走りを楽しみドライバーを育む懐の深いスポーツカー【新型トヨタ86 プロトタイプ試乗記】【レビュー:トヨタ】
CORISM / 2012年1月10日 8時8分
アフターマーケットがトヨタ86を成長させる?
トヨタ86(ハチロク)は、伝説の名車ともいえるAE86型トレノ・レビンの型式に由来している。もちろん、それだけを意識しているわけではなく、水平対向エンジンを積んだFRスポーツであるヨタハチ(トヨタ スポーツ800)やトヨタ2000GTをも意識して開発されている。つまり、トヨタ伝説のスポーツカー成功例をベンチマークし開発されている。ある意味、マーケティングのセオリー通りともいえる。
面白いのは、トヨタ86はアフターマーケットのチューニングをかなり意識していることだ。これは、主にAE86がチューニング業界に支えられ名車として育ったからだ。現在と大きく違うのは、AE86が全盛期時、チューニングは絶対悪でホイール1本、マフラーさえ交換しただけでディーラーでの整備や点検が受けれなかった。今では考えられないくらい、完全にアンダーグラウンドの世界。こういったクルマは、闇車検で高額な費用を払い車検を通していたくらい。それくらい厳しい時代にAE86のチューニングをしていたクルマ好き達は、まさに猛者だった。
当然だが、車検や点検を通す者も、依頼した者も罰せられるくらいの覚悟があった。そこまでして、と思う人も多いが、当時はそういう時代だったのだ。こういった過程を経て、現在のようにチューニングも一部合法化されて来た経緯がある。そのため、このトヨタ86は、チューニング視点でいえば、AE86時代にくれべれば、はるかに楽しめる環境下にはある。クルマを自分好みに仕立て、楽しめる文化を育てられればトヨタ86も長く愛されるクルマになるのだろう。最近では、リーズナブルな価格と走る楽しさをもつクルマとして、スズキのスイフトスポーツが、そんなクルマとして高い人気を誇っている。
素直で使いやすい6MT、ダイレクト感のある6AT
さて、そんな昔を思い出しながら、最初に乗ったのは、6MT車だ。結構、軽いクラッチを踏みギヤを1速に入れる。カチッとしているわけでも、ストロークも短い感じもしない。共同開発したスバルのもつインプレッサのフィーリングとは、まったく違うフィール。クラッチも気難しさはなく、スルスルと自然につながる。イッキにレブリミットまでエンジンを回し2速、そして3速。すぐにシフトダウン。ブォン、と一発に決まるヒールアンドトゥ。慣れを必要とせず、自分の実力以上にスムースにすべてが決まる。シフトフィールとストローク、そしてクラッチが絶妙にマッチしていて、慣れを必要としない素直さがあり使いやすさが光る。
トヨタ86には、MTだけでなく6ATも用意されている。極論、ツインクラッチタイプの6速でも用意しておけば、ミッションは1つで済むのだが・・・。そういう観点以外では、6速ATは高級感とスムースさは一級品。低速から、かなりロックアップをさせているということだが、ギクシャクさは無くダイレクト感も十分。シフトダウン時には、ブリッピング機能も付く。もちろん、変速スピードもMモードにすると激速で、自分でMTを操作しているより全然速い。自由自在にドリフトしたいなど、特殊な走りをしないのなら、MTよりATの方が速い気がする。
高回転型200馬力エンジンだが、意外と低速トルクもある
エンジンは、スバルの水平対向にトヨタの直噴技術をプラスしたもの。直噴とポート噴射を使い分けるツインインジェクターを採用している。圧縮比も12.5という高圧縮比だ。最高出力は7000回転で200馬力。2Lで200馬力のスペックは、特別凄い訳ではなく、8000回転で225馬力を発生するシビック・タイプRもある。だが、低燃費志向の現在では、稀な高回転型エンジンだ。
ふと過去のことを思い出した。以前に乗っていたトヨタ アルテッツァというセダンのことだ。3S-GE型というエンジンを搭載し、210馬力というパワーを発揮していた。このクルマ、マフラーとエアクリーナーを換えていたこともあり、低速トルクがスカスカ。気を抜いて走っていると、プロパンのタクシー並だった。
そのイメージを一瞬持ったが、トヨタ86は想像以上にトルクがある。タウンスピードに近い程度で、エンジンが2000回転程度以上回っていれさえすれば、アクセルの微妙な操作にもクルマがスッと反応するトルク感とレスポンスの良さを感じた。これなら、ゆっくり走っている時でも意外と楽しそうだ。レーシングな人視点だと、レーシングスピードでの気持ち良さが絶対評価になる。個人的には、バランスが重要でタウンスピードでも気持ちよさも必要だと思っている。そういう意味で、カチカチのレーシングスピリット全開というクルマより多少ユルキャラ気味のクルマが好きだ。サーキットや峠に行くまでに、疲れてしまうクルマでは普段乗りたくないからだ。こういった個人の嗜好は、冒頭のチューニングでオーナーの好みに仕上げればいいだろう。
