『ジョーカー2』トッド・フィリップス監督が描いた“答え”とは?「世の中はもっとクレイジーになっている」
cinemacafe.net / 2024年10月12日 18時0分
世界的に社会現象を巻き起こした前作『ジョーカー』(19)から5年、さらに混沌とし、より“クレージー”になった世界に『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(通称『ジョーカー2』)がついに放たれた。
ジョーカー役のホアキン・フェニックスと再び組み、ジョーカーと恋に落ちる謎の女性リー役にレディー・ガガを新たに迎えたトッド・フィリップス監督が、続編にして完結編となる本作について、物議を醸した「1作目に対する“答え”ではない」と語った真意について明かした。
■描きたかったのは「エンターテインメントの腐敗」
コメディアンを夢見る孤独だが純粋で心優しい男アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は、都会の片隅でピエロに扮して大道芸人をしながら、自宅で年老いた母親の世話をし、その日暮らしの生活を送っていた。ある日地下鉄の車内で酔ったエリート証券マンたちに絡まれ、衝動的に彼らを拳銃で殺してしまう――。
物語の中ではあれから2年が経ち、州立病院に収監され裁判を待つジョーカーことアーサーの姿が描かれる本作。現実世界では1作目から5年の月日が流れたが、その間に新型コロナウイルスのパンデミックがあり、いま異なる場所で2つの戦争が起きている。支持者たちが米国会議事堂襲撃事件を引き起こしたドナルド・トランプ前大統領再選の可能性も出てきた。
こうした現実は本作の脚本に「かなり影響を与えました」とトッド・フィリップス監督は言う。「物事がクレイジーになりすぎて、僕たちが最初の予告編で伝えたように、『今世界に必要なのは愛なのかもしれない』と感じられたんです」。
そしてもう1つ、「この映画は腐敗がテーマになっています。それはアメリカだけじゃなく、どこにでもあります。それは刑務所の腐敗や、この映画に出てくる看守の腐敗、司法制度の腐敗だけではありません。僕にとっては、それはエンターテインメントの腐敗でもありました」と監督は付け加える。「大統領選の討論会がプロレスの試合のように商売となっているのはどういう意味があるのか? もしすべてがエンターテインメントだとしたら、エンターテインメントとは何なのか? ということなんです」。
「映画の中でリーが、『それがエンターテイメントよ(That's Entertainment.)』と言うのは、そういうことなんです。これが僕たちの文化なんです」と語り、現在のエンターテインメントの在り方や、その消費のされ方への痛烈な批判があるという。
ワールドプレミアとなったヴェネチア国際映画祭では「この映画は1作目に対する答えではない」という監督のコメントが注目を集めたが、そのことについても監督は説明する。
現地での質問は「映画全体は、1作目の反響に対する答えなのか?」だったと言い、「それで僕は、『いいえ、映画は反響に対する応答として作るには難しすぎる』と言ったんです」と語る。
それでも本作を観れば、1作目『ジョーカー』でアーサーがソーシャルワーカーに問いかけた「狂っているのは僕なんでしょうか? それとも、世の中?」への答えがあると受け取ることができるだろう。「100%そうです。世の中はもっとクレイジーになっています」と監督は言う。
■暴力を描くことと、フィルムメイカーとしての責任
また、1作目で暴力を無責任に肯定した、という批判が上がったことに「混乱した」と明かす監督は、「僕はいつも、暴力は責任を持って描かれていると思っていました。なぜなら、それは現実的に描かれているからです。『暴力とはこういうものだ』という感じで描かれているんです。そしてそのことは、フィルムメイカーとしての僕たちには無責任だとは思えませんでした」と吐露する。
本作にはその点に対する答えもあると言い、劇中の裁判で印象深いシーンに触れる。「アーサーがゲイリーを証人席で反対尋問するのですが、ゲイリーは1作目で恐ろしい殺人を目撃しています。ゲイリーは『僕は仕事に行けませんでした。眠れませんでした。今でも眠れません』と答えるんです。それを理解することなんです。映画製作者として、僕たちは、暴力が暴力を目撃した人々に与える責任を理解しています。本物の暴力について。映画の中の話ではありません」。
1作目でジョーカー誕生のトリガーとなる地下鉄の事件も、実際に1984年にニューヨーク地下鉄で起きたベルンハルト・ゲッツが黒人少年たちに私的制裁を加えた事件が基となっている。
「裁判所の外はサーカスみたいでした」と監督は当時を鮮明に記憶しているそうで、「文字通り、(映画と)同じような感じでした。彼を支持する人たち。彼に反対する人たち。彼がやったことを信じる人、そうでない人というふうに。もちろん、その後にO・J・シンプソンの裁判があったことはみんなが知っています。2人が殺されました。ですが、その裁判の間にコマーシャルを流していたんです(笑)。クレージーですよ」。
■ジョーカーとアーサーを描く撮影法「横顔には何かがある」
本作では、そんな裁判所と州立病院を往復するアーサーの姿に、衝撃を受ける人も多いだろう。「最初の映画で僕たちが出会った、最後に見たアーサーの中にあった生命力は、すべて彼の中から消え去っているんです。そのため、より閉鎖的な物語になっているんです」とトッド・フィリップス監督は話す。
そのなかで、リーというアーサーにとっては一縷の希望のような女性が現れる。監督は2人が向かい合うシーンで横顔のショットを多用したことについて、「個人的には、横顔の方が、ストレートに平坦な顔を見せるより表情が豊かで好きなんです。なぜかは分かりません。それがずっと僕の好みなんです。人々を美しく見せられるように感じるんです」と明かす。
「横顔には何かがあるんです。この映画はまた、人間の2つの側面について描いています。そうですよね。アーサーとジョーカーです。この映画は、僕たちが持っている二面性について多くのことを描いています。自分と影の自分について。だから、横顔はそういう意味で、ちょっと役立つんです」と鑑賞する上での注目ポイントを語ってくれた。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は全国にて公開中。日本語吹替版・字幕版同時上映<Dolby Cinema(R)/ScreenX/4D/ULTRA 4DX/IMAX(R)>。
(c) & TM DC (c) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
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