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「踊る大捜査線」本広克行、再始動は一度断った 『室井慎次』監督を引き受けた理由

シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年10月27日 7時10分

 室井の生活を描くのは楽しかったという。「定年前に退職したとはいえ、室井さんは官僚だったのでそれなりにもらっていたはずだから、豊かな生活をしてると思うんです。車だって、ふつうは軽トラなのに、ダットラ(=ダットサントラック)ですからね。自分の畑でできる作物で子供たちを育てて、バルコニーで星を見ながらロッキングチェアに揺られ、ゆったりと好きなお酒を飲む時間がある。ある意味、これは男の人のあこがれです」と声を弾ませる。

 「お酒は、亀山さんが好きな『厚岸(あっけし)』というウイスキーのブランドの方々が、ラベルまで特別に作ってくださって。ガレージは、クリント・イーストウッド監督・主演の映画『グラン・トリノ』(2008)みたいに、道具がピシッとそろってる、男の子の大好きなヤツをやらせてもらいました。ロッキングチェアは『さすがに室井さんでもそこまでは作らないだろう』ということで、通販で(笑)」と明かす。さらに、室井が猟銃免許を友人に誘われて取ったという劇中設定も「そんな友人、いたのかなって(笑)。そういうのを考えるのも演出の仕事なんです」と笑った。

室井のきりたんぽ作り、柳葉の実体験が元だった

 室井一家が住む池のほとりに佇む家も印象的だ。「ジャン・レノの映画『ラスト・バレット』(2020)で、ああいう小屋が出てくるんです。すごくいいなって、そういう家を制作部に探してもらって。雪が降って緑もあるロケーションで、スタッフや役者さんたちの控室もないといけない。すごく難しかったですけど、新潟で見つかりました。バルコニーとか作業小屋とかは、美術で作っています。住んでる方たちは撮影の4か月間、ホテルに移っていただきました」と紹介。囲炉裏などの室内はセットで、「CGの技術が進歩して、窓外は合成なんですよ。ぜんぜんそうは見えないでしょ?」とうれしそうにアピールした。

 食にもこだわった。室井がきりたんぽを自ら作るシーンは、台本にはなかったのだという。「あれは保存食で、柳葉さんもご自分で作られていたそうです。なので、それをやってくださいとお願いしました」とのこと。飼い犬の秋田犬・シンペイが必ず室井たちと同じタイミングでご飯を食べるのは「家族の一員ということです。生活を描くうえで、食はすごい大事ですよね」と説明。室井が家の掃除中に食べていたカップラーメンは「踊る」お馴染みの「キムチラーメン」だが、それには仕掛けがあるようで、「『室井慎次 生き続ける者』で正解が出てきます」とニヤリと笑った。

 本広監督は「やっぱり、君塚さんの脚本がすごいんですよ」としみじみ。青島(俊作/織田裕二)と室井の“約束”は「踊る」を貫く芯になるものだが、「いい大人があんまり“約束”とばかり言ってるのはちょっと子供っぽい。そこを里子たちに、約束なんて守れない、と言わせているところが脚本の巧みなところです」と感心する。「作っている最中、『あ、こういうことなんだ!』って僕が思った本は、これが初めてでした。事件に関しても『こんな解決方法があるんだなあ』とびっくりして、先日君塚さんにもそうお伝えしたら『だろ?』って(笑)。僕は感動しました。観た方がどう捉えてくださるか、楽しみです」と本広監督。監督自身が驚いたという『生き続ける者』の結末を楽しみに待ちたい。(取材・文:早川あゆみ)

『室井慎次 敗れざる者』全国公開中
『室井慎次 生き続ける者』11月15日(金)全国公開

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