マツダ ロードスター試乗記・評価 たかがLSD、されどLSD…
CORISM / 2024年6月29日 12時12分
たった約0.2秒、4㎰のパワーアップ? わずかな違いにも深化を感じる改良
4代目ND型ロードスターの大幅改良のきっかけとなったのが、eプラットフォームという電気・電子プラットフォームの一新だ。法規制に対応するこの機会を利用して、ロードスターのコンセプトでもある人馬一体感をより深化させるための多くの改良が施された。
まず、直4 1.5Lエンジンの出力を向上させた。国内のハイオクガソリン用セッティングを施し、最大出力を4psアップ。132㎰から136㎰となっている。レブリミットや最大トルクなどに変更はない。
最高出力が4㎰アップしたことは、サーキットで高いスキルをもつドライバーが乗れば、タイム差が出るのかもしれない。だが、一般道でその差を感じ取ることはできなかったが、やや高回転域での伸びの良い感覚はあった。
最大出力の向上よりも、アクセルレスポンスが良くなっていたことの方が分かりやすかった。MT車には、RFの2.0Lも含め、駆動力制御に最新の制御ロジックを導入したからだ。アクセルを踏み込んで加速するシーンだけではなく、アクセルを緩めて減速するシーンでも、スッと減速を開始する。そのスピードは、約0.2秒改善。
たった約0.2秒、わずか4㎰のパワーアップ。この微妙な改善が、よりロードスターの人馬一体感を深化させているのだと実感した。
掌で路面状況を感じ取れる電動パワステ
ステアリング操作フィールにもこだわり、電動パワーステアリングにも改良がくわえられた。
- コントロール性の改善(ステアリングギアの構造変更によるフリクション低減の影響)
- 新制御による自然で緻密なフィードバック(モーター制御をマツダ内製化、戻し側制御の緻密化)
- 街中から高速・高Gまで一貫したアシスト(ステアリングトルクセンサの容量アップ)
こうした改良により、ステアリングから伝わる路面の凸凹やタイヤ状況が分かりやすくなった。最近「ステアリングフィールの希薄なクルマが増えた」と思っていただけに、クルマとの一体感がある改良となっている。
今回の改良でDSC-TRACK (MT車のみ)が新設定された。これは、主にサーキットなどをより安全に楽しむことができる機能だ。
現在、新車販売されているクルマには、法令で横滑り防止装置が標準装備されている。車体のスピンなど制御不能な状態に陥らないように、事前にブレーキやアクセルの制御し事故を防止する機能だ。安全面では非常に効果があり、滑りやすい路面では、この横滑り防止装置機能が無いとまともに走れないこともあるほどだ。この機能をもつ装備名をマツダではDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)という。
ところが、サーキット走行時に、意図してタイヤを滑らせたい時には、横滑り防止機能が邪魔になるケースも多い。そのため、サーキット走行ではDSCオフで走行することも多い。
しかし、サーキット走行では、限界を超えスピン状態に陥ることもよくある。最悪の場合、クラッシュすることもあるだろう。こうなると、愛車を壊してしまい多額の出費が必要となる。
マツダは、最悪のパターンだけは避けたいと考えた。そこで、生み出されたのが新制御モードである「DSC-TRACK」だ。スポーツ走行におけるドライバーの運転操作を最大限に尊重する制御ロジックとなっている。
つまり、多少のスライドなどでは、DSCは介入しない。ドライバーがコントロールできないような危険なスピン挙動に陥った場合に限って制御が介入する仕様だ。
そのため、クラッシュして愛車を傷つけるリスクを減少させることができる。これもまた、「人馬一体」のための制御技術だ。スポーツ走行を好む顧客にとっては、ありがたい制御といえる。
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軽快感と安定感を両立させた魔法の「アシンメトリックLSD」
ロードスター大幅改良メニューの中で、メインディッシュともいえるのが「アシンメトリックLSD」だ。Sグレードを除くMT車に搭載された。端的に言うと、軽快感と安定感を両立したLSDということだ。
LSDは、デフの作動制限によってトラクションを得る機能をもつ。LSDの特性上、差動制限力が大きいと車両は安定するが曲がりにくい傾向になる。逆に、作動制限力が小さいと軽快に走ることができるが、車両は不安定になる。こうした二律背反する要素を解決するために生まれたLSDが「アシンメトリックLSD」なのだ。
メカニズムは複雑だ。円錐クラッチLSD にカムを追加し、減速側・加速側それぞれにカム角を設定した。このメカニズムによって、必要なシーンでLSDに適切な差動制限力を与えることが可能になった。ロードスターらしいひらひらとした軽快感はそのままに、安定感が増している。
