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【トヨタ 86新車試乗記】 自動車評論家 渡辺 陽一郎が本音で斬る!走行安定性を犠牲にして、運転の楽しさを追求?【特集・コラム:生活・文化】

CORISM / 2012年6月2日 13時13分

トヨタ86

クローズドされた場所でなら、楽しいトヨタ86だが・・・、時代に逆行するセッティング?

 クルマ好きの間で話題になっている2012年に入って相次いで発売されたトヨタ86、スバルBRZがある。

 86を試乗した時、運転中に20~30年前のクルマを思い出した。運転感覚がAE86型カローラレビン&スプリンタートレノ、KP61型スターレットなど、当時の後輪駆動車に良く似ていたからだ。

 86ではコーナーに進入する手前でブレーキングを少し遅らせ、ハンドルを切り込むと後輪が横滑りを発生。そこからアクセルを踏むと、車両の動きを後輪の横滑りによって制御しやすい。ミニサーキットなどを走る限りはとても楽しい。

 ただし、後輪を大きく横滑りさせ、修正操舵を行いながらコーナリングする、いわゆる「ドリフト走行」がクローズアップされている点は気になる。後輪を横滑りさせやすいクルマは、危険を回避する時にも同様の挙動が発生し、走行安定性を低下させやすいからだ。

 定常的なコーナーを回り込むと、横滑り防止装置がスポーツモードにセットされていても後輪が横滑りする兆候を示し、同装置の作動を示すランプが小刻みに点滅した。危険を感じるほどではないが、後輪の接地性よりも曲がる性能を優先させている。

 AE86型やKP61型が現役だった時代、日本車の走行安定性は今に比べると著しく低かった。後輪の安定性を高めると、前輪の路面をつかむ力が相対的に下がり、車両を曲げにくくなる。つまりは旋回軌跡が拡大しやすい。逆に曲がりやすくすると、後輪の安定性が削がれた。

 多くの車種は、走行安定性を重視して後輪の接地性を優先させ、スポーティに走ると曲がりにくくなってしまう。そこで少々極端な荷重移動を行い、後輪駆動車であれば過度なアクセル操作も加えて、車両を積極的に内側に向ける運転を行った。

 また、当時のクルマは操舵に対する車両の反応が曖昧だったから、穏やかに運転しているとあまり面白くない。敢えてメリハリのある運転をすることもあったと思う。結果的に、仕方なく、このような運転になっていた。

現在のクルマとは、相容れない横滑り重視のセッティング

 しかし、あれから20年以上が経過して、今日のクルマは走行安定性を大幅に高めた。後輪の接地性を十分に確保した上で、クルマを確実に曲げることが可能になっている。

 操舵感も20年前とは大きく違う。ボディやサスペンションの取り付け剛性が向上し、ステアリングの支持剛性も高まり、小さな舵角から車両が正確に反応する。手応えの曖昧さが払拭され、むしろスムーズに走らせた方が楽しい。

 今日のスポーティドライブでも荷重移動は利用するが、後輪の横滑り角度はきわめて小さい。正確な操舵感を生かし、車両を理想的なコーナリングラインに乗せることで、横滑り防止装置の作動領域には踏み込まずに速く走らせる。安全確保を前提にした正確で滑らかなコーナリングが、今日の運転の楽しみ方になった。

 マツダでは、CX‐5、アクセラといったスカイアクティブG搭載車に、インテリジェント・ドライブ・マスターと呼ばれる機能を装着している。運転状況を示すモニターで、エコドライブの支援機能でもあるが、アクセル操作に加えてハンドルやブレーキの操作までチェックされる。滑らかな運転を行えば、単に燃費が向上するだけでなく、安全性も高まって総合的にバランスの優れた走りが行えるからだ。

 クルマが進歩した結果、環境性能、安全性、さらに運転の楽しさも両立できる時代になっている。

 今では、日本車、海外メーカー車を問わず、世界中の主要な車種が滑らかな走り方を目指す。アルファロメオなど、かつては過敏と思えるほど車両の向きが変りやすかったが、最近は正確性を重視する。以前に比べれば穏やかな運転感覚に発展した。クルマが進歩した結果、バランスの良いひとつの方向に集約されつつある。

 いずれにしろ、綱渡り的な大きな修正操舵を伴ったコーナリングは、今日のクルマの発展方向とは相容れない。

86以外のトヨタ車は、後輪の接地性が最優先されている

 注意したいのは、86以外のトヨタ車については、前述の今日的な走りのセオリーが確立されていることだ。

 例えばレクサスGS。コーナリングやレーンチェンジでは後輪の接地性が最優先され、その上で確実に回り込む。スポーティグレードのFスポーツでも、この傾向は変わらない。マークXなども同様だ。

