トヨタ GR86 プロトタイプ試乗記・評価 より速く、扱いやすくなった、ズルズル系FRスポーツ
CORISM / 2021年7月18日 20時54分
9年振りのフルモデルチェンジながら、期待薄だった訳とは?
トヨタ86が9年振りにフルモデルチェンジし、2代目となる。2代目は、スポーツカーブランドのGRの一員となり、GR86となった。
新型GR86だが、実は期待薄だった。と、いうのも2021年4月の発表でプラットフォーム(車台)がキャリーオーバーだったことが分かったからだ。
ここ最近のトヨタ車は、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)による、GA系プラットフォーム採用モデルが相次いでデビューしている。このGA系プラットフォームの出来がよく、イッキに運動性能が高くなっていたからだ。
こうした傾向は、スバルも同様。プラットフォームが刷新されると、飛躍的に運動性能が進化する。
そんなこともあり、新型GR86が使うのは、約9年前の古いプラットフォーム。それなら、進化幅が少ないと思ったことから期待薄という印象をもったのだ。
しかし、物事は単純な先入観だけで判断してイカン! と、猛省することになる。
キャラ変したFA24型2.4L水平対向エンジン
まず、試乗したのはRZと呼ばれるMT車。試乗場所は、千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイだ。新型GR86の進化は、ピットロードを出る時から感じられた。
エンジンが2.4Lになり低速トルクが厚くなったこともあるが、クラッチのつながりがスムースで扱いやすくなっていた。
そのまま、ゆっくりとアクセルを踏み込んでいく。FA24型と呼ばれる2.4L水平対向エンジンは、235ps&250Nmをアウトプット。初代86は、207ps&212Nm(MT車)だったので、28ps&38Nmほど出力&トルクがアップされている。
このFA24型エンジン、初代86のFA20型のいわゆるボアアップバージョン。しかし、ほぼ新設計ともいえるものとなっている。エンジン単体も軽量化されている。そのため、エンジンのキャラクターも大きく変わった。
わずかなトルクの谷にドラマチックな演出を感じる
ポイントは、最大トルクの発生回転数。初代86は6,400~6,800rpmだったのに対して、新型GR86は3,700rpmとかなり低くなった。この低いエンジン回転数で、初代86を上回るトルクを発揮するため、2代目GR86は気難しさをまったく感じさせずスルスルと加速を始める。
この最大トルクのアップは、サーキットを走っていても明確に違いを感じる。初代86では2速だったコーナーも、2代目GR86では3速でもOKだった。2速か3速かと迷うようなコーナーであれば、迷わず3速を選んだ方が速いだろう。
初代86は、4,000rpm付近で大きなトルクの谷があり、そこからまたグッとトルクが立ち上がるというフィーリングがあった。これはこれで、高回転域に入る瞬間の合図みたいなもので、そこから爆発的に加速するので、少しワクワクする。ただ、このフィーリングが好ましくないと感じていた人も少なくはなかった。
ところが2代目GR86は、そのトルクの谷は大幅に改善されフラットなフィーリングに近くなっている。しかし、わずかだがトルクの谷はある。これが、全開加速するときに、一瞬、グッと溜めてイッキに爆発するフィーリングとなっているのだ。初代86ほど極端ではないものの、ガソリン自然吸気エンジンに必要なドラマチックなフィーリングが残っていて少しうれしくなった。
もちろん、排気量がアップしているので、加速性能は当然向上。0-100km/h加速性能は、初代86の7.4秒から6.3秒にアップしている。
驚愕の旋回スピード。でも、ズルズル系は変わらず
2代目新型GR86で驚愕したのは、旋回速度の速さ。初代86とは比べ物にならない速さで旋回した。
タイヤサイズは、215/45R17から新型GR86では 215/40 R18へ大径化。タイヤは、やや引っ張り気味でセットされており、横剛性をアップさせている。
ただ、2代目新型GR86のハンドリングは、初代86のDNAを受け継ぎ、相変わらずのズルズル系。ブレーキングしながらターンイン。すると、容易にリヤタイヤは外側にズルズルと滑り出す。ステアリングを戻し、想定ラインに戻す。
クルマの向きが変わり、アクセルをオン。すると、またまたリヤタイヤがズルズルと滑り出す。軽くカウンターステアをあてながら、そのまま加速。こうした操作が、ほぼどのコーナーでも起きた。
ターンインで容易にリヤが滑り出すので、軽くカウンターをあてながら、そのままアクセルオンで行けば、腕のあるドライバーなら容易にドリフトアングルを保ちながらコーナーを抜けていける。
タイヤの滑りも穏やかで、非常にコントロールしやすくなっているのも大きな進化ポイントのひとつ。装着タイヤは、ミシュラン・パイロットスポーツ4。圧倒的なグリップ力というよりも、滑り出しからスライド中まで、なかなか穏やか性格で、コントロールしやすい。
ついつい、クルマを振り回して走ってしまいたくなるのが2代目新型GR86。思わず、楽しくて笑顔になっている自分に気が付いた。
圧倒的な進化を果たした立役者は、高剛性化されたボディ
こうした扱いやすさは、大幅なボディ剛性アップの賜物だ。2代目新型GR86のボディ剛性は、車体横曲げ剛性が初代86比+60%、ねじり剛性は+50%になった。
これに加え、ルーフのアルミ製化により2.0㎏もの軽量化。ルーフの軽量化により重心高も下がり、運動性能がアップ。その他、マフラーやフロントシート、プロペラシャフト、フロントフェンダーのアルミ製化などなど、多くの部分が軽量化されている。
こうした細部の軽量化により2代目GR86の車重は、 1,270㎏(MT車)となった。初代86の車重が、1,210~1,250㎏なので、わずかに重くはなっているが、その分、ボディ剛性が大幅にアップしている。
やや物足りなかったのが、ブレーキ。サーキットは走るには、絶対的な制動力ももっと欲しい。フィーリング的にも、ガッチリした剛性感も必要だ。サーキット走行を楽しむなら、まずブレーキのチューニングをしたい。
BRZとの違いとは?
