秋の洋画宣伝担当者座談会! 社の垣根を越えて4人の宣伝担当が語り合う【前編】
cinemacafe.net / 2024年11月8日 14時30分
邦画にアニメーション映画、ハリウッドのアクション大作がひしめく中で、公開規模は小さくとも観る人の心に刺さる良質な洋画をいかにアピールし、その存在を人々に知らしめ、興味を持ってもらうか? 配給・宣伝会社の宣伝担当の腕の見せどころと言える。
今回、【映画お仕事図鑑 番外編】として、11月に公開される4本の洋画のそれぞれの宣伝担当者による座談会を開催! 担当作品の紹介、および宣伝方針を語ってもらうと共に、同業他社の宣伝部員が自身の担当作品以外の作品の魅力や宣伝戦略について語り合うという、なかなかない企画が実現した。前編では11月8日(金)公開の『動物界』、11月15日(金)公開の『ぼくとパパ、約束の週末』について語り合う!
<座談会参加者>
有限会社樂舎 渡辺(『動物界』宣伝担当)
株式会社ウフル 青木(『ぼくとパパ、約束の週末』宣伝担当)
株式会社サーティースリー 奥村(『ドリーム・シナリオ』宣伝担当)
株式会社ツイン 松本(『JAWAN/ジャワーン』宣伝担当)
『動物界』(11月8日公開)
宣伝担当・樂舎 渡辺
プロフィール:新卒で映画宣伝会社・樂舎に入社し、現在10年目。最近では『関心領域』などを担当。会社として宣伝のみならず配給業務にも進出しており、今年7月公開のデイジー・リドリー主演『時々、私は考える』を配給した。
渡辺 『動物界』はSF映画で、人間の身体が動物化していく奇病が発生した近未来が舞台となっています。描かれるのはシンプルに親子の絆であったりするんですが、宣伝の方針としては“アニマライズ・スリラー”という、かなりホラー寄りの方向で打ち出しています。注目していただきたいポイントは「フランスで100万人突破」という本国での成功と今年、日本でもかなり話題を呼んだ『落下の解剖学』とフランスのセザール賞で競り合った作品であるというところですね。こういうジャンル映画がセザール賞で評価されることは少ないので、ぜひそこは日本の映画ファンにもお伝えできたらと思います。
SF映画でありつつ、社会的なテーマを描いているという部分も評判になっていて、自分たちとは別種の存在にどう向き合うのか? というのは、いま私たちが考えなくてはいけない社会問題でもあり、そこが多くの人に刺さったのではないかと思います。
青木 最初に予告を見た時は『グエムル-漢江の怪物-』っぽいなと感じたんですが、本編を観て泣きました。
渡辺 意外と感動ものなんです。まさにトマ・カイエ監督がインタビューで『グエムル』も参考にしたということを言っていました。これが長編2作目で、日本公開されるのはこれが初めてです。
青木 僕も監督のインタビューを拝見しましたが、(デヴィッド・)クローネンバーグの『ザ・フライ』と、あとは意外ですが小津安二郎の『父ありき』も参考にしたと語っていましたね。海外版のチラシを見ても父と子が並んでいるビジュアルなんですよね。
松本 新鋭監督でここまでの映画を撮れるってすごいですね。
渡辺 そうなんです。フランスの名優ロマン・デュリスが出ていたり、映画ファンに刺さる要素はあると思うんですけど、“アニマライズ・スリラー”とすることで、普段あまりフランス映画を観ない方たちも入りやすくなっているんじゃないかと。
青木 宣伝を打ち出す上でのジャンル設定が難しい映画ですよね。
渡辺 配給・キノフィルムズさんの中でもかなり議論があったようなんですけど、ただ最初に試写をした際に「泣いた」という声が多かったんですね。そこで「親子のドラマとして宣伝すべき」という声もあれば「いやいや“クローネンバーグ”という映評が出ているんだから、そっちを推していこう」という声もあったようで、最終的には、近年はホラーが人気というのもあってスリラーのテイストを押し出していこうということになったそうです。
松本 冒頭からいきなり羽根の生えた男が出てきて、最初から「これはこういう世界の話です」という描かれ方をしてるんですよね。そこにすごくびっくりしました。
渡辺 説明がないんですよね。人間が動物化していることが既に当たり前のこととして受け入れられている世界として描かれてるんです。
青木 普通はああなるまでのプロセスを描くものだけど、そうじゃない。最初から宇宙人が地球で暮らしているという設定で描いていた『第9地区』と同じ描き方ですね。
渡辺 導入も含めて見せ方がうまいですよね。
青木 いま、世界中で移民の問題があったり、「分断」が叫ばれる中で、自分と異なる存在にどう向き合うべきかを描いているのがうまいですね。
奥村 原題は『Le Règne Animal』で英語だと“The Animal Kingdom”ですよね。これを『動物界』という邦題にした経緯は知りたいです。