また、トヨタ86はエンジンサウンドにもこだわった。サウンドクリエイターと呼ばれる装備で、心地よいエンジンサウンドを積極的に室内へ取り入れている。このエンジンサウンドは、エンジン音というよりは、エンジンの吸気音。とくに、アクセルを深く踏み込んだ時に、グオォッというエンジンが空気を吸い込む音が心地よい。BMW M3CSLに装着されていたカーボン製のエアインテークチャンバーが奏でる音ほどでは無いが、なかなかマニアックな装備でもある。
コントロール性抜群のハンドリング
トヨタ86のハンドリングは、想像以上だった。ステアリング操作に対して、前輪がリニアに反応する。前輪の動きや感触がステアリングを通して、シッカリと伝わってくる。そのため、前輪のグリップ感が分かりやすいので、ハイスピードからでも思い切り突っ込める。ペタッとフロントタイヤがグリップして、スイっと向きを変える。これは気持ちがいい。キュッと向きを変えるタイプでは無いので、これもまたコントロールしやすく、スキルの高いドライバーだけのものではない。
リヤサスは、ダブルウイッシュボーン。水平対向エンジンを積み、スバルの工場で生産されるのだから、インプレッサの臭いがする。しかし、トヨタ側はほとんどが新設計だという。どちらにしても、なかなかパフォーマンスの高いリヤサス形状であるには間違いない。
このリヤサスも非常にコントロールしやすく作れている。ボクのテクニックでは、自由自在とはいえないのだが、ターンイン時でもコーナーの立ち上がりの時でも上手くキッカケを与えるとスゥイーとリヤタイヤが外側へと向きを変える。タイヤのグリップがそれほど高くなかったことと、路面グリップも低かったこともあり穏やかなスライドを体感させてくれた。
トヨタ86の横滑り防止装置(VSC)の作動もトヨタ車としては、異例に遅い。ほとんどのトヨタ車が、滑っていると体感する前にシッカリと横滑り防止装置が作動。ドライバーに気が付かれないようにクルマを安定方向に向けていた。しかし、トヨタ86は、ほんの少し滑りだしてから、本格的にシステムが介入するようだ。
トヨタ86はドライバーを育てる
トヨタ86を短い時間乗って感じたのは、ドライバーを育ててくれるということだ。ドライビングミスは、ミスとして伝える。ドライバーはミスしたことを理解し、自らにフィードバックをかけ成長する。うれしいのは、ただミスを伝えることではない。クルマは寛容で、ミスをしても事なきを得えることができ、ドライバーに修正できる余裕を与えていることだと思う。
例えば、リヤタイヤがスライドする前に前兆を感じさせることができる。その前兆を感じられなくても、滑り出しは穏やか。ドライバーがミスしたことを理解し、修正する時間を与える。多くのクルマが、電子デバイスで事が起きる前に処理をしてしまうなかで、トヨタ86はクルマと対話しながらドライビングできる。対話はスキルアップにつながる。免許を取ってすぐのドライバーでも、運転が好きならトヨタ86に1年も乗れば、ただ普通に運転していて経験だけはあるドライバーより確実に上手くなるだろう。
走ることを楽しいと感じ、楽しみ続けることができるのは、自ら運転が上手くなるプロセス感じることができること。いい道具とは、自らの成長を促してくれる。トヨタ86には、そんなクルマになる資質があると感じた。
東京モーターショー出品車 | トヨタ86(ハチロク)スペック |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 4240×1775×1300mm |
ホイールベース[mm] | 2570mm |
トレッド前後[mm] | F:1520mm R:1540mm |
乗車定員 | 4名 |
エンジン種類 | 水平対向4気筒 直噴DOHC |
ボア×ストローク[mm] | 86mm×86mm |
総排気量[CC] | 1998CC |
エンジン最高出力[ps(kw)/rpm] | 200ps(147kw)/7000rpm |
エンジン最大トルク[kg-m(N・m)/rpm] | 20.9kg-m(205N・m)/6600rpm |
ミッション | 6速MT(6速ATもあり) |
駆動方式 | FR |
サスペンション | F:ストラット R:ダブルウィッシュボーン |
ブレーキ | F&R:Vディクス |
タイヤサイズ | F:215/40R18 R:225/40R18 |
燃料タンク容量 | 50L |
燃料 | 無鉛プレミアムガソリン |
発売日 | 2012年春 |
価格 | 未定 |
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