞬間」


「アンヌ・フォンテーヌのことは以前から知っていて、10年ぐらい前に一度会ったことがありました。今回は彼女から電話があり、『今度映画を撮るんだけど、ちょっと来てくれない?』と言われて」と、そのきっかけをふり返るペルソナ。


当初は「(フィジカル的に)ラヴェルに全然似てない」と言われたそうだが、その後10キロも体重を減量、「再びアンヌのところに行った時には頬もこけていて、スーツも着ていたので、かなりラヴェルの雰囲気に寄せることができたんです。それで彼女が納得してくれて、その直後からもうラヴェルの内面に迫る作業が始まっていった感じですね」と明かす。


「監督としてのアンヌを気に入っているのは、ラヴェルと同じように本当に多様なテーマを扱っているところです。その世界には共通点があると思っていて、決して王道を描かないんですよ。どこかアウトローで、余白があるような人を描きます。彼女自身ちょっとアウトローというかアブノーマルなところがあって、そんな彼女がすごく好きなんです。そんな訳で、彼女と僕はモーリス・ラヴェルへの愛という意味で一致できました」と、監督への敬意と共鳴を語る。


役作りのうえで印象深かったことを尋ねると、「やはりオーケストラの指揮でしょうか」とペルソナ。「指揮のための特訓を7~8か月したんですが、最初は先生についていただきながら、小さな部屋でやっていました。撮影する『ボレロ』と『ラ・ヴァルス』の練習をしていて、先生から『本当の撮影の時は、きっとものすごく感動するよ』と言われていたんです」という。


「撮影で80人ものプロの演奏者の方たちの前に立ったとき、『役者が指揮するのか、まぁ頑張ってね』みたいな雰囲気も感じていました。でも、指揮している最中、ひとつひとつの楽器の音がバイブレーションとして自分に身体的な感覚として伝わってくるんですよ。その撮影を終えたとき、指揮台の上で足が震えていました。今回の撮影の中で最も美しく、最も素晴らしい瞬間が、オーケストラのシーンでした。そして、ひょっとしたらこれまでのどの作品と比べても、このシーンは本当に忘れられない経験になったと思います」。


さらに本作では、アンヌ・フォンテーヌ監督の熱意により、ラヴェルが実際に過ごした実家での撮影、実際に彼が使っていたピアノを使った撮影も実現した。


「ラヴェルが暮らしていた家には5人しか入れませんでした。なので、最小限以外の人はみんな外にいて、録音技師だけでなく照明や投光器も入れられなくて。でも、それがかえって功を奏したと思います。とても小さくて全てが完璧で、親密な雰囲気を作り出すことができて、彼の魂や存在を感じることができました。ラヴェルは忙しくないときには自分で壁紙を張ったり、椅子の彫刻をしたり、本当の意味で自分の世界を自分自身で作り出したような家なんです」とペルソナ。


「そういうものはスタジオでは決して出せない存在感で、そこで撮影できたのは本当に感動的でした。そして、1世紀前に彼が弾いていた鍵盤に手を置いて『ボレロ』を生み出すシーンを撮れるなんて、本当に言葉にならないものがあります」と、その忘れがたい感激を思い返す。


「音楽としてはとても官能的でエロティックなものを生み出していた」


また、本作が特別なのは、監督がラヴェルを多くの女性たちに囲まれながらもアセクシャルな存在として描き出したことだろう(アセクシャル=他者に対して性的欲求を抱くことがないセクシュアリティ)。ラヴェルが同性愛者だったと主張する伝記作家もいるそうだが…?


「そこは一番大事なポイントなので、もちろんアンヌとも話をしました。確かに、歴史家のあいだでも色んな説があるんです。アンヌはラヴェルの生活にはセックスがなかったというふうに考えていたんですが、子どものまま大人になりきれていないという解釈が正しいのかどうかは分かりません」と彼は言う。


「撮影のためにラヴェルが生前暮らしていた家に行ったとき、子どものおもちゃやカード、そんなものが色々置いてありました。一方で、“レザネフォール”(フランスの1920年代を指す言葉)というのはパリにとって本当に狂乱の時代で、彼自身、夜遊びをすごく好む一面もあったようです。夜遊び自体、嫌いではなかった。でも、作品のためにそこから身を遠ざける形で、自分の家に引きこもることをあえて選んだわけです」と続ける。


