遠く仰ぎ見て「わたしとは何か」と問う。【石井ゆかりの幸福論】
ココロニプロロ / 2021年4月25日 18時45分
大人気のライター・石井ゆかりさんによる連載コラム「石井ゆかりの幸福論」。 占いを通して、数々の人生や幸せのあり方を見つめてきた石井さん自身の言葉で紡がれる「幸福論」をお楽しみください。
前回に引き続き、第9のテーマ、遠く仰ぎ見て「わたしとは何か」と問う。(後編)をお届けします。
9.遠く仰ぎ見て「わたしとは何か」と問う。(後編)
「自分は誰なのか」、すなわち「アイデンティティ」は、とても危険な概念でもあります。なぜなら、簡単に差別意識やナショナリズム、排外主義などに結びつくからです。
特に、ごく狭い視野の中で、小さな世界だけの経験で生きている人は、「他者」「異邦人」が理解できず、ゆえに「怖ろしい」「危険」と感じ、ほとんど無意識に排除しようとします。人間は「わからない」ものは、幽霊から虫から、すべて「こわい」のです。
でも、ごく広く旅をした人なら、「アイデンティティ」の捉え方も変わります。日本にいる間は「関西の人は苦手」「九州は怖い」などと感じている人も、遠く海外に旅に出て、現地で日本人に出会ったら、相手がどこ出身だろうと「仲間!」と感じられます。同じく、宇宙人の集団に囲まれたとき、地球の人間に出会えたなら、「仲間!」と思うはずです。
広く旅をし、深く学んだ人は、「わからない」を「わかる」に変えていきます。更にそのプロセスで、「わからない」ものとのつきあいかたを身につけていきます。どんなに賢くても、どんなに多くを学んでも、全てを知り尽くすということはできないでしょう。ゆえに、この世界には常に「わからないもの」が残っているわけですが、そうした「わからないもの」も、いつか「わかるようになる」可能性があります。むやみに恐れたり排除したりするのではなく、「わからない」という状態を受け止め、「わかるかもしれない」道を探すのです。
広い世界を旅し、深く学んだ人は、差別や排外主義的な観念に陥りにくくなります。「理解できる」と思える範囲が広く深くなるからです。「私は何者か」を、限りなく広い世界のなかで捉え直し続ける作業は、自分以外の人々を幸福にする力を授けてくれます。なぜなら、誰も排除されたり、差別されたりしたくないからです。
人間は「自分だけが幸福ならそれでいい」とは、いかないのです。開きなおってそう思ってみても、心のどこかに罪悪感がうずきます。自分が誰かを、特に相手の行為とは関係なく「怖い、いやだ」と感じたとき、そう思われた相手は、多少なりとも傷つくのです。
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