【まずは、自動車取得税と重量税の撤廃が先だ! 歪んだマーケットを生み出すエコカー補助金&減税の矛盾】渡辺 陽一郎コラム【特集・コラム:ビジネス・経済】
CORISM / 2012年3月7日 8時8分
矛盾だらけで、クルマの開発や販売に悪影響を与えるエコカー減税
エコカー補助金の話題に続いて、延長予定のエコカー減税についても考えてみたい。
補助金と同様、平成17年排出ガス基準75%低減(4つ星)を満たした上で、燃費基準の達成度合いに応じて3段階に減税する。平成27年度燃費基準を達成できれば、購入時に支払う自動車取得税と同重量税を50%軽減。購入の翌年度に支払う自動車税は25%軽減される(自動車税の軽減は登録車のみで税額の安い軽自動車税は対象外)。
燃費基準プラス10%になると、自動車取得税と同重量税が75%軽減され、購入の翌年度に支払う自動車税は50%の軽減になる。燃費基準プラス20%では、自動車取得税と同重量税が免税され、購入の翌年度に支払う自動車税は50%の軽減。さらに初回車検時に支払う2年分の重量税も50%軽減される。
従来の減税では、免税になるのはハイブリッド車やクリーンディーゼル車だが、延長されるエコカー減税ではこの枠組みを撤廃。環境性能が優れていれば、モーター駆動を用いないガソリンエンジン車でも免税される。
その例がデミオ13スカイアクティブ、ミライース、アルトエコ。従来は75%の減税だったが、延長されれば免税だ。
ただし、延長されるエコカー減税は前述のようにJC08モード燃費に基づく平成27年度燃費基準がベースだから、該当車種は大幅に減る。従来の50%減税車は補助金も含めて対象外。75%減税車も補助金は受け取れるが、減税では明暗を分ける。
重くなり燃費が悪化しても、減税の対象になる矛盾
問題は減税対象に入るか否かの分かれ目だ。平成27年度燃費基準も、平成22年度と同じく車両重量と燃費数値のバランスで決まる。用いられる燃費基準が10・15モードからJC08モードに変わり、重量区分が細かくなるだけだ。そのために、重量区分がギリギリの車種では、メーカーオプションの装着やグレードの上級化によってボディが重くなり、燃費数値も少し悪化させながら、重量区分が変わることで減税車に格上げされる矛盾が生じてしまう。
例えばキューブ。15Xというグレードは車両重量が1180kgでJC08モード燃費は18km/lだ。JC08モード燃費の重量区分は1081kg以上1196kg未満に該当し、基準値は18.7km/lだから0.7km/l足りず減税ハズレになる。
ところが上級の15Gでは対応が変わる。車両重量は1210kgに増えて、JC08モード燃費も17.2km/lに悪化。それなのに対応する重量区分が1196kg以上1311kg未満に変更され、燃費数値も17.2km/lに緩くなる。まさに15Gと同じ値だから、辛くも減税対象に入るわけだ。
このボディを重くして燃費も悪化させながら減税対象に入る矛盾は、グリーン税制の名称で減税が開始された当初から見受けられた。平成27年度燃費基準では、重量区分が細かくなるものの、状況は変わらない。
環境性能の優れた車両を開発する時の基本は、必要な走行性能や居住性、衝突安全性を満たしながら、なるべくボディを軽く造り、各部の摩擦損失を抑えること。だからこそ、クルマの開発者はグラム単位で軽量化に取り組む。ボディが重くなり、燃費も悪化させて減税対象に入ったのでは、単に矛盾が生じるだけでなく、環境性能を進歩させる開発現場の意欲も萎えてしまう。
重くて大きいクルマほど有利な制度?