さて、気になるのは姉妹車関係にある2代目スバル BRZとの違いだ。端的に言えば、ズルズルさせコントロールするのが楽しい2代目新型GR86。操縦安定性の2代目BRZといったところ。正統派スポーツカー的セッティングになっていて、基本的にしっかりとタイヤをグリップさせた上で、意のままに走る気持ちよさを追求。
2代目新型GR86では、ズルズルといく場面でも、2代目BRZはしっかりとタイヤをグリップさせながら、高い旋回スピードを確保。コーナーの立ち上がりで、イッキにパワーをかけるてパワースライドさせようとしても、スライド量は限りなく少なく抑えられていた。
こうしたキャラクターの違いは、先代モデル以上に明確。フロントサスペンションのバネレートは、GR86が28Nm/mmなのに対してBRZは30Nm/mm。リヤはGRが39Nm/mm、BRZが35Nm/mmと少し異なる。
これだけでなく、車体結合部分では、フロントハウジングを鋳鉄を使うGR86に対して、BRZはアルミ。フロント&リヤのスタビライザーなども異なる。
細かいところまで、微妙に異なり、それぞれまったく異なる走り味の生み出している。GR86とBRZは、姉妹車ながら走りの味は全く異なる。そのため、購入する際は、しっかりと乗り比べてみて、どちらが自分の好みに合うのか判断したい。
オジサンが乗っても恥ずかしくない大人なデザイン
そして、デザイン。初代86と比べると、体幹が太く、よりアスリートなようなシルエットになった。
全体に落ち着いた印象で、大人のスポーツカー的でもある。初代86は若年層をターゲットにしていたが、2代目新型GR86では中高年層もターゲットになっているようで、こうした年齢層でも恥ずかしくなく乗れるデザインと言える。
また、運転席からの視界も良好。後方視界はイマイチだが、フロントフェンダーは、運転席から見ると上部に少し膨らんで見える。そのため、ボディサイドの位置が分かりやすく運転しやすい。
ただ、気になったのはメーター。最近のクルマとしては、メーターが小さく、文字も小さい。かなりの量の情報が提示されているのだが、瞬時に理解するのが難しかった。
電動化技術を使ったスポーツカーとしても期待したいGR86
この新型トヨタ GR86を試乗する前日、自動車業界が震撼した重大発表がEUから発信された。なんと、EUでは2035年にガソリン車などの新車販売を禁止とする方針だという。
この方針はかなり厳しいもので、ディーゼルやガソリン車はもちろん、ハイブリッドやPHEVもNGというもの。つまり、EV(電気自動車)や燃料電池車(FCV)といったモデルでないと売れないということになる。今後、この方針がどうなるかは不明だが、何にせよ純ガソリン車は無くなる方向であるのは間違いない。
そうなると、2代目新型GR86も、純ガソリン車としてこのモデルが最後となる可能性は極めて高い。もし、GR86がより長く生き延びるためには、今後、電動化も必要だろう。 電動化技術が入ったGR86の登場にも期待したい。
<レポート:大岡智彦>
新型トヨタ GR86スペックなど(開発目標値)
全長 [mm] 4,265
全幅 [mm] 1,775
全高[mm] 1,310 ルーフアンテナを含む数値。ルーフ高は1,280mm
ホイールベース [mm] 2,575
トレッド前 [mm] 1,520
トヨタGR86トレッド後 [mm] 1,550
最低地上高 [mm] 130
車両重量 [kg] 1,270 (6MT車)
エンジン 水平対向4気筒
筒内直接+ポート燃料噴射装置<TOYOTA D-4S>
内径×行程 [mm] 94.0×86.0
総排気量 [L] 2.387
圧縮比 12.5
駆動方式 FR
トランスミッション 6MTまたは6AT
最高出力 [kW(PS)/rpm] 173(235)/7,000
最大トルク [N・m(kgf・m)/rpm] 250(25.5)/3,700
最高回転数 [rpm] 7,400
サスペンション フロント マクファーソンストラット式
リヤ ダブルウィッシュボーン式
ブレーキ フロント Vディスク
リヤ Vディスク
タイヤ(フロント・リヤ) 215/40 R18
燃料タンク容量 [L] 50
トヨタ86新車情報・試乗評価一覧
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