マツダ i-ACTIV AWD試乗記・評価 さり気なく、存在感を消しながら「最適なトラクション性能と走る歓び」を手に入れることができる4WDシステム【レビュー:マツダ】
CORISM / 2015年4月2日 3時26分
マツダがアピールする「i-ACTIV AWD」とは?
マツダ がi-ACTIV AWD という名前で、改めて4WD(AWD) システムの訴求を始めた。マツダはCX-5以降の新世代商品群において、新世代のAWDシステムを採用してきた。電子制御カップリングを使った高効率のAWDシステムを採用していたのだが、これまではAWDの訴求よりもSKYACTIV の訴求を優先させてきたため、新AWDの訴求をしてこなかった。今回CX-3が発売され、マツダのAWDラインナップが整ったことで、改めてAWDをi-ACTIV AWDとして訴求することになった。
これに合わせてマツダは、スバル などと同じように4WDをAWDと呼ぶようになった。基本は4輪車なので、6輪車や8輪車があるわけではない。あえて総輪駆動という言い方にしなくても良いように思うが、今回からマツダの4WDシステムが変わったことを強調するためにもAWDにしたのだろう。
マツダのi-ACTIV AWDを紹介する前に、少し4WDの歴史を少し振り返ってみよう。その昔は、4WDといえばパートタイム式で、路面状況に応じてドライバーが2WDと4WDを切り換える方式だった。ただ、それでは山かげになっているコーナーの向こう側が急に滑りやすい凍結路面になっていたときなど、すぐに対応することができない。あるいは、滑りやすい路面があっても切り換えるのを忘れてスリップしてしまうこともあったりする。
そのため、4WDの操縦安定性を必ず生かせるようにフルタイム4WDが採用されてきた。フルタイム4WDではタイトコーナーブレーキング現象が発生するが、それを防ぐためにタイヤの回転差を吸収するセンターデフ式を備えたフルタイム4WDが採用された。ちなみに、日本で初めてこれを採用したのが、昭和60年に発売されたマツダのファミリアだった。
ところが、センターデフ式のフルタイム4WDは、重量の増加や常時4WDであることによるロスなどが燃費に悪影響を与える。そのため、通常はFFに近い状態で走り、駆動輪がスリップしたときに別のタイヤに駆動を伝えるビスカスカップリング式などののスタンバイ式4WDが普及してきた。
スタンバイ式、オンデマンド式などと呼ばれるビスカスカップリング式の4WDも良いことばかりではなく、駆動輪がスリップしてからでないと駆動力配分が行われないため、状況の悪い路面では4WDの効果が得にくいシーンなどもあった。
そこで、スタンバイ4WDながらレスポンスを良くした電子制御カップリングが採用されるようになった。ボルボなどに採用されたハルデックスカップリングが代表例である。
電子制御カップリング式4WDは、センターデフ式4WDに劣らない! 走る楽しさを維持しながら、高いトラクション性能を確保
そんな歴史を経て、今回マツダが採用するようになったのは、スタンバイ式、オンデマンド式と呼ばれる電子制御カップリングを採用したAWDシステムだ。ただ、既存のスタンバイ式やオンデマンド式に比べて格段に精度が高く、レスポンスの良いAWDに仕上げている点に特徴がある。
ちまたでは、スタンバイ式の4WDって本格的なセンターデフ式に比べるともうひとつだよね、とか、4WDってやっぱり燃費が悪いよね、などと言われているようだが、そうしデメリットを解消した4WDシステムに仕上げている。
われわれも原稿を書くときに、ついつい本格的なセンターデフ式フルタイム4WDなどと書いてしまうが、今どきは電子制御カップリング式でもセンターデフ式を上回る性能を発揮することができる。それを改めて証明して見せたのがマツダのi-ACTIV AWDである。
前置きがずいぶん長くなってしまったが、今回、マツダが士別周辺の一般道や特設コースなどを使って開催した「マツダ新世代AWD車雪上体感取材会」に出席し、実際に体感したマツダAWDの実力を報告しよう。
今回用意されていた車両は、当時はまだ発表前だったマツダCX-3 を始め、アクセラ 、アテンザ 、CX-5 が用意されていた。
CX-3では圧雪状態の路面に設定されたパイロンスラロームを試した。パイロン間の距離がやや長めに設定されていたこともあって、あっけないくらいにスムーズにパイロンをクリアしていくことができた。雪道であることを早めに感知して駆動力配分を始めているので、ほとんど違和感なく自然にパイロンをこなしていけるのだ。