エコカー補助金も燃費基準がベースだから、同じ矛盾を抱えている。
このような制度が通用したのでは、オールアルミボディの採用に基づく抜本的な軽量化など、まったく期待できないだろう。1700kgの車両重量を1500kgに減らしても、ひとまわり小さな軽いクルマと同列に評価されるだけ。エンジンの排気量を大幅に縮小させて燃費数値を高めないと、減税対象には入らない。
逆の表現をすれば、排気量に対してボディの重い車種は、依然として有利な状態が続く。
典型的な例が、背の高いLサイズのミニバンだ。ヴェルファイア&アルファードの2.4リッターモデルは、売れ筋グレードで見ると車両重量が1890kgでJC08モード燃費が10.8km/l。エルグランドの2.5リッターモデルは、車両重量が1920kgでJC08モード燃費が同じく10.8km/lだ。両車とも平成27年度燃費基準で該当する重量区分は1871kg以上1991kg未満になり、対応する燃費数値は10.2km/l。プラス10%はムリだが10.8km/lであれば燃費基準はクリアできるから、50%の減税対象に含まれる。
ちなみに全高が1700mmを超える背の高いミニバンは、大半が減税対象。セレナは平成27年度燃費基準プラス10%だから、75%の減税を維持できる。
逆にエンジンの排気量に対してボディの軽いセダンやワゴンは壊滅的。セダンで減税を受けられるのは、アクセラの2リッターモデル(スカイアクティブ-G搭載車)程度になりそう。本稿の執筆時点ではJC08モード燃費の示されていない車種が多く、断言はできないが、従来の減税でもセダンやワゴンには75%軽減の車種は少ない。ハイブリッド車を除くと、減税車は少数にとどまるだろう。
となれば、セダンやワゴンの販売比率は今以上に下がる。減税と補助金の期間中は、多くのユーザーが両方に該当する車種の中から選ぶためだ。
現時点でも、国内の乗用車市場は売れ方の偏りが大きい。軽自動車が36~38%を占め、コンパクトカーが20~23%、ミニバンが15~18%といった比率になる。
今後は格差がさらに拡大。軽自動車は新型車の投入も活発だから、40%を超えるかも知れない。コンパクトカーも少し増えそうだ。
ミニバンは、すでに目新しさや流行で売れる時期は過ぎており、3列目のシートや畳んだ時に得られる広い荷室を求めるユーザーしか買わなくなった。売れ行きは横這いか減少傾向に入る。従って軽自動車とコンパクトカーがますます台頭する。
もともと日本の道路環境には小さなクルマが適しており、小さくて軽ければ燃料の消費量も抑えられて環境性能も良い。異議を唱える必要はないともいえるが、日本向けの上質なセダンなど、趣味性の強いクルマはますます投入されにくくなる。
日本のクルマの売れ方は歪んだ形になり、比較的サイズの大きな車種は、海外生産が加速しそう。国内の空洞化が進み、小さな低価格車だけが売れる市場になれば、販売会社の利益も下がってしまう。
取得税や重量税を残した中途半端な税制改革の影響が、複雑かつ矛盾を生む元凶だ!
自動車取得税や同重量税を残しながら、減税や補助金を施行することは、クルマの売れ方だけでなく、自動車産業全体に影響をおよぼすわけだ。
制度の仕組みが非常に理解しにくいことも問題。特に複雑なのが、自動車重量税の算出基準だ。かつては500kgごとに6300円だったが、その後に5000円へ引き下げられた。エコカー減税延長後は4100円まで下がる。
ただし、500kgごとに年額4100円が適用されるのは、平成27年度燃費基準を満たせないエコカー減税対象外の車種のみだ。エコカー減税対象車は500kgごとに年額2500円の本則税率が適用され(ハイブリッド車やクリーンディーゼル車は既にこの税額)、その上で50/75/100%の減税を行う。
算出のベースになる重量税の税額が違うので、納める税額の差も開く。
例えば車両重量が1300kgの車種。エコカー減税に含まれない場合、購入時に支払う自動車重量税は、年額4100円×3(500kgごとだから)×3年分=3万6900円だ。これが50%のエコカー減税車になると、年額2500円×3×3年分×0.5(50%)=1万1200円(100円未満は切り捨て)になり、実質30%で済む。
従来のエコカー減税が延長される時の切り換え時期もややこしい。従来のエコカー減税の内、自動車取得税の適用期間は2012年3月31日まで、同重量税については4月30日までとされ、1か月のズレが生じているからだ。4月1日から30日までは、自動車重量税は従来のエコカー減税が適用され、自動車取得税は厳しくなった延長版が適用される。
そして延長されるエコカー減税も、適用期間は自動車取得税が2015年3月31日、同重量税は同年4月30日までとされている。
補助金、減税ともに内容が複雑で、理解に苦しむ。
自動車は多くの一般ユーザーが購入する商品だから、税金については制度を簡素化して負担も減らすべきだ。これは昔から言われていたことだが、減税の延長、補助金の復活という形で、さらに欠点が赤裸々に露呈している。
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