新型キャデラックATS試乗評価 キャデラックらしくない!? 走りを鍛えた本格派スポーティセダン【レビュー:キャデラック】
CORISM / 2013年3月25日 7時7分
アメリカ車なのに、ニュルブルクリンクで走りを鍛えた理由とは?
新型キャデラックATSは、これまでのキャデラックイメージを振り払ったようなクルマだ。そもそも大きなボディに大きな排気量のエンジンを搭載したクルマであることが当然だったキャデラックは、CTSが登場したときでさえ、キャデラックらしさに欠けるといった声が聞こえたくらいだった。今回は、それよりもさらに小さいATSの登場だから、そろそろキャデラックブランドを再定義して考えなければならない。
世界的に見れば、プレミアムブランドといっても良く売れているのはメルセデス・ベンツCクラスやBMW3シリーズのサイズであり、それ以上に大きなクルマも売れてはいるが、量販を考えたらこのクラスにモデルを持つことは重要である。
経営再建後のGMが、アメリカだけでなくヨーロッパやそれ以外の地域でも広く商売していこうと考えたとき、このクラスのクルマをラインナップすることが必要だったのだろう。さらにいえば、ヨーロッパで販売することを考えて、走りのチューニングはヨーロッパで磨き込まれた。ニュルで走り込んだことなどによって、BMWに匹敵するようなスポーツセダンに仕上げられたのが新型キャデラックATSである。
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わずか5mmオーバーした1,805mmの全幅。逃した顧客も多い
新型キャデラックATSの外観デザインは、キャデラックのデザインテーマであるアート&サイエンスを具現化したもの。エッジの効いたシャープなデザインを特徴としていて、中央にキャデラックのエンブレムを配するとともにメッキを多用したグリルなど、ほかのキャデラックモデルとの統一性の取れたデザインである。
インテリア回りの雰囲気は、現代的なセンスの良さを感じさせる。木目パネルは採用していないが、ピアノブラックのパネルやメッキのアクセント、本革シートなどによって高い質感が確保されている。
ボディサイズは4680mm×1805mm×1415mmだから、BMW3シリーズとほぼ同じ大きさと考えたらいい。日本市場にも適合したサイズといえるのだが、惜しいのは1805mmという全幅。日本では立体式の駐車場などに1800mmが基準とされているものがあり、ATSはそうした駐車場に置くことができない。キャデラックを買うユーザーなら、駐車場事情にも余裕があるだろうが、5mmの違いで失ったユーザーがいるのも確かである。
全体としては、ワイド&ローのバランスの取れたプロポーションだが、空間設計は特に良いという感じではない。このサイズのFR車であり、なおかつフロントミッドシップにエンジンを搭載することもあって、後席の居住空間はけっこう窮屈だ。それ以前に、ドアの開口部が小さいので後席への乗降性が良くない。前席優先で使われるアメリカ車らしいパッケージングといえる。
キャデラックなのに4気筒!
搭載エンジンは、直列4気筒2.0Lのインタークーラー付きターボ仕様だ。私などは頭が古くなっているからか、えっ、キャデラックに4気筒2.0Lのエンジンなの? と思ってしまうが、今の時代、キャデラックもダウンサイジングターボなのだ。
動力性能は、203kW/353N・mとけっこう強力で、BMW328iを上回る性能を持つ。日本にはランエボやWRXなど、さらにパワフルなエンジンを搭載したモデルがあるので最強というわけにはいかないが、このクラスでも強力なエンジンを搭載したモデルであるのは間違いない。
アクセルを踏み込むと、気持ち良くエンジンが吹き上がり、ターボラグなどを感じさせることなく回転の上昇に合わせてパワーも伸びていく。相当にパワフルなエンジンであり、比較的軽い1580kgのボディを軽々と引っ張っていく。
1580kgのボディの前後重量配分は790kg:790kgと完全に50:50とされている。このあたりもBMWを強く意識して作られたクルマであることが分かる。
組み合わされるトランスミッションは、電子制御6速AT。最近ではこのクラス以上のクルマには7速または8速のATを組み合わせるのが常識化しつつあり、それを考えると6速ATというのは記号性として物足りなさを感じる。
ただ、実際にATは6速もあれば十分であり、このATSの変速フィールにも特に不満を感じることはなかった。スポーツモードを選択して走れば、減速時に空吹かしを入れてシフトダウンしていく。強いていえば、パドルの設定がないことが物足りない点。
アクセルを踏み込んだときには、重低音が入ってきて気分を昂揚させるが、時速100kmでの高速クルージング時にはエンジンの回転数は1700回転程度に抑えられて静かなクルージングが可能。この静粛性にはBOSEのノイズキャンセリングシステムも貢献している。
キャデラックらしくないハンドリング?
