日産ノートe-POWERプロトタイプ試乗記・評価 燃費以外は、クラストップレベル!?
CORISM / 2021年2月15日 11時57分
爆発的なヒットモデルとなったノートe-POWERは、ひらめきから生まれた?
先代である2代目ノートに、e-POWERが搭載されたのは2016年11月だった。2代目ノートは、2012年の発売開始以来、Bセグメントのコンパクトカーの中で、ハイブリッド車が無く、販売面で非常に厳しい戦いになっていた。そのため、販売現場からはハイブリッド車の投入が熱望されていたのだ。
しかし、当時の日産はEV(電気自動車)に注力していて、ハイブリッド車の開発はほとんど行われていない状況。普通に開発していたら、ハイブリッド車の投入など、かなり先の話になる。
ところが、日産開発陣は、ひらめいてしまった。「リーフのモーターとバッテーリー使えば、ハイブリッドシステムできるよね」と。
まぁ、こんな簡単に決まる訳ではないものの、ザックリ言ってしまえば、こんな感じ。そこからは、突貫工事状態で開発が進んだという。
しかも、販売台数の多いノートにリーフのモーターを使えば、大量生産によるコスト低減も狙える。リーフのモーターは、ノートには少しコスト高とはいえ、ちょっと一石二鳥感があるアイデアだった。
そんな状況とはいえ、2代目ノートe-POWERは、1ペダルで停止まで可能となったe-Pedalなど、新しい技術なども投入された。リーフのモーターを使ったことで得た当時のライバル車を圧倒する力強い加速、モータードライブらしいレスポンスの良さなども含め、多くの顧客に新鮮なドライブフィールを提供した。
その結果、モデル後期に入っていたものの2代目ノートe-POWERは大ヒットした。2017年から3年連続でコンパクトセグメントで新車販売台数で暦年ナンバー1にも輝いている。しかも、2代目ノートの約7割がe-POWERを選んでいるほどの人気を誇ったのだ。
ただ、やはり突貫工事感は拭えず、やや洗練不足感があったのも事実。その後、e-POWERは改良が加えられセレナやキックスに搭載。その度に、進化を続け洗練さを増していった。
小型・軽量化された第2世代のe-POWERを搭載
そして、今回フルモデルチェンジし3代目となった新型ノートに搭載されたe-POWERは、すべてを刷新し第2世代へと進化した。
第2世代のe-POWERは、よりEVに近い力強く上質な走りを目指した。高度な制御技術はもちろん、やはり驚いたのはパワーユニットの小型化だ。一体型のインバーターは40%小型化。さらに、33%も軽量化されている。
先代ノートe-POWERは、無理やりボンネット内に詰め込んだ感があり、余分な隙間が無いくらいギチギチだった。しかし、3代目新型ノートe-POWERのボンネット内はスカスカだ。それほど、小型・軽量化されている。
よりパワフルでスムースに進化
先代ノートe-POWERでは、リーフと同じEM57型モーターが使用されていた。このモーターの出力は109ps&254Nm。しかし、2世代目e-POWERではE47型と異なるモーターが採用され、出力は約6%アップの116ps、最大トルクは約10%アップの280Nmと増強された。280Nmという最大トルクは、クラストップレベルだ。
テストコースで停止状態から、イッキにアクセルと踏むと、その加速力は強力。一瞬、ドン、と後方に頭をもっていかれるくらいの加速Gを感じる。60㎞/hくらいまでの加速力は、ちょっとしたスポーツカー並だ。こうした加速力は、完全に先代ノートe-POWERを完全に上回っている。
しかも、滑らかさにも磨きがかかっていて、よりスムースな加速が持続する。また、出力アップはわずか6%だが、中・高速域でより息の長い加速が維持できるようになっていて、より気持ちよい走りに貢献している。
課題だった静粛性を飛躍的に向上
動力性能以上に分かりやすく進化したのが、車内の静粛性だった。もはや、先代ノートe-POWERと3代目ノートe-POWERを比べると、まさに雲泥の差。先代ノートe-POWERは、とにかく賑やかだった。バッテーリーの充電がすべてにおいて優先されている印象が強く、信号待ちなどでの停止時でも、エンジンがブーンとやや高めの回転を維持。さらに、車体側の遮音や吸音も物足りなかったこともあり、とにかくエンジン音がうるさく感じたのだ。
