ルノー アルカナ試乗記・評価 e-POWERを使わなかった訳とは?
CORISM / 2022年9月12日 17時35分
サイドビューが美しいアルカナのデザイン
ルノーは、CセグメントのコンパクトSUVである新型アルカナを5月に発売を開始した。
新型ルノー アルカナのデザインは、スタイリッシュなクーペ調の美しいラインをもつ。なかなかサイドビューが美しいクルマだ。やや前傾の姿勢で、リヤエンドはやや高めのウェッジシェイプデザインとなっている。
リヤビューは、ボリューム感がありドッシリとした安定感がある。リヤのコンビネーションランプは、左右をつなぐグラフィックとなっていて、よりワイド感を表現し高級感もある。
フロントフェイスは、ルノーお決まりのCシェイプデイタイムランニングライトを装備。ボトム部は、SUVっぽいアンダーガード的なバンパーデザインが採用されている。ただ、フロントフェイスは、他のモデルと似すぎていて違いが分かりにくい。SUVなのだから、もう少し違いが欲しいところだ。
このフロントフェイスには、F1の空力技術を使ったフロントブレードが装着された。また、フロントのバンパー両端には、ホイールハウスにつながるエアディフレクターを装備。エアディフレクターは、フロントホイールが発生する空気の乱れを抑え、空気抵抗を低減。燃費を向上させるメリットがある。
インテリアカラーは凡庸だが、上質なシートが◎
インテリアは、水平基調のインパネデザイン。ドアトリムのダッシュボードには、カーボン調の加飾にレッドラインが加わりスポーティにまとめられている。ブラック&レッドでスポーティさを強調するという手法は、よくある配色パターン。ルノーらしくないというか、もう少し違ったアプローチが欲しい。
そして、インパネデザインだが、新型アルカナのシートは優秀。レザー&スエードのコンビシートで6ウェイのパワーシートだ。国産CセグメントSUVでは、ほとんど無いような贅沢なもので高級感はタップリ。もちろん、シートの座り心地やホールド感も良好だった。また、ラゲッジスペースは480Lと大容量。SUVとしての機能も十分だ。
最低地上高200mmもあるのに、なぜFFのみ?
新型アルカナに採用されたプラットフォーム(車台)は、ルノー・日産・三菱のアライアンスで開発されたCMF-B。Bセグメントのルーテシアと同じCMF-Bを使い、ホイールベースを伸ばすなど改良した。
おもしろいのは、新型アルカナのディメンション。全高は1,580mmとSUVとしては、やや低め。しかし、最低地上高は高めの200mm。ライバルであるプジョー3008は175mm、同じクラスに属するトヨタ カローラクロスは160mmだ。
しかも、これだけ最低地上高を高めオフロードでの走破性をアップしながらも、肝心要の駆動方式はFF(前輪駆動)のみの設定。4WDが無いのに、最低地上高は高いという謎設定。オフロードでの走破性を重視したいのか否か、まったく分からない状態。それにしても、フランス車の4WD嫌いは顕著だ。
ドッグクラッチを使ったユニークなE-TECH HYBRID
そして、新型アルカナの特徴はどこカナ? と、聞かれたなら、新開発のE-TECH HYBRIDだと答える。
このE-TECH HYBRIDは、フルハイブリッドとルノーは呼ぶ。いわゆる2モーター式のハイブリッドシステムで、発電用と駆動用のモーターをもつ。日産との関係が深いルノーだが、日産のe-POWERを使わず独自のハイブリッドシステムを開発したのだ。
その機構は、とてもユニーク。エンジンは1.6Lの自然吸気。モーター側に2つ、エンジン側に4つのギヤをもち、それぞれ走行状況に合わせて最適な組み合わせで走行する。その組み合わせは、12通りにもなる。
しかも、ミッションはモータースポーツで使用するドッグクラッチ方式を採用。一般的には、市販車ではほとんど使われないドッグクラッチを使用することで、通常のMTに使われるクラッチやシンクロナイザーを省き、軽量&コンパクトにまとめている。
だが、ドッグクラッチは、通常シフトショックなどが大きく回転が合わないとシフトが難しい。ルノーは、そうしたデメリットをモーターを使い上手に回転を合わせシフトアップ、シフトダウンをする。この制御がとても秀逸。街中、高速道路と色々走ったが、シフトショックはほとんど無く、ギクシャクすることもない。下手なATよりもずっとスムースだ。
とにかく頻繁にエンジンが停止するE-TECH HYBRID
E-TECHハイブリッドの走行パターンだが、低速の約40㎞/hまでEV走行。40~80㎞/hの中速域は、エンジンが始動しパワーを供給しハイブリッド走行。80㎞/h以上では、基本エンジン出力で走行する。急加速時など大出力が必要な場合、モーターもパワーを供給する。
新型アルカナに搭載されるハイブリッド用のリチウムイオンバッテリーの容量は、1.2kWhをやや大きめ。そのため、バッテリー容量が十分であれば、やや長めにEV走行し燃費を稼ぐ。
ハイブリッド走行やエンジン走行時では、アクセルオフで頻繁にエンジンが停止。回生して充電する。驚いたのは、高速域。負荷が低い時は、100㎞/h位で走行していても、エンジンが停止してEV走行するのだ。上手くアクセルコントロールして、EV走行領域を増やせばかなりの低燃費が期待できそうだ。また、エンジンが始動しても静粛性は高いまま。かなり、遠くでエンジンがあるような感じだ。
新型アルカナのハンドリングは、ルノー車らしく軽快だ。クイックなハンドリングではないが、素直に気持ちよく曲がる。乗り心地も優秀。リヤサスペンションは、トーションビーム式ながら、ドタバタゴツゴツするようなフィーリングは上手く抑えられ、シットリとした快適な移動が楽しめる。
e-POWERを使わなかったのは、高速燃費重視だから!?