新型キャデラックATSのシャシーも、キャデラックらしくない性能を備えている。かつてのキャデラックは、ふわふわの足回りに操舵感覚の薄いパワーステアリングの組み合わせというイメージだったが、ATSはそんなキャデラックのイメージを払拭するクルマだった。
足回りは、かなり硬めのしっかりした乗り味を実現していた。上級グレードのプレミアムにはマグネティックライドが採用されるが、試乗車は標準グレードのラグジュアリーで通常のサスペンションだったが、硬めで落ち着いた感じの走りは、コーナーでの姿勢も安定していて、スポーティな印象を与えた。
それ以上に、スポーティに感じたのはステアリングで、軽く舵を切るとすっと向きを変えるようなダイレクトさを持つ。このキビキビした感じのステアリングフィールは、どう考えてもこれまでのキャデラックのものではない。キビキビしすぎと思えるほどであり、ATSでキャデラックが大きく変わったことが良く分かるのがこのステアリングフィールと言っても良い。
良いクルマだが、おすすめできない理由とは?
インテリア回りには、CUE(キャデラック・ユーザー・エクスペリエンス)という新しい操作系が採用されている。オーディオやエアコンなどは、この操作系に基づいて8インチのタッチスクリーンを使ってコントロールすることになるが、そもそもスマホを使っていない私には慣れるのに時間がかかりそうな印象だった。
なお、試乗車には、まだカーナビが装着されていなかったが、発売までのタイミングでインスト中央の上部にカーナビが配置されるようになる。
また、新型キャデラックATSには、最新の安全装備がいろいろと盛り込まれている。最近話題のオート・コリジョン・プレパレーション(衝突事前対応ブレーキ)を始め、アダプティブ・クルーズ・コントロール(全車速追従機能付き)、サイド・ブラインドゾーン・アラート、レーン・ディパーチャー・ウォーニング(シートが振動するタイプの車線逸脱警告機能)などがそれだ。
これらの安全装備や充実した快適装備を備えながら、ラグジュアリーで439万円(特別色込みで451万6000円)という価格設定は、このクラスのライバル車に対して十分な競争力があるものといえる。
キャデラックATSは、これまでのキャデラックのイメージを一新するクルマであり、パフォーマンスに優れたとても良く走るクルマだった。しかし、とても残念なことに左ハンドル車しか設定がない。そもそも右ハンドル車は、考慮されていないのだ。日本では、勧めることのできないクルマである。
新型キャデラックATS 価格 スペック等
<キャデラックATS 価格>
Luxury 4,390,000円
Premium 4,990,000円
全長(mm) 4,680 全幅(mm) 1,805 全高(mm) 1,415
ホイールベース(mm) 2,775
車両重量(kg) 1,580
乗車定員(名) 5
エンジン種類 直列4気筒DOHC(インタークーラー/ターボチャージャー付)
総排気量(cc) 1,998
最高出力(SAE)kW(PS)/rpm 203(276)/5,500
最大トルク(SAE)N・m(kg・m)/rpm 353(35.9)/1,700-5,500
使用燃料(ガソリン) 無鉛プレミアム
燃料タンク容量(ℓ) 62
駆動方式 後輪駆動
トランスミッション 6速オートマチック
サスペンション(前) マクファーソン ストラット式(ダブルピボット / スタビライザー付)
サスペンション(後) マルチリンク式(スタビライザー付)
ブレーキ(前/後) ベンチレーテッド ディスク
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