ところが、3代目新型ノートe-POWERでは、逆にできるだけエンジンをかけない制御が組み込まれた。そのため、通常走行であれば、信号待ちなどの停止時では、ほとんどエンジンが始動しないので、静粛性は極めて高くなっている。また、エンジン始動していても、車体側の遮音や吸音も十分に行われていることもあり、静粛性は極めて高い。
こうした停止時や低速時にできるだけエンジンを始動しないで静粛性を高めているのだが、これではいつエンジンを始動して充電しているのかという疑問が残る。では、いつ充電するのか? これが、第2世代e-POWERのキモでもある。
なんと、3代目新型ノートe-POWERは、路面状況に応じた発電制御が組み込まれていた。路面状況が悪くロードノイズが大きいと、エンジンをかけて発電してもロードノイズにエンジン音がかき消されてることが多い。
こうした実際の走行環境を利用。ロードノイズが大きいとセンサーが検知すると、エンジンを始動。積極的に発電して蓄電する。こうすることで、停止時になるべくエンジンを始動させる必要がなくなった。
もちろん、滑らかでロードノイズが低い道では、なるべくエンジンを始動させないで静粛性を維持する。こうした制御は、世界発の技術だ。
このような制御技術が投入されたこともあり、3代目新型ノートe-POWERは、非常にエンジンの存在感が小さなモデルになっていた。走行中にバッテリーの残量が減り、エンジンが始動しても、どこか遠くでブーンと回っている感じがする程度だ。
燃費は・・・、課題は軽量化
減速時の回生ブレーキにも制御の巧みさが光っていた。先代ノートe-POWERは、とくに市街地走行でアクセルをポンと放すような運転をすると、グンっと前方に頭が動くくらいの減速Gが発生。こうした減速Gのかかりかたが、非常に緻密になり、スムースで違和感が無くなっていたのだ。
先代ノートe-POWERは、ドライバーによるアクセル操作の上手さにより、クルマの動きに差が出ていたが、3代目新型ノートe-POWERでは、アクセルワークによるテクニックの差が出にくく、誰が乗ってもスムースに減速できるようになっている。
こうした制御は、高速道路でも同様。高速域では、先代ノートe-POWERより、回生ブレーキの減速Gは低めになっていて、その後滑らかに減速Gが高まっていく。より運転のしやすいモデルになっている。
ただ、燃費だけは、あまり進化していない。世界トップレベルの低燃費性能を誇るトヨタ ヤリスハイブリッドの燃費は、36.0㎞/L(FF、WLTCモード)。これに対して、3代目新型ノートe-POWERの燃費は、29.5㎞/L(FF、WLTCモード)となっている。約20%も差が開いている。この差は大きい。
これは、ハイブリッドシステムの差もあるが、大きな部分では車重が影響している。3代目新型ノートe-POWERの車重は1,190㎏程度なのに対して、ヤリスハイブリッドの車重は1,050㎏と軽く140㎏も差がある。これだけ差があると、燃費にも大きな影響を与える。3代目新型ノートe-POWERの燃費向上は、大幅な軽量化がカギを握る。
クラストップレベルの乗り心地
さて、こうした第2世代e-POWERの進化以上に驚きだったのが、ハンドリングや乗り心地などの進化だった。先代ノートe-POWERのイメージで乗ると瞬間時に「なんだこれ!」と、驚くと間違いない。
まぁ、それもそのはずで、3代目新型ノートe-POWERは、やや長めの8年振りとなるフルモデルチェンジ。しかも、プラットフォーム(車台)は最新のCMF-Bが採用されている。
CMFとはCommon Module Family(コモン・モジュール・ファミリー)の略で、ルノー・日産・三菱のアライアンスにより共同開発されたプラットフォーム。Bとは、Bセグメントの高級コンパクトカー用を示す。
3代目新型ノートe-POWERより、やや先にルノー ルーテシアにも採用されたプラットフォームだ。スペック的には、ステアリング剛性が+90%、ボディ剛性が+30%、サスペンション剛性が+10%となった。
ステアリングを切ると、3代目新型ノートe-POWERは、素直に向きを変える。微小舵でキュッと反応するタイプのハンドリングではない。適度にダルな感じで、クルマの動きも穏やかだ。
