「踊る大捜査線」で欠けていた室井慎次の最終章 脚本・君塚良一が“室井の終焉”を執筆した理由
シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年12月14日 6時46分
室井が故郷・秋田で里子たちを育てているという設定は、当初から考えていたという。「プロデューサーとのご相談ではあるんですが、彼なりに青島との約束を守れなかったことの償いはしているだろうと思いました。僕の中のテーマに、ずっと犯罪被害者の問題があるんですね。ですから、犯罪に関わった周りの家族を支援しているのではないかというのは、自然な流れでした」と明かす。2009年に自身が脚本・監督を手掛けた映画『誰も守ってくれない』は、主人公が犯罪加害者の家族を守るという直球のテーマだった。君塚のこだわりがわかる。
擬似家族のホームドラマ
“鎧”ともいえるスーツとコートに身を固めていた室井は、畑仕事をしながら子育てをしている。今作を観たファンは、最初大きな驚きを覚えただろう。「それはそうだと思います。だから、今作はゆっくりはじまっているんです。回想シーンもたくさん入れてね」と君塚は打ち明ける。「僕やプロデューサーの中では、畑を耕して、果物や野菜を育てて、お米も作っている室井が、かなり早くからイメージとしてありましたけど、観る方はそうではないですからね。最初は、事件は入れず、子どもたちとの話にしようと思っていました」
君塚は当初の構想を、「育てている子どもたちの中に、ちょっとミステリアスな子が入ってきて、その子が出来上がった疑似家族を壊しにかかるんです。家庭内の心理サスペンス、あるいはスリラーみたいな方向です」と明かす。「ミステリアスな子という定石で、『踊る』史上最悪の凶悪犯・日向真奈美(小泉今日子)の名前が上がって、娘という設定は当然のように出てきました」
そこに死体が発見されるという事件が絡んでくるのは、「やっぱり、観客を面白がらせて、ワクワクさせるのが『踊る』だから。そのために、もう1つの線として過去の事件が絡んできて、室井さんが秋田に帰ったからと言ってハッピーエンドな老後をおくれているではないぞという形にしたんです。僕の中ではあくまで、家族の話、ホームドラマです」と明かした。劇場版2作目『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の事件に絡めたのは、「一番たくさんの方が観てくれているから」という理由だった。
『生き続ける者』の最後、室井はこの世を去る。その構想も最初からあったのだろうか。「概念としてはありました。人前から消えていく、という。誰も知らないところに行ってしまうとか、あるいはずっと歳をとって朽ちていくとか。それが最終章になると思いました。ですから、たとえば秋田で探偵業をやっています、ということにはならないんです」と君塚は語る。室井の生存を諦めきれないファンの意見もネットなどで散見されるが、「観客の方がそういうふうに思ってくださるなら、それを僕が否定する理由は何もないです。観て、感じてくださった通りです」(取材・文:早川あゆみ)
『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』は全国公開中
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