渡辺 当初はそのまま『アニマル・キングダム』でいこうかという話もあったんですけど、既に『アニマル・キングダム』という別の映画があるんですよね。加えて、『アニマル・キングダム』だと動物ドキュメンタリーみたいな雰囲気があるので日本語にしようという流れになったそうです。
編集部 オーウェルの「動物農場」を思い起こさせるような“ディストピア”感がある邦題ですね。
青木 結構、攻めている感じがあって、すごく良いと思います。
奥村 映画自体がヨルゴス・ランティモス監督の『ロブスター』を彷彿とさせるセンセーショナルな雰囲気がありますよね。
青木 たしかに“ランティモス感”ありますね。
渡辺 映画を観ると突然変異ということで『X-MEN』のほうがイメージとしては近いかもしれません。
松本 こういう映画だとどういう層の観客に向けて打ち出すことになるんですか?
渡辺 わりと大人向け、30~40代で映画を観慣れている層ですね。
松本 オープニングから、ただならぬ雰囲気というのがすごくありますよね。やはりジャンル映画としてホラー系の映画ファンに打ち出すのが正解なのかな。
渡辺 実は海外の予告編だと、“新生物”の姿は一切映ってないんです。
青木 場面写真もかなり抑えている印象がありました。
渡辺 本国から素材が全然こなかったんですけど、おそらく日本公開が一番最後ということもあって、予告は許可が下りたのかな? でも、その(新生物が映った日本版の)予告を観て反応する方がすごく多かったですね。「何が出てくるかわからない」よりは「これくらいの新生物が出てきます」というガイドラインがあると、反応する方が多いのかなと。
松本 それに関して実は今日、すごく聞きたかったんですけど、ホラー系の映画でいわゆるネタバレみたいな部分って、宣伝段階でどこまで出すものなんですか? 例えば最近だと『破墓/パミョ』は一切出してないですよね。「何が出てくるのか?」で終わらせているんですよね。どこまで踏み込んでいくべきか…。
奥村 ホラー系で言うと、何かしらのアイコンがいる場合は、僕はそれは出していきたいと思います。例えば『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のペニーワイズや『LAMB/ラム』のアダちゃんのようなキャラクターです。逆に『破墓/パミョ』の場合は、出てくるものが本当の大オチなので、その場合は不穏な雰囲気を壊さないように「何が出てくるのか?」と想像力を煽る方が正解かなと思いますね。
青木 いわゆるネタバレに関しては、十数年前と比べて、難しい部分が多いですよね。
渡辺 『動物界』で言うと、本国は何が出てくるのか一切見せないというやり方でしたけど、フランスであればロマン・デュリスと若手ライジングスターのポール・キルシェが出ているというだけで「観たい」と思う人も多いですが、日本だとなかなかそれだけでは難しいですよね。
松本 出し過ぎると「ネタバレだ!」って怒られるけど、逆にあんまり出さないと「どんな映画かよくわからない」となってしまうじゃないですか。
奥村 “わかりやすさ”と“想像力”のバランスですよね。どこまで想像させたいか? というのを予告編でブレーキを掛けながら見せる感じです。『動物界』に関しても、新生物の姿をたくさん出し過ぎちゃうと「いろいろ出てるんだな」と予想がついちゃうけど、出す数を絞ったりチラ見せに留めることで「他にも出てくるのかな?」と想像が膨らむ。
青木 難しいですよね。あえて見せないで、ティザー感を出しているつもりでいたら「何も起こらない」ということもありうるし。煽っているつもりが何もしてないみたいな…(苦笑)。ただ『動物界』に関しては、実際に僕自身、観てみたら「こんな映画だったのか!」と驚いたので、良い衝撃を与えられるんじゃないかと思います。泣かされます。
松本 この予告やチラシの雰囲気で「泣ける」って思わないですよね。そこは公開後に口コミで広がるといいですよね。
青木 振れ幅がすごく大きな作品なので楽しめると思います。
『ぼくとパパ、約束の週末』(11月15日公開)
宣伝担当・株式会社ウフル 青木
プロフィール:映画配給会社、ビデオメーカーを経て、現在はIT企業の内部の映画事業部に所属し、映画宣伝を行なう。最近では濱口竜介監督『悪は存在しない』を担当。今回の『ぼくとパパ、週末の約束』では宣伝プロデューサーを務める。
青木 この作品は、自閉症の男の子と父親が、推しのサッカーチームを見つけるためにドイツ中のスタジアムを巡るというお話です。
どう宣伝をしていくかと考える中で、静岡市にあるミニシアター「静岡シネ・ギャラリー」さんのXが時折、話題になるんですけど、ポストの特徴として、あえてタイトルを出さずにあらすじだけを書くというのがあって、作品によってものすごくバズるんですね。この作品について、シネ・ギャラリーさんに書いていただいた時、84万インプレッションもの反応がありまして、そこで「なるほど、みんなこういう作品を待っているんだ」という感触を得ました。
奥村 みなさん、どの部分に反応してたんですか?
