鏡リュウジ×寺山マル×田波有希~タロット×漫画『サングリアル』座談会vol.4
ココロニプロロ / 2016年10月12日 10時15分
鏡リュウジ×寺山マル×田波有希~タロット×漫画『サングリアル』座談会vol.4
2016年、タロットを重要なモチーフとしたファンタジー漫画『サングリアル~王への羅針盤~』が誕生!
9月12日にその第2巻が発売されるということで、帯のコピーを手がけた鏡リュウジさんが、作者の寺山マルさん、監修協力をしている占い師の田波有希さんと初対面しました。
漫画の舞台は中世ヨーロッパ。王族の姫君と、貧民街で暮らす謎めいたタロット占い師の出会いから始まる魅惑のストーリーに興奮を隠せない様子の鏡さんが、寺山さん、田波さん、そして担当編集者の瀬尾さんに様々な質問を投げかけます。
作品づくりの舞台裏はもちろん、タロットの豆知識や歴史的背景、さらには占いとの上手な付き合い方にまつわるお話まで飛び出して…。
前回まではタロットの歴史や背景にまつわるお話を伺ってきましたが、今回は漫画家・寺山マルさんの過去・現在・未来にスポットを当てていきます。『サングリアル』のマル秘エピソードや気になる今後の展開についても、ちょっぴり聞けるかも?
鏡リュウジ…心理占星術研究の第一人者、圧倒的な支持を受ける存在で、大学で教鞭をとるなど、アカデミックな世界での占星術の紹介にも積極的。
寺山マル…2014年、新人コミック大賞で入選、デビュー。漫画を読むのとガムが好物。
田波有希…プロとしての鑑定歴16年、1万人超の鑑定数を誇るタロットリーディングを中心とした占い師。
次なる夢は舞台化、映像化?
鏡リュウジ(以下/鏡):『サングリアル』は初の連載作品とのことですが、これまではどんな漫画を描かれてきたんですか?
瀬尾亞佑(以下/瀬尾):前の作品とは全然、作風が違うんですよ。以前は現代の日常的な物語を読み切りで描いたりしていて。
鏡:ずいぶん幅が広いんですね。
寺山マル(以下/寺山):そう言っていただけるとうれしいです!
鏡:『サングリアル』は歴史大河ロマンですよね?
田波有希(以下/田波):歴史大河!私たちもそう言ってたんですよ。
瀬尾:初めての連載なのに、こんな大変な作品を頑張って描いてくださって…。
鏡:描き込みが細かいですよね。すごく時間がかかりそうだなと思いながら読んでいました。
寺山:タロットが持つパワーに負けない世界観をつくりたいと思って、洋服ひとつ取っても、なるべく細部までこだわって描くようにしてます。
編集部:てっきり、最初からそういう作風の方なのかと思っていました。
瀬尾:今回の作品で大化けしたんです。
鏡:絢爛豪華な世界ですよね。お嫌でなければ映像化してほしいです。個人的にはCG実写、希望です(笑)。
田波:CG実写いいですね!舞台化も憧れます。
鏡:確かに舞台もいいなぁ。宝塚でやってくれたら合いそうな気がします。
瀬尾:実は作品づくりの過程で宝塚を観に行ったんですよ。2回くらい行きましたよね?
寺山:はい。素敵でした。
鏡:やっぱり観たんですね!宝塚っぽさがあるなと思いました。
田波:寺山先生は、一度対面鑑定を受けただけでストーリーが浮かんでくるほど感受性が豊かだし、とにかく吸収力が高いので、舞台を観に行ったりすると、ものすごく反応してくれるんですよね。
寺山:ありがとうございます。
田波:本当に苦労して、3人とも作品に潜って潜ってつくってるので、舞台や映像になったら涙が出ちゃいそう。
寺山先生なんて泣きながら絵を描いてるんですよ。それも、嫌だからではなく感動して泣いてるんです。いい話やーって(笑)。
鏡:ご自身が納得できるまで力を出しきってるってことですね?
