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真摯な演出と演技が浸透する…中村倫也主演「Shrink―精神科医ヨワイ―」の魅力

cinemacafe.net / 2024年9月3日 12時50分

グランドジャンプで連載中の「Shrink―精神科医ヨワイ―」(原作/七海仁 漫画/月子)が、中村倫也主演で連続ドラマ化された(全3話。8月30日よりNHK総合で放送中)。


本作は、西新宿に「ひだまりクリニック」を構える精神科医・弱井(中村倫也)がメンタルの悩みを抱える患者たちに寄り添い、解決や共生の道を探っていく物語。今回のドラマ版では「パニック症」「双極症」「パーソナリティ症」のエピソードが描かれる。


本稿では、原作漫画と放送済みのドラマ第1話「パニック症」を中心に、作品の独自性や魅力を紹介していきたい。


精神疾患に対する先入観をShrinkし、更新する


第2話「双極症」より

「Shrink」の大きな魅力、それは「固定概念を書き換える」ことにある。そもそも本作のタイトルは、アメリカでの精神科医の呼称から。「妄想で大きくなった患者の脳をShrink(小さく)してくれる仕事だから」(諸説あり)との説明がなされる。そんなスラングが使われるほど、精神科医は身近な存在として浸透しているのだと。


翻って日本では精神科を受診する(精神的な)ハードルが高い。劇中で語られる通り、「精神科に通うのが恥ずかしい」「周りに知られたくない」という風土があり、未だ根性論が根づいているからだろう。そうしたパブリックイメージを象徴するかのように、ドラマ第1話では「休職中の保育園の先生が精神科に通っているところを見た」と保護者同士が噂しているシーンが冒頭に挿入される。


第1話「パニック症」より

そして、「日本では精神疾患患者数が800万人(総人口の12人に1人)に対して、アメリカは8200万人(4人に1人)。しかし日本の自殺率は世界6位、アメリカは20位」といったデータが紹介される。これは、患者が少ないのに自殺が多い=隠れ精神疾患患者の多さ、そして受診率の低さを示すものだ。


「日本は隠れ精神疾患大国」と語る弱井は、看護師の雨宮(土屋太鳳)に「“そんなこと“でかかっちゃダメですか?」と問いかける。「失恋した」「上司に怒られた」そんな、「ちょっと落ち込んだ」ときに訪ねる存在になれれば、この現状を変えられるのではないかと。中村も制作発表時に「『“そんなこと”で精神科にかかっちゃダメですか?』 原作にあるこの言葉に共感し、拡声したいと思いました」とコメントしており、この意識は通奏低音のように作品全体に流れている。


劇中、弱井はパニック症に悩む雪村(夏帆)に「(パニック症は)心が弱いからかかる病気ではありません。脳の誤作動なんです」「パニック症の発作で死ぬことはありません」と語りかける。そして、診察を受けた彼女は「この苦しさに名前がついて安心しました」と笑顔を見せて帰っていく。


第1話「パニック症」より

知り、理解し、アップデートさせる――本作がShrinkするのは患者のみならず、読者/視聴者においても同様だ。ドラマ第2話「双極症」第3話「パーソナリティ症」にもそうした効能があるため、注目いただきたい。


ちなみに原作の第11巻収録「アンガーマネジメント」編では“パワハラおじさん”の深層心理が描かれ、第12~13巻収録「薬物依存症」では“トー横キッズ”の問題と絡めながら薬との付き合い方を訴える。いずれも、現代社会を生きていくうえで新たな視座を与えてくれる。


過度に劇的にしない、真摯な演出と演技


第2話「双極症」より

そして、「Shrink」のもう一つの特長は「劇的にしすぎない」点。日本の医療モノには、読者や視聴者の感動を増幅させるために切迫感や悲壮感を強めて過度にドラマティックにするものも少なくない。それは人物造形においても同様で、ビジュアルや言動等々“キャラ立ち”を強くさせる手法もスタンダードなものだ。ただここで難しいのは、感情が揺さぶられる=激しくアップダウンするようなフィクションとしてのカラーを強めたとき、現実からはどんどん乖離していくということ。実際にある病気を扱う際、時としてそれは搾取になりかねない。


対して「Shrink」においては、そもそもの立ち位置からして現実感が順守されている。原作第3~4巻収録「PTSD」編では東日本大震災から歳月が経っても癒えない心のトラウマを抱える人物が登場し、第9巻収録「新型コロナウイルスと心」編では、患者と医療従事者それぞれの立場のエピソードが描かれる。第10~11巻収録「解離性障害」では「この病を安易にセンセーショナルに描くことで傷ついている当事者はいる」というセリフが登場。現実と並走しながら、創作の功罪までも見据えているのだ。


第3話「パーソナリティ症」より

ドラマにおいても共通認識が感じられ、様々な用語が2024年仕様にアップデートされていたり、雨宮のキャラクターにより「見守る」要素が強まっていたり、第3話では「花」の扱い方が変更になったりと、二次元→三次元の変換においてさらに現実に“馴染ませる”細やかな創意工夫が随所に感じられる。「きのう何食べた?」や「大豆田とわ子と三人の元夫」を手掛けた演出・中江和仁と脚本・大山淳子による、決して“お涙頂戴”にしないが静かな救いをしみこませていくバランス感覚も見事で、視聴者も現実味を感じながら物語を追えるのではないか。


そうした志を持つ「Shrink」において、まさに適任といえるのが主演の中村倫也。先述したコメントにも彼の意志が感じられるが、劇中での弱井は「話す速度やトーン」「姿勢や表情」を一切ブラさない。主張せず、しかし揺らがず、患者にとって安心感を抱ける存在であり続けている。かといって機械のように人間味が感じられないわけではなく、穏やかでほっこりさせる部分を持ちながら、プロとして患者の無意識のサインを常にキャッチしようと努め、何があっても「その人の本質」を信じ抜こうとする。


第2話「双極症」より

無味無臭にしたり薄めたりするわけではなく、出力を調整して主演として魅せながらも、人物像に説得力を持たせる――。フィクションとリアリティの最適なバランスを己が芝居によって成立させ、作品の信念を示し続ける中村の静かなる熱演にも、引き続き注目いただきたい。


土曜ドラマ「Shrink―精神科医ヨワイ―」は8月31日より毎週土曜22時~NHK 総合、毎週土曜9時25分~BS プレミアム4Kにて放送(全3回)。


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