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「はて?」と上げる声、その心は寅子と共に…「虎に翼」が残したもの

cinemacafe.net / 2024年9月28日 14時45分

誰もいない裁判所で、「さよーならまたいつか!」と笑う法服姿の寅子(伊藤沙莉)で幕を閉じた連続テレビ小説「虎に翼」


SNSには放送直後から「虎に翼ありがとう」「半年間おもしろかった」「すごく好きなドラマだった」「数年ぶりにハマった」といったロスの声や、視聴者やキャスト陣からも米津玄師の主題歌に合わせた「さよーならまたいつか!」と挨拶する投稿が相次いでいる。


確かに“トラつば”ロスはあるものの、不思議と寂しさばかりではない。むしろ私たちの心の中には「いつでも寅ちゃんがいてくれる」といった安心感が残されたように思う。もしくは「私の心には誰を呼ぼうか」と、いま思いを巡らせている人もいるかもしれない。そんなふうに観る者の背中をずっと支え続けてくれるような物語の仕舞い方だった。



現在につながる身近な主人公と山田轟法律事務所の存在


「虎に翼」は、第40回向田邦子賞を受賞するなど話題を呼んだNHKよるドラ「恋せぬふたり」の吉田恵里香が手がけたオリジナルストーリー。日本初の女性弁護士の1人で後に裁判官となった女性・三淵嘉子さんをモデルに、困難な時代に道なき道を切り開いてきた法曹たちの情熱あふれる姿を半年間にわたり描いてきた。


主人公の猪爪寅子(いのつめ・ともこ)、後の佐田寅子を伊藤沙莉が演じ、寅子と事実婚をした最高裁調査官・星航一を岡田将生、寅子の両親・はると直言を石田ゆり子と岡部たかし、兄・直道を上川周作、その妻で親友の花江を森田望智、猪爪家の下宿生で後に夫となった優三を仲野太賀、最高裁長官になった桂場を松山ケンイチ、寅子を導いた法学者・穂高を小林薫。


“魔女部”と揶揄された明律大学女子部法科で寅子と共に学んだ山田よねを土居志央梨、桜川涼子を桜井ユキ、大庭梅子を平岩紙、崔香淑/チェ・ヒャンスクをハ・ヨンス、涼子の付き人・玉を羽瀬川なぎ、法学部で出会った花岡悟を岩田剛典、轟太一を戸塚純貴が演じた。


9月27日に放送された最終話・第130回は朝から元気に体操する寅子の姿で幕を開けるが、娘・優未(川床明日香)が写真に話しかける様子と尾野真千子による語りで、まさかの“イマジナリー寅子”であることがわかってくる。「なるほど」と唸りたくなるような、意表を突いた最終回となった。


そんな最終回を見届けた視聴者からは「初めて朝ドラを完走した」「朝ドラとは縁のなかった自分が時間をつくって見た」「めちゃくちゃハマって大好きな朝ドラになった」など「虎に翼」で初めての感触を得たという声もある。


確かに、「虎に翼」は始まりからちょっと違っていた。子役による幼少期をすっ飛ばし、第1週から早々に寅子は“よき妻よき母”になるための見合いを断り、法律の道、母・はるがいう“地獄”へと道を踏み出そうとしていた。


ほかにも、社会的信頼を得るために結婚したり、キャリア過渡期での妊娠を真正面から描いたり、生理が重くて寝込んだり、更年期特有症状のホットフラッシュに悩まされたり…といった主人公を劇中で描いてきた。「ほてほて」する寅子が梅子に「あらあら、こちら側へようこそ~」と笑顔で言われたとき、心が軽くなったという視聴者の声もあった。


また、寅子が早々に見切りをつけた専業主婦業をまっとうした、森田演じる花江の存在についても最後まで描いてくれた。見過ごされがちだが、中学生の優未(毎田暖乃)が認知症の進む航一の義母・百合(余貴美子)のヤングケアラーになりかけていたことも思い起こされる。


いまを生きる自分と同じ、という感覚を「虎に翼」は常に与えてくれたのだ。



離婚した梅子が最初に身を寄せたのは、よねと轟がカフェー「燈台」跡に設立した「山田轟法律事務所」だった。ここは原爆裁判や、民族差別、LGBTQ+、同性婚、夫婦別姓から、おぞましい虐待と尊属殺人に至るまで、「虎に翼」が果敢に挑んだテーマの主な舞台の1つになってきた。誰もが自尊心を削られることなく弱音を吐き出せる、まさしく光の道しるべとなるような場所だった。