寺山:そうなんだと思います。
『サングリアル』は愛の物語!?編集部:これは伺っていいのかわからないのですが…。「ココロニプロロ」は恋愛がテーマのサイトなので、今後、主人公2人の間に恋愛の展開があるのか、差し支えない範囲で教えていただけないでしょうか。
寺山:そうですね。あったらいいなと思います!
瀬尾:恋愛、恋愛はしていない2人ですが、何者でもなかった男の子アンが王を目指し、その斜め後ろに女性であるキルケがいて背中を押して、一緒に王座へ登っていくというお話なので、何かしら愛の形は出せたらいいなと考えながらつくってますね。
田波:まず、2人の出会いについて考えたとき、アンはバックグラウンドが何もわからないキルケをいきなりお城に連れて来るじゃないですか。そのときアンの中で恋のような気持ち…自分にとってのものすごいインパクトがなかったら連れては来ないだろうという感覚のもと、みんなでお話をつくってるんです。
瀬尾:そうですね。そしてこの物語の発端は、実は愛の話なんです。寺山先生は2人の愛の話っていうところからイメージをつくりあげてるので、見え方としてはラブストーリーではないけど、根底には愛があります。
鏡:思うに最初、アンにとってキルケはお母さん的な存在ですよね。これはユング心理学では「アニマ」と言うのですが、そこから彼女が性の対象としての女性に変容するってことは、アン自身が男の子として成長していくこと。つまり愛の形の変容そのものが、アンの成長ストーリーを物語ることになるのかなという気がします。
寺山:わー!その解釈、すごくうれしいです!
田波:うれしいですね。ところで話は戻りますが、タイトルにある「サングリアル」という言葉について、どこまで広げたらいいか悩んでいるんです。先ほど言ってた「聖杯」としての意味も持たせられたら面白いなと思うのですが。
鏡:聖杯って、シンボリックに言うと「かけがえのない自分のアイデンティティ」の象徴だから、この作品自体がある意味、聖杯探しの物語ですよね。それから、王というのは自分自身の元型、基本的な存在の在り様そのものの象徴なんです。
この作品の主人公は、実際に王を目指すわけですが、何者でもなかった若者が自分自身になっていくという意味では、あらゆる物語の雛形をたどってると言えますよね。そういう意味でも『サングリアル』って深いなー。
寺山:本当ですか?
瀬尾:私たち、本当に血を吐くようにしてつくってるので、そう言っていただけると最高にうれしいです!
漫画、舞台…作品づくりはインプットが命編集部:『サングリアル』は今までとは作風が違うというお話でしたが、この漫画を描くにあたって影響を受けた作品はありますか?
寺山:そうですね。いろんなところから影響を受けてると思うんですけど、きれいなものが好きなので、よく画集を見たりはしています。あと、小さい頃に星の神話の本を眺めるのが好きで、読めなくても絵だけ見て楽しんでいました。
寺山:星座のハンカチなんかも好きで集めてましたね。そういうものが蓄積されてこの作品につながったんじゃないかと思います。宝塚も観ましたし。
漫画だったら、ジョージ朝倉先生の作品をよく読んでいました。『ベルサイユのばら』や『キャンディ・キャンディ』のような女の子っぽい漫画も好きです。そういう、ありとあらゆるものから影響を受けてるんじゃないかなと思います。
瀬尾:『エリザベート』を観たときは寺山先生、感動して「これだ!」って言ってましたよね。
田波:その後、上がってきた絵がすごく良かったのを覚えてます。
瀬尾:そしてミュージカルみたいな漫画を描きたいって。ババーンと音楽が聞こえてくるような、豪華絢爛な雰囲気の漫画を描きたいって言い始めたんですよね。
寺山:『エリザベート』は本当に感動しました。ヒロインが王家を思って歌い、でも息子には反発されて…というシーンの二重唱が素晴らしくて。素敵!切ない!と感じました。「ママは僕の鏡だから」って曲かな?
編集部:インプットが大事なんですね。漫画はもちろんですが、作品のイメージ的に、神話やミュージカルから影響を受けてらっしゃるのも、とても納得がいきました。
第2巻の見どころをちょっとだけ…!編集部:『サングリアル』の第2巻は、第1巻とガラッと変わっていくのかなと想像しています。見どころやキーパーソンを教えていただけますか?