「それは、まるで花が開かずつぼみのままでいるような人生を送ることですが、音楽としてはとても官能的でエロティックなものを生み出していた…彼にはそういう逆説的なところがあると思います」。


本作では、親友の姉で奔放な恋愛遍歴で知られたミシアをはじめ、様々な女性たちの存在が鍵を握る。ミシアを演じたドリヤ・ティリエ、作曲を依頼した振付師のイダ・ルビンシュタインを演じたジャンヌ・バリバール、ラヴェルの理解者でピアノ奏者のマルグリット・ロンを演じたエマニュエル・ドゥヴォスら、フランスを代表する女優陣との共演も見どころ。


ペルソナは「3人とも全然違うタイプの女優さんで、一緒に仕事ができたことはとても幸運だったと思います。彼女たちの演技のアプローチは全く違うんです」とリスペクトを込めて語る。


「ジャンヌ・バリバールはセリフごとに色んなことをゼロから生み出していくような奇想天外さがあります。一緒に演技をするのは本当に楽しかったです」と言い、「エマニュエル・ドゥヴォスはすごくユーモラスで、和気あいあいとしていて。彼女が演じたマルグリット・ロン自身がもともとそういう人だったようです。演じながら、ふたりの友達が和気あいあいとじゃれ合っているような面白味を感じることができました」とふり返る。


そして「ドリヤ・ティリエが演じたミシアは、ラヴェルとは正反対な人間なんです。とても社交的で陽気で、恋愛遍歴もあり、内気なラヴェルとは対照的です」と言う。


「でも、社会の動きに押しつぶされて本心を出すことができないという意味で、ふたりは似てもいます。役者としては、控えめで思慮深いような人物を演じるのはすごく幸せなことでもあります。自分の言葉で言っていない、言っていることもどこかエナメルでコーティングされて、伝えようとしていない本当の心はここにある…みたいに、深みのある演技を見せあうのはとても楽しかったです」と明かした。



「自分自身を驚かせつつ、意外なイメージで皆さんを驚かせられたら」


劇中ではオペラ座で、イダ(ジャンヌ・バリバール)が官能的に舞う「ボレロ」。ラヴェルは作曲をしながら、戦時下での体験や母の死といった喪失がフラッシュバックするが、ペルソナ自身は「ボレロ」を聴きながらどんなことに思いを馳せるのだろう?


「『ボレロ』を聴いていると、それを聴いているときの自分に影響を受ける気がします。元気なときに聴くと、この曲が持つ力強さ、セクシュアルな要素に惹かれ、そういうものを思い起こすことがあります」と語るペルソナ。


「それとともに、映画では回想として第一次世界大戦の場面が出てきますが、この曲から最後に爆発音が聞こえてくるようで、それは戦場のようなものを思い起こさせる、そんな一面もあると思います」。


「『ボレロ』という音楽は、こういうふうに聞きなさいと要求してこないんです。君の自由に解釈してくれていいよ…というふうな、とても自由な曲だと思います」と語るのも、ラヴェルを演じた彼ならでは。


さらに、日本のファンに注目して見てほしいポイントを尋ねると、「理想としては、僕が努力してラヴェルという人物を演じていることを感じ取ってほしくないと思います。努力の跡は見てほしくないというか…。例えば手品は、どうしてそんなマジックが起こるのか見透かされたら失敗ですよね。唯一無二の存在であるラヴェルそのままだなぁと思いながら観ていただけるととても嬉しいです」と語る。


「アンヌの仕事で好きなところは、いろいろなジャンルやスタイルをどんどん多様に変えていくところです。僕自身も、役者としていろいろなスタイルの人物を演じられるといいなと思っていて、子どもの頃から扮装や芝居が大好きだったんです。違った人生を演じながら、扮装しながら、それを見る方が支持してくれたらそれが理想かな…と思っています。自分自身を驚かせつつ、意外なイメージで皆さんを驚かせられたらいいですね」とペルソナ。


「この映画でまた新たな僕の一面をぜひ見つけてください」と自信をのぞかせている。


『ボレロ 永遠の旋律』は8月9日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国にて順次公開。



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