マツダMX-30 Rotary-EV試乗記・評価 まさに、個性の塊!
CORISM / 2024年1月20日 12時12分
MX-30 EVモデル、BEVのトレンドに乗れなかった?
約11年振りにロータリーエンジンが復活ということで、話題になったマツダMX-30ロータリーEV。まさに、マツダの柔軟性あふれる企業風土と強い独自性を象徴する1台だった。
そもそも、初期にMX-30の開発には、ロータリーEV(PHEV)が予定されていなかった。
マツダは当初、MX-30のガソリン車をベースにしたBEV(電気自動車)を計画。航続距離は、実用200㎞前後(カタログ値WLTCモード256㎞)のシティコミューター的で十分と考えていた。
ところが、BEVシフトへのスピードは早く、欧州・中国・韓国勢BEV(電気自動車)のCセグメントSUVは、航続距離400㎞以上になってきたのだ。さすがに、これではMX-30 EVモデルでは、歯が立たない。
PHEV化できない理由は「エンジンが入らない!」
そこで、マツダは電動車のロングレンジへの要望に対するひとつの回答として、MX-30のPHEV化を企画した。
しかし、MX-30のPHEV化には、大きな問題があったのだ。それは、ボンネットの中に、発電用エンジンが入らないという致命的なものだった。MX-30の開発時に想定されていないのだから当然だ。
エンジニア側「MX-30のボンネットには、軽自動車用のエンジンでさえ入りません! 無理っす!!」
企画側「でも、ほら、うちには小さいロータリーエンジンあるじゃない?」
エンジニア側「2ローターでも入りません! 」
企画側「1ローターなら?」
エンジニア側「1ローターでも無理っす! でも、新開発の1ローターであれば・・・。あれ? 入るかも?」
企画側「じゃ、それで! よろしくぅ~」
*すべてフィクションです。
小さいロータリーエンジンなら、PHEV化が可能に!
こんな簡単なやり取りではないが、MX-30 EVモデルのボンネットに入るエンジンは、新開発の1ローターありきとなり開発が始まった。
ここで、素晴らしいのは、マツダがロータリーエンジンの開発をやめていなかったことだ。そのため、MX-30ロータリーEV用のロータリーエンジンの開発もスピーディに行えた。
しかも、生産工場も凄かった。新開発1ローターエンジン用に、数々の最新機器を投入し、精度を高めた。そんな最新設備とは逆に、機械ではできない匠の手による組み立ても残されている。まさに「匠の技と最新テクノロジーのハイブリッド」で1ローターエンジンは生産されている。マツダのロータリーエンジンへのこだわりの強さをビリビリと感じた瞬間だ。
もちろん、単に新開発のローターエンジンは、MX-30ロータリーEV用だけではなく、他のPHEVや水素などの代替燃料を使うなど、マルチソリューション戦略に基づいている。
こうしたことも含め、マツダって、なんて柔軟でこだわりの強いメーカーなんだ! と、驚嘆してしまったほどだ。
107㎞もの距離をEV走行できるMX-30ロータリーEV
そんな、マツダの想いを詰め込んだMX-30ロータリーEVに乗る。PHEVなので、バッテリーの充電が十分であれば、基本的にEVとして走る。満充電時であれば、107㎞(WLTCモード)のEV走行が可能だ。これだけの距離をEV走行できるのであれば、買い物や通勤、送迎などの日常使いであれば、ほとんどガソリンを使うことは無いだろう。
MX-30ロータリーEVのバッテリー容量は、EVモデルの35.5kWhから、大きく減って17.8kWhとなった。バッテリーが減った部分にガソリンタンクを装着している。
ガソリンタンクの容量は、50Lとガソリン車のMX-30とほぼ同等。カタログ値のハイブリッド燃費は、15.4㎞/L(WLTCモード)。なので、ハイブリッドモードで770㎞走行できる。これに、充電電力使用時の走行距離107㎞が加わる。単純計算なら、満タン&満充電で合計877㎞の航続距離になる。
ただ、ノーマルモードでは、バッテリー残量が45%になると、エンジンが始動し発電を開始する。これでは、少し距離を走るとエンジンが頻繁に始動するようになってしまう。そのため、なるべくEVモードを使い、バッテリーの残量がゼロ近くになるまでEV走行。自宅で充電すれば、高いガソリンをできるだけ使わず、安価な電力で走行が可能になるはずだ。。
パワーアップした新モーターを搭載。その訳は?
MX-30ロータリーEVは、一定の電力を使い切ると、ローターエンジンが始動し発電。発電した電力を使いモーターで走行するハイブリッドモードになる。
試乗車は、満充電状態。そのため、しばらくの間はEV走行となった。モーターの最大出力は170ps、最大トルクは260Nmというスペック。驚いたのが、このモーター。BEVモデルのモーターをそのまま流用していると思っていたのだが、ロータリーEV用モーターを新たに用意していたのだ。ちなみに、BEVのモーター最大出力は145ps、最大トルクは270Nmだ。
かなりパワーアップしているのには理由があった。MX-30ロータリーEVは、BEVに比べ130㎏も車重が重くなり1,780㎏。その車重増分を補うためのパワーアップでもある。
BEVの多くは、あり余るモーターの強大なトルクを生かし、かなりパワフルな走りを前面に出してくるケースが多い。
ところが、MX-30ロータリーEVの最大トルクは270Nm。そのため、ガツンとくる強力な加速力はない。だからと言って、遅いわけでもない。普通に走る分には、ちょうどいい塩梅でスルスルと気持ちよく加速し、スムースさが際立つ加速力だった。こうしたフィーリングはEVモデルと同じだった。
期待のシングルローターの魅力は?