青木 設定ですね。
奥村 自閉症の男の子がドイツ中のスタジアムを回る実話という部分ですか?
青木 加えて、お父さんが忙しい仕事をやりくりして、週末に弾丸ツアーで一緒に回るというのがポイントだったみたいです。この設定自体が宣伝のコンセプトになるんだなと感じました。
あとは、別の記者さんに取材していただいた時に「ドイツで100万人を動員」という言葉がすごく引っかかったとおっしゃっていたんですね。ドイツで『ミッション:インポッシブル デッド・レコニング』を退けて大ヒットを記録したんです。『動物界』も「フランスで100万人突破」とありましたけど、「100万人」というのはインパクトがあるんですね。そうやって、宣伝を進めながら、みなさんの心に引っ掛かる部分に気づいていった感じでした。
もうひとつ、強調しておきたいのは「自閉症を抱えた男の子が…」ということで“感動のドラマ”と思われがちなんですけど、結構ハチャメチャで明るいエンタテインメントに仕上がっていて、試写会の感想でも「最初は構えて見たけど楽しめた」という声を多くいただいています。
先日、主人公のモデルとなった本人達にもオンラインでインタビューをしたんです。いまはもう19歳になっていて、チューリヒの大学で物理学を学んでいるんですけど、映画化が決まった時から制作チームと綿密に話し合いながら進めていったそうで、自閉症というものと映画というエンタテインメントのバランスを特に気にしていたそうです。単に「かわいそう」とか「苦労を抱えながらも家族が頑張っている」という作品にはしたくないと。
宣伝の難しい点としては、ドイツ映画であり、有名な俳優さんが出ているわけではないので、これからオンラインも含めて積極的に試写会を行なっていこうと考えています。
奥村 見た時に自分が宣伝を担当した『ワンダー 君は太陽』を思い出しました。『ワンダー』の主人公は生まれながら特別な顔をしているんですけど、それを周りの人々も含めて、普通のこととして受け止めていく物語の空気感がすごく似ていると思いました。『僕とパパ、約束の週末』でも、途中で宇宙が好きな主人公がヘルメットを被っているシーンが唐突に出てきましたけど、それを見て『ワンダー』とリンクするなと感じました。
青木 あのシーンは、もしかしたら『ワンダー』へのオマージュとして入れているのかもしれませんね。ただ、最近の映画、特に洋画に関しては、ホラーであったり強めで刺激的なジャンル映画のほうがヒットする傾向が強いですよね。こういうハートフルな作品を当てる秘訣をぜひ教えていただきたいです。
奥村 『ワンダー』に関して言うと、まず何よりも作品の良さがちゃんと伝わったという部分が大きかったですよね。宣伝側も「感動」という言葉は前面に出していきますけど、やっぱり一般のみなさんの口コミの「感動した」という言葉よりも強いものはなかったと思います。あとは主演のジェイコブ(・トレンブレイ)くんが来日して、いろんな話をしてくれたのもありましたし、彼自身、この作品をきっかけにいろんな活動をするようになって、そこでの言葉がすごく説得力を持っていたと思います。
青木 もう一点、『ぼくとパパ、約束の週末』という邦題についても触れておきたいと思います。原題(Wochenendrebellen)は「週末の反逆者」という意味で、映画の中で主人公のジェイソンくんは、普段は細かく守るべきルールを決めて、絶対に破らないで生きているけど「週末だけは反逆者になろう」と言うんですね。
僕自身は、普段はあまり原題を変えたくないタイプなんですけど、この映画、このビジュアルで“反逆者”というのはなかなか難しいな…というのもありまして(笑)、『僕とパパ、約束の週末』としました。
松本 すごく良いと思いました。
渡辺 ハートウォーミングな感じが伝わります。ドイツ映画でサッカーが題材で“反逆者”だと…。