よねと轟の裏話が聞ける動画「トラつばの裏側しゃべってみた」でも戸塚は「山田轟法律事務所」は「自分のことを正直に話す場所」と言い、土居も「教会みたいな感じ」と表現する。


何より事務所の壁には、「虎に翼」を貫く大きなテーマでありモットーといえる憲法第14条1項「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」が手書きで綴られている。これを万感の思いで書いたのは、他ならぬよねである。


よねは寅子や轟、女子部の面々と関わるにつれ、堅い殻がどんどん破れて愛おしさが増し、応援したくなるキャラクターとなった。バンカラを鎧のように纏いながら不器用で情に厚い轟に対しては、“#俺たちの轟”というハッシュタグも生まれたほど。主人公の近くにいる名前のある登場人物で、同性の恋人がいたのも朝ドラ初だろう。


2人の好きな台詞はいくつもあるが、よねが性暴力や、いじめ、DVといった暴力は「思考を停止させる。抵抗する気力を奪い、死なないために全てを受け入れて耐えるようになる」という、思考や行動、言葉、尊厳すべてを奪うものだと語ったことが特に印象深い。


よねを演じた土居は一躍時の人となり、10月クールのドラマ「無能の鷹」ではオレンジヘアのエンジニア役という大転換を見せる。戸塚も7月期の「青島くんはいじわる」にもレギュラー出演(久保田先輩役の小林涼子と)し、トラつばキャストが大勢出演した「新宿野戦病院」にも参加するなど、改めて注目を集めた。


「はて?」が石を穿つ「雨垂れ」になる


最終話では、男女雇用機会均等法施行を伝える1999(平成11)年のニュースを1人で見つめていた優未が、笹竹へ出かけ(外観はモデルになった「竹むら」!)、御茶ノ水の聖橋で美佐江と美雪(片岡凛)にそっくりな、突然の解雇について“PHS”で会話する女性に思わず声をかける姿があった。


第1話にも登場した橋の上では、戦後と同じように重い荷物を運ぶ年配の女性や、楽器を抱えた若い女性が呆然と佇んでおり、第1話の光景と重なる。あのときは何の術も持たずにいた寅子に代わって、「自分の中に母を感じた」優未が彼女をすくい上げようとする姿は美しかった。



美佐江/美雪を演じた片岡凛

その傍らにもイマジナリー寅子がいたが、彼女と会話できるのは老いた航一だけ。航一の前で見せた得意気で幸せそうな笑顔から懐古するのが、第1週と変わらぬ場所で団子を食べようとする桂場に寅子が「はて?」と問いかけた129話の場面だ。


地獄に進んで分け入り、たくさんの血を流してきた寅子たちは決して特別な存在じゃない。「はて? いつだって私のような女はごまんといますよ。ただ時代がそれを許さず、特別にしただけです」と言い返す寅子の背後には、よねや涼子らの顔がある。未来の人たちのためならば、自ら進んで「雨垂れになる」という者たちだ。


そして第1週からの答えのように、「娘の口を塞ごうとしないで」とものすごい剣幕で桂場に意見した場所と同じところから、まさかの“イマジナリーはる”が登場してくる。「どう?地獄の道は」「最高です」そう言って笑い合い泣き合う母娘に、はるも寅子の心の中にいつでもいたのだと思いを馳せる。


それは久藤頼安(沢村一樹)が「頭の中のタッキー(多岐川:滝藤賢一)」に叱ってもらうことで心を落ち着けたり、涼子が「心のよねさん」と共にあるように。たぶん花江には、イマジナリー直道がずっと寄り添っていただろう。


心の中の彼らと一緒なら、以前は飲み込んでいた理不尽さに勇気を出して「はて?」と声を上げられるかもしれない。もし実際に声は上げられなくても、「はて?」と生まれた疑問こそ大切なもの。その1つ1つが、やがては自分自身、あるいは誰かにとっての石を穿つ雨垂れになる。


「虎に翼」が私たちに残してくれたのは、ささやかだが、とてつもなく大きなものだった。



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