 そして部署は異なるものの、86もGSと同じトヨタの開発者がスバルと共同で造り上げたクルマになる。

 おそらく、86だけが突飛なコンセプトを与えられ、車両挙動が少し特殊なクルマに仕上がったのだろう。足まわりの開発や実験を担当したエンジニアは、戸惑ったのではなかろうか。

 スバルのBRZは、基本的に同じクルマでありながら、86とはサスペンションの設定が違う。レガシィやインプレッサに比べると曲がりやすさを重視するが、後輪の横滑りを生じる度合いは86よりも低い。

 スバルの開発者の多くが、「水平対向エンジンをフロントミッドシップに搭載し、後輪を駆動するメリットは、重心を徹底的に低く抑えられること。低重心によって得られる利点は、優れた走行安定性にほかならない。ドリフトという概念はない」と言う。

 またある開発者は、「最初は86を含めてスバルが開発を任されていた。ところが途中でトヨタの方針が変わり、86はトヨタ側がセッティングを行った。その試作車を運転して『これで行くつもりなのか』と驚いた」と打ち明けた。

 トヨタの開発者からも「やや次元の低いところで遊べる(ドリフト走行のこと)クルマにはなっている」という意見が聞かれる。

スバルBRZと違うセッティングは、走行安定性を重視した結果

 トヨタは数多くの車種をそろえる規模の大きなメーカーだから、いろいろな味付けのクルマがあって良いという考え方もあるだろう。

 しかし、ファミリーレストラン的なクルマ造りが通用する時代はもう終わった。中国の自動車メーカーも先進国の車両をコピーする段階を脱しており、独自のクルマ造りに着手している。

 欧州車は前述のように走行安定性と乗り心地のバランスを高次元で両立させ、その上でブランドの個性を表現するようになった。小排気量ターボの搭載により、燃費性能が日本のセダンを追い抜いた現実もある。

 今後、競争の激しい時代を生き抜くには、メーカーが走りのイメージを確立させ、それを幅広い車種に普及させながら常に進化させていく必要があるだろう。「後輪駆動のスポーツカーだからドリフト」と呑気に構えていられる状況ではない。

 そもそも86には横滑り防止装置が標準装着されていて、これをカットする使い方は、本来の使い方とはいえない。アピールの仕方にも矛盾が生じている。

売り方にも工夫を凝らし、ロングセラーモデルへと進化して欲しい

 日本に限らず、今の自動車市場において、86のようなスポーティドライブに特化した2ドアクーペの生命力はきわめて弱い。日本車でいえばオープンドライブの可能なロードスター、ハイブリッドを備えたCR-Zでさえ、売れ行きを低迷させている。付加価値が乏しく、なおかつ伝統のない86の販売を維持するのは、非常に難しい。

 だからこそ派手なドリフトのアピールに至った面もあるのだろうが、市場への定着を図りたいなら、ごく普通のクルマとして買ってもらえるよう地道な販売促進を行っていくべきだ。

 発売してから時間を経過しても、ディーラーの展示車や試乗車を引き上げず、顧客の目に留まりやすい状態にしておく。86の販売拠点として発足させた「エリア86」の充実も図りたい。

 そのためには、メーカーの支援が欠かせない。「エリア86」の広さは店舗によってさまざまだが、ディーラーとしては、販売効率が高いとはいえないクルマを売ることに、相当な負担を強いられているからだ。

 クルマの販売では地域(商圏)ごとに顧客への対応も異なり、全国にわたって共通の売り方を採用するのは難しい。レクサスも同じ理由で伸び悩んでいる。販売促進の具体的な方法はディーラーに任せた上で、メーカーが手厚くバックアップしていくことが大切になる。

 86を使ったモータースポーツにしても、サーキットまで出向くのは一般ユーザーにとって容易ではない。

 少なくとも丸1日を費やし、相応の出費も要する。騒音問題など解決すべき課題もあろうが、各地域で手軽にジムカーナなどを楽しめると好ましい。

 生命力の弱い86が息の長い販売を維持するのは難しいが、それを可能にしたとすれば、トヨタにとって販売面の快挙となるだろう。そこで得られたノウハウは、ほかの車種にも応用が利き、国内販売の打開策も見い出せると思う。86もBRZも、発売して半年以上を経過し、需要の落ち着いた後が正念場になる。

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