『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』ペドロ・アルモドバル監督こだわりの美術品に注目
cinemacafe.net / 2025年1月4日 14時0分
ペドロ・アルモドバル監督、初の長編英語作品『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』。本作に登場する美術品には監督のこだわりが随所に見られる。
物語は、病に侵され安楽死を望む女性マーサ(ティルダ・スウィントン)と、彼女に寄り添う親友イングリッド(ジュリアン・ムーア)の最期の数日間を描く。ペドロ・アルモドバル監督は、人生の終わりと生きる喜びをカラフルな映像とユーモアで表現し、ふたりのオスカー女優が繊細で美しい友情を体現している。
また、カルチャー、ファッション、音楽、インテリア、美術品など、幅広い分野に造詣が深いペドロ・アルモドバルのこだわりが、本作のいたるところに散りばめられており、ただの背景では終わらない物語を孕んでいる。
常に色彩感覚溢れるアルモドバル作品だが、本作でも赤と青をキーカラーとしてうまく散りばめ、人生の最期を描く物語に彩りを添えている。美術を担当したインドル・ワインバーグは、『スリー・ビルボード』(17)や『サスペリア』(18)で美術を手掛けており、ペドロ・アルモドバル監督とは本作が初タッグ。そんな2人がこだわりぬいた美術品も見どころの一つである。
ティルダ・スウィントンが演じる主人公マーサの自宅にも、まるで登場人物の1人かのように堂々と飾られた美術品の数々が登場する。友人のイングリッドが訪れ、ソファーに座り2人が話し込むシーンで見ることができる3つの美術品。
左に飾られているのは、ルイーズ・ブルジョワの作品。現在、東京・六本木の森美術館にて国内27年振りの大規模個展「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」も開催中だ。この作品は、個展のサブタイトルにもなっている「地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」の文字が刺繍でハンカチに綴られており、ルイーズ・ブルジョワの波乱の人生、そして人柄を象徴する作品のひとつとして知られている。
真ん中に飾られた写真は、スペインの写真家クリスティーナ・ガルシア・ロデロの作品。各地の伝統的な祭りや現代的な儀式を撮影するドキュメンタリー写真家として世界的な評価を受けるアーティストだ。この作品はイタリア・プーリア州で聖土曜日にキリストの死を嘆き悲しむ女性たちの集団を写した写真。戦場記者として活躍したマーサらしいチョイスとなっている。
右に飾られているのはティルダ・スウィントンの人物画で、ティルダ・スウィントンの実生活のパートナーであるサンドロ・コップの作品である。サンドロのInstagramアカウントで作品について紹介しており、ハッシュタグからティルダへの愛が伝わる、愛情深い作品だ。
部屋の別の角度を写した場面写真にあるのは、ニューヨークのカルチャー誌「Paper Magazine」のポスター。その昔マーサとイングリッドがともに働いていた雑誌というのがこのペーパーマガジン。現在はオンライン版のみが存在しており、アルモドバルは「マーサとイングリッドは時代の最先端を行く街、ニューヨークのあらゆる出来事を発信するこの雑誌の編集部員として働き、若かりし頃の最も活気に満ちていた年月を共に過ごした。同誌を大成功に導いたのち、マーサは戦場記者に、イングリッドは小説家になった」と設定の詳細も明かしている。
ここでは1992年1月発売号のカバーデザインで、アルモドバルの監督作『ハイヒール』(91)の特集が掲載された号が飾られている。
ほかにも劇中には、ニューヨーク出身の画家エドワード・ホッパーの作品や、ジェイムズ・ジョイスの作品を映画化しジョン・ヒューストンの遺作となった『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』など、多くの芸術作品、小説、映画、そしてアーティストの人生が言及される。
いずれも、映画の舞台であるニューヨークにゆかりがあったり、正と死を追求するアーティストや作品だったりと映画のテーマから連想されるものばかり。
随所に散りばめられたペドロ・アルモドバル監督のこだわりに、ぜひ注目して鑑賞して欲しい。
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は2025年1月31日(金)より全国にて公開。
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