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スバルの安全哲学「走りを極めれば安全になる」を支えるSDPとは?

CORISM / 2023年3月26日 15時35分

SDA

 

自動ブレーキ完全停止はNG! 国が自動ブレーキの普及を遅らせた!?


 

スバルの予防安全装備パッケージである「アイサイト」が、初めて登場したのは2008年で、レガシィに搭載された。このアイサイトはver.1と呼ばれている。

テストコース上で、このアイサイトを試したとき「これは凄い! 事故が減って、悲しい想いをする人が大幅に少なくなる」と感動したのを今でも覚えている。

ところが、このアイサイトver.1、大きな欠点があった。完全停止ができないのだ。約2㎞/hの速度まで落ちるのに、なぜか衝突する。

なぜ衝突させるのか? 完全停止はできないのか? 当時のエンジニアに質問したところ「完全停止できますよ。でも、お上から、完全停止はNGとのことで・・・」。「はぁ?(絶句)」。

なんと国土交通省が、完全停止はNGとしていたのだ。その理由は「ドライバーがシステムに頼った運転をして、危ないから」。再び絶句。これにより、日本の自動ブレーキの進化は停滞することになった。

その後、安全にこだわるボルボやスバルなどの地道な説得により、ようやく国土交通省も完全停止の自動ブレーキを認可。完全停止できるアイサイトver.2が登場したのは、2010年になっていた。

SDA スバル WRX STI
SDAで使用されるWRX STI


 



 

予防安全装備「アイサイト」で、マーケットを席巻したスバル


 

認可のタイミングと、アイサイトの価格を約10万円にしたこと、そして「ぶつからないクルマ」というキャッチフレーズとプロモーションにより、アイサイトは非常に話題となった。販売店には、車種名ではなく「アイサイトください」という顧客もいたという。

従来、「安全装備では飯が食えない」が多くの国産メーカー営業系の考え方だった。しかし、アイサイトの大ヒットにより様相が激変。各メーカーが、イッキに自動ブレーキなどの開発を加速させた。

スバルも同様にアイサイトを進化を続けながら、2016年5代目インプレッサから、このクラスでは珍しい歩行者用エアバッグを全車に標準装備。アイサイトだけに頼らず「安全なクルマ」を目指していく。

SDA

 



 

「走りを極めれば安全になる」スバルの安全哲学を支える「スバル研究実験センター」


 

そんな2030年に死亡交通事故ゼロを目指すスバルが安全なクルマを開発する上で、ひとつの思想となっているのが「走りを極めれば安全になる」だ。今回訪れたのは、「走りを極めれば安全になる」を具現化するための施設が栃木県佐野市にある「スバル研究実験センター」だ。

スバルは「走り」に対して、安全を高めるための重要な要素と考えている。基本性能である「走る・曲がる・止まる」を磨くことで、様々な天候や路面状況においても普段と同じように安心して運転できる。そして、万が一の事故に遭遇した時でも、思い通りにコントロールし安全に回避ができるとしている。目指すのは、あらゆる環境下で、誰もがコントロールしやすいクルマだ。

こうした車両を開発するにあたり、スバルでは人中心の車両開発を支えるのは人財としている。フィーリング評価と計測すべき物理値を結び付けてクルマ造りを行う人財がスバル独自の強みとしている。この考え方が、スバルらしさを生み出しているのだ。

スバル クロストレック
エンジニア同乗で、商品性評価路を走行。以前は、ハンドリング路と呼ばれていたタイトなカーブが続くコース。路面の凹凸もあり、乗り心地とハンドリングを試す。新型クロストレックは、SUVとは思えないほど、操舵遅れのないハンドリングと、しなやかで快適な乗り心地を披露。


 



 

評価できるエンジニア育成の虎の穴「SDP」ってなんだ?


 

そのひとつが、SDP(SUBARU Driving Academy)と呼ばれる仕組み。このSDPは、「ドライバーの評価能力以上のクルマは作れない」という考え方のもと、運転スキルと評価能力を高める目的で2015年9月に創設された。

SDPでは、いわゆるテストドライバー育成のためのものではないというのが特徴。エンジニアの評価スキルを向上させることが目的だ。

一般的にクルマの評価方法は、エンジニアが設計を担当。テストドライバーが評価という分業制。しかし、スバルでは、エンジニアが一貫して開発から評価まで担当する。

テストドライバーは、乗って感じて評価をする。エンジニアは、その評価や数値を見ながら、考え物理にして、再び設計するのが一般的。だが、この方法だと、よほどテストドライバーとエンジニアのコミュニケーションが取れていないと、言葉では表現できないようなフィーリングがエンジニアには伝わりにくい。さらに、上手く伝えられたとしても、エンジニア側が理解できないと、せっかくの評価が生かされないというデメリットもある。

だが、スバルでは、エンジンニアが自ら乗って感じて評価。それをベースに、再び考え物理にして再設計しながら開発が進む。自ら乗って評価しているのだから、細かいフィーリングなどは完全に理解しているので、設計にも生かしやすいのだ。言葉では完全に言い表せないフィーリング評価と、計測すべき物理値を結び付けてクルマづくりを行うことができるようになる。そんなエンジニアを育てるのがSDPの目的であり、スバル独自の強みとなっている。

例えば、運転支援機能に「アクティブレーンチェンジアシスト」という機能がある。ウインカーレバーを倒すと、システムが安全を確認後、ステアリングを制御して車線変更を行う。この機能を試した時、非常にスムースな車線変更で、あまりに制御が上手く驚いた。こうした制御には、SDPのトップドライバー達が運転した車線変更時データが使われているという。

クルマの自動運転化が可能になった時、きっと運転が上手いメーカーとそうではないメーカーが存在するだろう。スバルの自動運転は、きっと上手いのだろうと想像した。それは、高い運転スキルを持ったエンジニアの感性が生かされているから。結局、数値だけでは判断できないフィーリングは、人間の感性頼る部分が大きい。

こんなユニークな開発手法で「走りを極めれば安全になる」を具現化するスバル。アイサイトなどの先進技術だけに頼らない独自のクルマ造りを「スバル研究実験センター」で実感できた。

<レポート:大岡智彦

スバル ソルテラ
接地悪路・急坂をソルテラ走行。下りの急坂をヒルディセントコントロールを使い走行。驚くほど簡単に走れてしまう。


スバル ソルテラ
BEVのスバル ソルテラは、前後にモーターを配置した4WDも用意。常時4WDが特徴で、アクセルを踏んだ瞬間から最適な駆動力を得ることができる。滑りやすい急な登り坂でも、グイグイと登る。安心感は抜群だった。


 



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