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「世界初のARCライン、水搬送って何だ?」 ホンダ タイ プラチンブリ工場レポート【特集・コラム:ビジネス・経済】

CORISM / 2017年5月29日 17時17分

ホンダ タイ プラチンブリ工場レポートの目次





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■ホンダにとって、タイで2つめとなる最新のプラチンブリ工場

 ホンダはタイで、アユタヤ工場に続く2番目の工場としてプラチンブリ工場を開設し、2016年3月から四輪車の組み立てを始めている。最新の工場らしく、新しい生産技術を積極的に取り入れている点が注目される。

 工場の立地は、従来のアユタヤ工場がバンコクの北に位置していたのに対し、プラチンブリ工場はバンコクから東へ120kmほど離れた場所に位置するプラチンブリ県のロジャーナ工業団地内だ。アユタヤ工場は2011年の大水害で完全に冠水してしまったが、その経験もあるためプラチンブリ工場は水害の恐れのないやや高台に位置している。

 工場に着いて説明を聞くと、工場内はすべて撮影可能とのこと。いきなりびっくりさせられた。撮影が完全に自由な自動車メーカーの工場は滅多にないからだ。特にプラチンブリ工場には、セル生産方式を採用した世界初のARC(アーク)ラインなども導入されている。それを含めて、完全にオープンということだった。ホンダとしては、独自の生産技術を持つことをアピールしたいのだろう。

■年間12万台の生産規模となるプラチンブリ工場。イギリスやオーストラリアなどへも輸出

 プラチンブリ工場は、2013年から建設が進められていたもので、2015年にエンジン工場と樹脂工場が先に稼働を始め、2016年3月に四輪車の組み立てを始めている。2直の生産態勢で、1日当たり500台を生産でき、年間では12万台の生産能力を持つということだ。

 ホンダは最近、2013年に国内最後の自動車工場と言われる寄居工場、2014年にメキシコの第二工場を稼働させている。プラチンブリ工場には、これらの新工場で採用された生産技術を盛り込むとともにタイの事情に合わせた独自の技術も盛り込んでいる。

 従来からあるアユタヤ工場は、1996年の開設以来、順次生産能力の拡充が進められて現在では年間30万台を生産する能力を持つ。プラチンブリ工場の12万台を合わせると42万台の生産能力となる。生産されたクルマは、タイ国内で販売されるだけでなく、世界中の市場に供給されることになる。

 また、アユタヤ工場ではいろいろな車種を生産して多品種少量生産にも対応できる態勢にしているのに対し、プラチンブリ工場ではシビックとシティの2車種の量産コアモデルを集中して生産して効率を高めている。

 プラチンブリ工場で生産されたクルマは、タイ国内に投入されるだけでなく、イギリスやオーストラリアなどの右ハンドル国のほか、アセアン各国や中東などに輸出されるという。

■ボディを水路で搬送し省エネ化!

 プラチンブリ工場は、大きく3つの特徴を持つ。ひとつは溶接ロボットをひと固まりに集約して配置し、生産効率を高めたのがひとつ。もうひとつは、溶接されたホワイトボディの搬送を、電力によってベルトを動かすのではなく、水の流れによって動かす仕組みにした水搬送を採用したこと。そして最後がARC(アーク)ラインと呼ぶセル生産方式である。

 溶接工程の集約では、軽量小型のロボット治具を採用することなどにより、溶接ロボットの稼働率を40%向上させたという。

 水搬送は生産ラインで使われた冷却水を再利用し、ポンプで一旦天井に持ち上げた後、落下するときに生じる水力を利用する。搬送ラインの下が水路になっていて水が流れ、その上をフロートに乗った台車とホワイトボディが流れていく。

 塗装前のホワイトボディの搬送なので、錆の発生に対する懸念から水を使うのは禁物として敬遠されてきたのが従来の概念だが、ホンダのプラチンブリ工場ではホワイトボディが水と接触するわけではないので大丈夫と判断し、この水搬送を採用した。

 最初に天井に持ち上げるときにポンプを動かすための電力は使うものの、その後は落下する水の勢いを利用してフロートを送る仕組みなのでエネルギーの節約につながっている。

■世界初のARCラインとは?

 最も注目されるのが組立工程におけるARC(Assembly Revolution Cell)ラインだ。ベルトコンベアを使った通常のラインでは、作業員がラインに合わせて歩きながら特定の部品を装着していく方式が採用されている。これに対してARCラインでは、一人の作業員が広い範囲の工程を受け持ち、複数(多数)部品の組み付けを行う「セル生産方式」の生産ユニットを採用する。

 1台の車体と1台分の部品を積載した搬送ユニットとなるARCユニットに、ボディの前後左右から4人の作業員が乗り込み、ユニット上でクルマと一緒に移動しながら複数の部品を取り付けていく。

 部品はラックに乗せられてユニット上のクルマ脇に置かれるが、前後左右に取り付ける部品ラックは、それぞれ赤/青/黄/緑の4色に区別して間違えないように工夫されている。部品は取り付ける順に配置されているので、まず間違えることはないが、万一作業員が迷うようなシーンではユニット上の置かれたタブレット端末で確認できる仕組みだ。

 ARCライン生産は、ムダな付帯動作を減らすことにより、従来のラインに比べて作業効率を約10%向上させたほか、作業員の歩く距離を大幅に低減することで疲労を少なくしている。作業員はU字型のラインの頂点の部分を左右に移動するだけですむ。

 物流領域においても、搬送コンベアの形状をループ状にすることで、組み付け開始時の部品ラック投入と、組み付け完了時の空箱回収の拠点をひとつに集約。部品の搬入拠点数を最少化することで、工場内の部品運搬作業量を既存ラインから約10%削減したという。

 ARCラインの近くでは、部品ラックに部品を乗せる作業が行われていたが、この作業も多数の部品を乗せるときに間違いがないよう、乗せる部品とその順番をランプで知らせるような工夫がなされていた。

 ARCユニットは、現在はホンダの工場でもプラチンブリ工場で採用されているだけだが、ユニット単位で生産ラインへの追加を行うことが可能なので、将来的な生産台数の変動や車種の追加に伴うレイアウト変更にも柔軟に対応できるという。

 さらに、設置スペースの制約を受けにくい構造なので、世界中で同じ構造のラインを導入することで投資コストの削減効果も期待できるとしていた。

 このほか、プラチンブリ工場では通常の工場に比べて採光窓を多くとって明るい工場としていたほか、タイの気温に対応して天井には断熱材が張られ、また高い位置にジェット型の強力な扇風機を配置して熱気の遮断と空気の循環を図るような方式も採用されていた。

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