そして、気になるのが8C型と呼ばれるシングルローターエンジン。最高出力は72ps、最大トルクは112Nmとなる。発電用エンジンなので、直接的にMX-30ロータリーEVの走りには影響しない。ただ、振動や静粛性などには、一定の影響を与える。
バッテリー残量が少なくなり、いよいよ期待の8C型シングルローターに火が入った。エンジンが始動する瞬間は、注意していればしっかりと分かるレベル。2ローターとは明らかに異なるガーという音が聞こえてくる。官能的とは言い難い。
気になるほどではないものの、振動もそれなりに伝わってきた。2ローターは振動などを打ち消し合うので、やはりシングルローターだと、振動面でも厳しいようだ。エンジン音はしっかりと聞こえるのだが、EV走行中の静粛性は高かった。
まぁ、シングルローターのデメリットを感じるものの、ボンネットにエンジンが入ることが前提だったので、ある程度仕方のないと割り切るしかない。まずは、世界で唯一のロータリーエンジンが復活したことを高く評価したい。
バドルシフトは、とても便利。悩みどころは?
MX-30ロータリーEVには、回生ブレーキの強弱をコントロールするパドルシフトが付いている。エンジンブレーキのようにちょっと減速させたいときなど、ブレーキを踏まずにパドルシフトを操作して回生ブレーキを強めすると減速が可能。街中での走行では、かなり重宝した。
MX-30ロータリーEVは、EVモデルと比べるとロータリエンジンを搭載したことで、フロントを中心に大幅な重量増となっている。こうなると、ちょっと曲がるのは苦手かな? と、感じていたのだが、意外なほどしっとりとした軽快感があった。フロア下に重い駆動用バッテリーを設置していて、車体そのものの重心高は低い。高速道路など、速度が高めのカーブなどでは、その恩恵でピタッと安定した姿勢でカーブを抜けていった。
乗り心地もトーションビーム式の嫌なゴツゴツ感も軽減されていて、なかなか快適。後席だと、やや突き上げ感をある程度だ。
悩みどころは、MX-30ロータリーEVのハイブリッド燃費。ハイブリッド燃費はFFで15.4㎞/L(WLTCモード以下同)。1クラス上で4WDの三菱アウトランダーPHEVが16.2~16.6㎞/L。圧倒的なハイブリッド燃費を誇るトヨタ RAV4 PHEVは、4WDで22.2㎞/Lだ。さすがに、これでは分が悪い。ハイブリッド燃費に関しては、今後に期待というところだ。
まさに、個性の塊! マイノリティであっても、誇りを持って乗れるMX-30ロータリーEV
MX-30ロータリーEVのベースとなるMX-30は、個性的な内外装デザインに観音扉のドアをもつユニークなモデル。そのため、MX-30は好き嫌いが明確にでる個性派だ。
そんなMX-30にロータリーエンジンを搭載し、PHEV化されたMX-30ロータリーEVは、まさに個性の塊。良いか? 悪いか? ではなく、むしろ、好きか? 嫌いか? という選択になるだろう。
MX-30ロータリーEVは、マイノリティであっても、誇りを持って乗れるクルマだといえる。
<レポート:大岡智彦>
マツダMX-30 Rotary-EV新車情報・購入ガイド
日産アリアB6 VS マツダMX-30 EV MODEL徹底比較評価
マツダMX-30 Rotary-EV価格
・MX-30 Rotary-EV 4,235,000円
・MX-30 Rotary-EV Industrial Classic 4,785,000円
・MX-30 Rotary-EV Modern Confidence 4,785,000 円
・MX-30 Rotary-EV Natural Monotone 4,785,000円
・MX-30 Rotary-EV 特別仕様車Edition R 4,917,000円
マツダMX-30 Rotary-EV燃費、航続距離などスペック
代表グレード MX-30 Rotary-EV FF
全長×全幅×全高 mm 4,395×1,795×1,595
ホイールベース mm 2,655
トレッド(前/後) mm 1,565/1565
最低地上高 mm 130
車両重量 kg 1,780
エンジン型式 8C-PH
エンジンタイプ 1ローター
総排気量 ㏄ 830
エンジン最高出力 kW(ps)/rpm 53(72)/4,500
エンジン最大トルク N・m(kgm)/rpm 112(11.4)/4,500
モーター型式 MV型
モーター最高出力 kW(ps)/rpm 125(170)/9,000
モーター最大トルク N・m(kgm)/rpm 260(26.5)/0-4,481
電力用主電池 リチウムイオン電池
燃費(WLTCモード ㎞/L) 15.4
充電電力使用時走行距離 ㎞ 107
駆動方式 前輪駆動(FF)
トランスミッション -
サスペンション 前:ストラット 後:トーションビーム
タイヤ 前後 215/55R18
最小回転半径 m 5.3
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