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是枝裕和監督、広瀬すずは「現場で台本を見ない」 7年ぶり3度目のタッグも完璧な演技

シネマトゥデイ 映画情報 / 2025年1月13日 6時2分

 「長回しだしカメラも移動するので、テストをしようと思って準備をしていたら逆にすずに“テストしますか?”って言われたんですよね。つまり“もう撮ってもらって結構です”“一回目から100で出せます”ということ。そうすると、こっちの方が失敗できないなって……。結構そういうことが多いんですよ。僕が何かを引き出したと自負できるシーンもなくはないけど、基本的に現場に入ってきた時に“どうぞ”という感じ。ホントに大したもんだなあと……」

 その是枝監督が「何かを引き出せた」と感じられたのが、咲子が姑(高畑淳子)に胸を突かれ、言葉につまるオリジナルのシーン。原作では夫のボクサー・陣内(藤原季節)の体に異変が起きたのちは試合のシーンはないが、今回は危うい状態で試合に挑んだ結果、救急車で運ばれる展開に。試合のシーンを加えることで夫の異変に気付いていながら試合をさせた咲子のエゴを表している。

 「夫(藤原季節)が倒れた後に病室で姑に“あんた知ってて息子に無理させたんだろ。怖かおなごやね”って言われるところはオリジナルで書いたんですけど、あの時のすずの表情だけの芝居が本当に素晴らしかった。自分のエゴを隠しながら献身的な嫁を演じているんだけど、内心では“あそこでやめておけば”と思っている。でも、そうすると自分も手にしかけた、姉にも自慢できる幸せを手放さなければならなくなる……という葛藤が垣間見えるシーンを書こうと思いました」

 オリジナルのシーンといえば、試合直前にもある。雨が降る中、咲子がソファーで夫を膝枕するシチュエーションで、咲子は外を見ながら夫に物憂げな表情で力なく「もうやめてもいいんだよ」と言い、「もう少しで手の届くところまで来ているんだからよ」と思いとどまる夫に「雨嫌い」とつぶやく。

 「揺れる感じのすずをもう少し撮りたいと思い、加えました。ボクシングを辞めてもいいと言うんだけど、あの揺れを一旦挟んだ上での試合にしようと思った。特に、後半の4、5、6話は咲子の心の揺れがすごく大事。咲子と滝子の立場が逆転していくので、そこに至るまでに足りないと感じたところを加えた感じです」

 咲子と滝子の長年の確執が思わぬ展開を迎える最終話は全話の中でも白眉で、広瀬の演技力が最大限に引き出されている。(取材・文:編集部・石井百合子)

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