キュッと反応するタイプのハンドリングが好きな人には、やや物足りないかもしれないが、これくらい穏やかな方が、日々乗るクルマとしては落ち着いていてよい気がする。
適度にダルだからと言って、曲がらない訳ではない。高い旋回Gがかかった状態は、車体が大きく傾く。
ところが、ステアリングを切り足していっても、ノーズはグイグイとイン側に入っていく。しかも、アクセルを多少踏んでも同様だ。車体の傾くスピードも意外と緩やかなので、大きく傾いていても不安感がない。
そんな状態でも、路面のアンジュレーションをを上手く吸収。姿勢を崩すことは、あまりなかった。サスペンションがよく動いて、よい仕事をしている。
当然、そんなサスペンションなので、直進時などでは路面の凹凸を上手く吸収。路面追従性の高いしなやか足さばきで、颯爽と走ることができる。乗り心地面でも、クラストップレベルの仕上がりだ。
キャラが異なり面白い国産ハイブリッドコンパクトカー
おもしろかったのが、同じCMF-Bプラットフォームを使うルノー ルーテシアとの違い。フランス車と言うと、しなやかで乗り心地のよい足というイメージが強い。
ところが、ルーテシアは、車体の傾きをかなり抑える足回りのセッティング。速度が上がれば乗り心地は改善されるものの、低速域ではややカタイ乗り心地だった。
3代目新型ノートe-POWERは、むしろ以前のフランス車的でしっかりサスペンションをストロークさせ快適な乗り心地をとしている。
どちらがいいとか悪いとかではなく、同じプラットフォームでも、乗り味はまったく違うことに妙に感心した。
国産ライバル車と比較してみると、ハンドリングと乗り心地などは、ホンダ フィットe:HEVに近い。
しかし、似たシリーズハイブリッドシステムを使う3代目新型ノートe-POWERとフィットe:HEV。ところが、ハイブリッドシステムの味は、まったく異なる。強大なトルク感でモータードライブ車であることをアピールする3代目新型ノートe-POWERに対して、フィットe:HEVはモーターの存在感を消している。これに対して、トヨタ ヤリスはビュンビュン走る系でスポーティさなハンドリング性能をもつ。
この3台とも、それぞれキャラが異なる。これは、なかなか面白い。こうしたコンパクトカーを買う場合、それぞれ個性が異なるので、しっかりと試乗して比べてみたい。乗ってみて、もっともシックリくるモデルが見つかれば、それがベスト。きっと満足度の高い1台になるだろう。
<レポート:大岡智彦>
日産ノートe-POWER vs ホンダ フィットe:HEV徹底比較!
日産ノート新車情報・試乗評価一覧
ハイブリッド車新車情報・試乗評価一覧
コンパクトカー新車情報・試乗評価一覧
日産ノート価格
■FF(前輪駆動)
・F 2,054,800円
・S 2,029,500円
・X 2,186,800円
■4WD
・S FOUR 2,288,000円
・X FOUR 2,445,300円
日産ノートe-POWER、ボディサイズ、燃費などスペック
代表グレード:日産ノートe-POWER X(FF)
ボディサイズ:全長4045×全幅1695×全高1520mm
ホイールベース:2580mm
車両重量:1220kg
駆動方式:FF
最小回転半径:4.9m
エンジン型式:HR12DE型 直3 DOHC 12バルブ
排気量:1.198L
エンジン最高出力:82PS(60kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/4800rpm
モーター型式:EM47
モーター最高出力:116PS(85kW)/2900-10341rpm
モーター最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/0-2900rpm
WLTCモード燃費:28.4km/L
JC08モード燃費:34.8㎞/L
動力用主電池種類: リチウムイオン電池
サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
タイヤ前後:185/60R16
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