さて、新型アルカナの燃費は、このクラスの輸入SUVでは、ハイブリッド車ということもありトップの22.8㎞/L(WLTCモード)となった。しかし、同じクラスの国産車カローラクロスの燃費は26.2㎞/L(WLTCモード)なので、大差を付けられている。新型アルカナは、カローラクロスの約87%程度の燃費になる。
だが、新型アルカナのWLTCモードの高速道路モード燃費値は23.5㎞/L。カローラクロスは24.7㎞/Lなので、新型アルカナの高速道路燃費は、カローラクロスのほぼ互角に近い約95%にまで接近した。
ルノーの狙いは、やはりココだった。グループの日産がもつシリーズハイブリッドシステムのe-POWERは、市街地中心の走行では良好な燃費が得られるものの、速度域の高い欧州では燃費が悪化傾向にあるからだ。速度域の高い欧州では、やはり高速燃費が重要ということなのだろう。だから、多額の開発費をかけてまで、独自のE-TECH ハイブリッドを開発したと思われる。
ただ、高速燃費ではカローラクロスとほぼ互角となった新型アルカナだが、使用燃料がハイオクなので、燃料費視点では差が付いたままということになる。
E-TECHハイブリッドは、1.6Lエンジンということもあり、とくにパンチのあるような走りではない。高速道路でも、アンダーパワー感はあまり感じなかった。しかし、車格や高価な輸入車であることを考えると、もう少しパワーがあった方が、より魅力的になると感じた。
新たな顧客を呼び込むアルカナ。リセールバリューも期待大?
新型アルカナは、国内ルノーにとって期待できる1台になるだろう。日本マーケットは、ハイブリッド王国ともいえるくらい、たくさんのハイブリッド車が走っている。輸入車とはいえ、今時、ただのガソリン車だと輸入車好きかルノーファンでないと、なかなか選択肢にも入らない。そういう意味では、今までルノーの顧客にいなかった新規の国産車ユーザーが購入してくれるはずだ。
また、従来の輸入車好きに対しても、唯一のフルハイブリッドで低燃費というのは、大きなメリット。フォルクスワーゲンやプジョー、シトロエン、ボルボなどのコンパクトカーに乗る顧客からの乗換えも期待できるだろう。
ルノーの場合、従来、リセールバリューはあまり高い傾向に無かった。だが、新型アルカナはSUVでハイブリッドということもあり、リセールバリューも期待できそうだ。
<レポート:大岡智彦>
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ルノー アルカナ価格
・アルカナR.S. LINE E-TECH HYBRID 4,290,000円
ルノー アルカナ燃費、ボディサイズなどスペック
全長×全幅×全高 mm 4,570×1,820×1,580
ホイールベース mm 2,720
トレッド(前/後) mm 1,550/1,560
最低地上高 mm 200
車両重量 kg 1,470
エンジン型式 H4M
エンジンタイプ 自然吸気 直列4気筒 DOHC16バルブ
総排気量 L 1.597
最高出力 kW(ps)/rpm(ECE) 69(94)/5,600
最大トルク N・m(kgm)/rpm(ECE) 148(15.1)/3,600
メインモーター(E-モーター)型式 5DH
モーター最高出力 kW(ps)/rpm(ECE) 36(49)/1,677-6,000
モーター最大トルク N・m(kgm)/rpm(ECE) 205(20.9)/200-1,677
電力用主電池 リチウムイオン電池
駆動方式 前輪駆動(FF)
トランスミッション 電子制御ドッグクラッチ マルチモードAT
サスペンション 前 マクファーソン 後 トーション・ビーム
タイヤ 前後 215/55R18
最小回転半径 m 5.5
燃料消費率 WLTCモード 22.8km/L
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