パイロンの先でUターンをするときに、横滑り防止装置の制御などを体感できたが、パイロンスラローム自体はごく普通にこなせた。なんというか、とてもあっけなかった。それほど違和感なく、マツダ i-ACTIV AWDが自然に制御していることになる。
CX-5では、一般道を走らせた。今回の試乗時の北海道は比較的気温が高く、全面が圧雪路ではなくアスファルトの舗装が見えている部分も多かったりした。つまり、圧雪部分とアスファルト部分があるスプリットμの路面も多かったのだが、ここでの走りも自然で不満のないものだった。
マツダi-ACTIV AWDの威力を強く感じたのは、坂道発進シーンだった。坂道でハンドルを切って停車した状態からの発進というと、普通ではあまりあり得ないようなシチュエーションを設定してのテストでも、ほとんど挙動を乱すことなく滑らかに発進していくのには驚かされた。坂道の途中でわざわざ停車して発進を繰り返しても、スムーズに発進し変化はなかった。これは、傾斜地に停車している状況をセンサーが検知し、前輪が滑ってから後輪にトルクを配分するのではなく、最初からAWD状態でスタンバイしているからだ。
この他、アクセラではハンドリングコースを、アクセラではワインディングコースをという具合に、いろいろな状況での走りを試したが、雪道での発進、加速、コーナリング、制動など、とても見事にこなしていく感じがあった。
もちろん路面状況によってはスリップするシーンもあったのだが、容易にコントロールして挙動を収めることができたほか、挙動の乱れの収束も早かった。また、ドライバーがリヤタイヤを滑らせながら積極的にコントロールしている場合など、無理やり安定方向に制御するのではなく、ドライバーの意図に沿わないような制御がなるべく入らないようになっていて、運転が楽しめるよう設定になっている。走る楽しさを追求するマツダらしさを感じるAWD機能だ。
緻密な制御で滑る前にトラクションをコントロールするマツダ i-ACTIV AWD
マツダi-ACTIV AWDでは、不安定な路面でタイヤのグリップを確保してクルマの挙動を安定させるとともに、4WD時の駆動損失をなくして2WDに迫る(あるいは上回る)燃費を確保することを目指したという。
具体的には、車両の挙動が不安定になることが予想される場合、その予兆を早めに検知して少しずつ駆動力配分を始め、安定した走りを確保するのが肝とされている。
多数のセンサーが、フロントタイヤの駆動反力や操舵反力を検知して路面状態を反題するほか、外気温や天候などの情報も加味してクルマと路面の状況を判断している。複数のセンサーからのさまざまな情報を統合して制御につなげているのだ。
ごく微細な変化を感知してわずかにトルク配分を始めることで、本格的な不安定な路面になったときにタイムラグなく、瞬時に反応するシステムに仕上げている。ごく微小なスリップを予知して対応しているので、スリップを始めたときにはAWD走行になっているのだ。
自信の表れか? 緻密な制御ができているからこそ、4WDロックなどの切替スイッチは必要なし!
また、このようなシステムにすることで、ドライのオンロードではほぼ2WDに近い走りで燃費の悪化を抑えた上で、4WDを必要とする滑りやすい路面では2WDを上回る燃費性能も実現している。
このほか、非常にシンプルなAWDシステムとすることで、システムの軽量化も実現し、これもAWD車の燃費の悪化を抑制することにつながっている。カタログ上のJC08モード燃費で2WD車を上回るわけにはいかないが、雪道を走るようなシーンでの実用燃費は2WDを上回るほどであるという。
マツダのi-ACTIV AWDのシステムは、システムがすべを判断して対応する仕組みになっていて、2WDと4WDを4WDのハイとロー、あるいは4WDのロックなどといったモードの切り換え機構は備えていない。
緊急時の脱出用には4WDロックもあったほうが良いと思うが、マツダの話ではそれも必要としないレベルの性能を確保しているという。これまでエンジンを中心にしたSKYACTIV技術で注目集めてきたマツダだが、AWDでもあなどれない性能を確保している。
マツダ i-ACTIV AWDセンシング状況概要
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