瀬尾:簡単にお話すると、第1巻ではアンが「僕は王になるんだ」と覚悟を決めましたよね。でも、その時点ではまだ弱いし、口で言ってるだけなんです。そんなアンが実際、どうやって強くなっていくのか、どのように現実に立ち向かい、戦っていくのか、というのが第2巻で描かれています。キルケの謎もだんだん明らかになっていくので、そこも楽しみにしていただきたいですね。
編集部:キルケにそんな裏があるとは思っていなかったので、ちょっとドキドキします。
鏡:それにしても、これだけ細密な漫画を描き続けるのは大変ですよね?
寺山:そうですね。でも、最近は1人でやってる感覚がないんです。正直なことを言うと、瀬尾さんも有希さん(田波さん)も本当にいい方なので、もう力になっていただけるものなら、どんどんそうしてもらおうと思ってたくさん協力を仰いでいます。
その分、絵の部分では私は精いっぱい頑張ろうと思って、歌いながら描いてるような感じです(笑)。
鏡:歌いながら描いてるんですか?ミュージカル的な世界観の作品だから合ってますね(笑)。
寺山:はい。もし今、日常的な物語の漫画を1人で描いてたら、連載するのが逆にキツかったかもしれません。もちろん今も苦しいことはあるけど、楽しさの中に苦しさがある、という感じがします。
編集部:産みの苦しみの中に楽しさがあるって素敵ですね。
ところで、鏡先生は今回、帯のコピーを書かれたとのことですが、その際、何か意識されたことはありますか?
鏡:帯を書かせていただく機会は結構多いのですが、短くキャッチ―にしなくちゃならないから難しいんですよね。僕、長く書く癖があるから申し訳なくて。本当は大きいフォントで「読んで!」「買って!」って書きたいんですけどね(笑)。
一同:(笑)
鏡:でも、そうもいかないし、タロットに携わる立場からすると、このタイトルを見ただけでも語りたいことがたくさん出てくるから、どうしても情報量が多くなるんですよね。
『サングリアル』という作品自体が一つのタロットのストーリーになってるということも書きたいし、とにかく言いたいことがいっぱいあって、絞るのが本当に難しかったです。それで帯にありえないルビを振ってもらっちゃいました(笑)。
編集部:難しい漢字が出てくるんですか?
瀬尾:いえ、かっこよくルビを振っていただいたんです。それはぜひ書店でご覧ください!
次回予告
タロットを勉強したい方に朗報!占いの専門家による、おすすめの本をご紹介します。そして、鏡先生、寺山さん、田波さん、それぞれのお気に入りのタロットの絵柄も判明しちゃいます♪
鏡リュウジ
1968年、京都生まれ。国際基督教大学大学院修了。占星術研究家・翻訳家。
京都文教大学客員教授。平安女学院大学客員教授。
日本トランスパーソナル学会理事。英国占星術協会会員。
著書に『鏡リュウジ 星のワークブック』(講談社)、『オルフェウスの卵』(文春文庫)、共著 角田光代『12星座の恋物語』(新潮文庫)、訳書にヒルマン『魂のコード』(河出書房新社)、サバス『魔法の杖』(ヴィレッジブックス)ほか多数。
寺山マル
2014年、新人コミック大賞で入選、デビュー。
「月刊!スピリッツ」で『あいのあいだに(前後編)』掲載後、
本作が初連載作品となる。
漫画を読むのとガムが好物。
★Twitter@terayamamaru
田波有希
多摩美術大学卒業。同大学染織デザイン研究室助手を経て、美術作家として活躍しながら占い師に。
プロとしての鑑定歴16年、鑑定人数10000人以上。
東京、雑司が谷にて古本と占い「JUNGLE BOOKS」を拠点に活動。下北沢「FUTURE DAYS」などでも鑑定を行う。
「サングリアル~王への羅針盤」「神軍のカデット」監修中。
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