青木 フーリガンをイメージしちゃいますよね(苦笑)。
渡辺 その意味でも、この邦題で正解だと思います。
奥村 あとビジュアルとあわせて『6才のボクが、大人になるまで。』とイメージが重なりますよね。
青木 そうなんですよ。それはみなさんに言っていただけますね。
松本 ハートウォーミング作品ということで言うと最近では、どちらも松竹さんの配給ですが『花嫁はどこへ?』や『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』も評判が良かったですよね。こういうタイプの映画がきちんと当たるんだなというのを感じました。この映画も同じ匂いを感じますよね。
青木 方向性で言うと昨年の『パリタクシー』がありますよね。
松本 『パリタクシー』で流れが変わったというのは感じますね。
奥村 超大作やシリーズ物があふれかえる中で、規模は小さくともこういう良質な洋画があるのはすごく大事なことだと思います。
青木 最初にお話ししたシネ・ギャラリーさんの例もそうですが、みんな、面白い映画を探しているところはあって、そこをきちんと抽出して、宣伝を打ち出していくんですけど、何よりも基本は物語の面白さをきちんと伝えることなんだなと思います。
邦画であればキャストや監督のインタビュー稼働も多いですし、制作のプロセスを宣伝材料にできるけど、洋画の場合は素材も限られる中で「物語を売る」という基本に立ち返って宣伝していくことが大事ですよね。
あと今回、字幕監修に精神科医の山登敬之先生に入っていただいています。映画の中でジェイソンくんが同級生に好きなサッカーチームを聞かれて答えられないでいると、「FCコミュ障?」とからかわれるシーンがあるのですが、「コミュ障」という言葉が差別的でないか? 普段使われてる言葉だからこのシーンで使用してもいいのではないかという議論を字幕ごとに検証していきました。やはり言葉ひとつにしても、いろんな受け止め方があるので、そこはいまの時代、きちんと考えていかないといけないんだなと勉強になりました。
奥村 僕自身、映画を観て心に残ったのが、自閉症の子が周囲の刺激をどのように感じているかというのをすごく丁寧に描いているなという点で、周りの音がどんなふうに聴こえて、どんなふうにパニックになってしまうかということなどをしっかりと描いているんですよね。経験していないからわからない感覚でしたが、例えばの話、道端やお店で騒いでいる子がいた時に、これまでなら「うるさいな」と思ってしまう人が、こういう映画に触れることで「もしかしたら、事情があるんじゃないか」と自分の中でひとつ立ち止まるきっかけを与えてもらえるなと。
あとは、お父さんが自閉症の息子と向き合いたくなくて、忙しさを言い訳にしてジェイソンから逃げているという描写がすごくリアルでグサッと刺さりますよね。これは自閉症のお子さんのいる家庭に限らず、育児をするのがどうしても母親中心になりがちな部分はあると思いますし、お父さんはお父さんで「仕事をして稼がないと」という思いもあるんだけど、それが子育てに向き合わない逃げ口になっているとい うのは、すごくリアルな描写だなと思いました。そういう意味で他人事じゃなく身近に感じる映画だなと。
青木 決してすごく特殊な話ではないんですよね。そういう意味で広がりのある作品だと思いますし、みんな余裕がなくて殺伐とした世の中だからこそ、こういうハートウォーミングなものを求める気持ちが強いんじゃないかなと思いますね。
大盛り上がりの洋画宣伝座談会、前半戦はここまで。『ドリーム・シナリオ』『JAWAN/ジャワーン』の宣伝戦略とは!? 後半は後日、シネマカフェにて掲載予定。お楽しみに!
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