「アシンメトリックLSD」のメカニズムは複雑だが、その効果は瞬時に体感できた。分かりやすいシーンは、下りカーブだ。
従来モデルは、ブレーキングしながらステアリングを切ると、ややリヤの接地感が無くなり、ドライバーは微妙な修正舵を繰り返しながら、ターンインしていく。こうした運転になるのは、当然のこと。だから、従来モデルでも走りにくいとは、とくに感じなかった。
ところが、「アシンメトリックLSD」装着モデルで走行すると、ターンインでリヤタイヤがビタっと安定しているのだ。この安定感には驚愕した。安定感があるので、不安感も少ない。スパッとステアリングを切っても安心感はそのままだ。
修正舵もあまり必要なく、ステアリング操作一発で旋回体制に入る。旋回中から、アクセルオン時には、KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)の恩恵もプラスされ、車体はより安定傾向になる。
さらに「アシンメトリックLSD」の効果で、アクセルをグッと踏んでいってもあまりオーバーステア傾向にならないので、気持ちよくアクセルを踏んでいけた。
たった1つの下りカーブを曲がっただけで「アシンメトリックLSD」の効果を体感。LSDひとつで、これほど激変するとは・・・。たかがLSD、されどLSDだった。
より懐の深いスポーツカーへと深化
大幅改良後のロードスターは、運転のしやすさが際立った。自分の運転が上手くなったように感じるほどだ。スポーツカーというと、クルマの挙動がピーキーで、ドライバーにそれなりのスキルを要求するようなイメージが強いかもしれない。だが、大幅改良後のロードスターはビギナーから高いスキルのドライバーまで、とにかく幅広いドライバーが楽しめる懐の深さを感じた。懐の深さは、ビギナードライバーにとって、運転スキルをアップするために大事な要素。ロードスターは、そんなドライバーを育ててくれるクルマでもあり、多くの人に愛されるスポーツカーである理由だと思う。
ロードスターがデビューした、2015年のことを思い出した。画期的でカッコよく、気持ち良いオープンスポーツカーではあったものの、少し粗っぽいところもあったのをよく覚えている。
しかし、ロードスターは年を重ねるほど粗っぽさは姿を消し、円熟味を増している。歴代ロードスターもじっくりと育てられたモデルではあった。だが、ND型ロードスターは、シリーズ中、最も上手く育成できているのではないかと思う。
ND型ロードスターは、デビューからそろそろ10年が経過しようとしている。世界中の自動車メーカーが電動化に邁進する中、ロードスターはこれから何年先まで発売することができるのかは分からない。頭の中では、電動化されたNE型? ロードスターに思いを馳せるも、その一方で、大幅改良直後だというのに、ND型ロードスターの次の深化が気になって仕方ない。
<レポート:大岡智彦>
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マツダ ロードスター(ND型1.5L)価格
6MT | 6AT | |
S | 2,898,500円 | - |
NR-A | 3,064,600円 | - |
S Special Package | 3,087,700円 | 3,203,200円 |
S Leather Package | 3,498,000円 | 3,613,500円 |
S Leather Package V Selection | 3,553,000円 | 3,668,500円 |
RS | 3,679,500円 | - |
マツダ ロードスターRF(ND型2.0L)価格
6MT | 6AT | |
S | 3,796,100円 | 3,823,600円 |
VS | 4,154,700円 | 4,182,200円 |
RS | 4,308,700円 | - |
マツダ ロードスター(ND型)スペック
代表グレード | ロードスター SレザーパッケージVセレクション(6速MT) |
全長×全幅×全高 | 3,915mm×1,735mm×1,235mm |
ホイールベース | 2,310mm |
最低地上高 | 140mm |
最小回転半径 | 4.7m |
車両重量 | 1,030kg |
エンジン型式、種類 | P5-VP(RS)型 直列4気筒DOHC16バルブ |
総排気量 | 1,496cc |
最高出力 | 100kw(136ps)/7,000rpm |
最大トルク | 152N・m(15.5kg-m)/4,500rpm |
WLTCモード燃費 | 16.8km/L |
駆動方式 | FR |
ミッション | 6速MT |
サスペンション前/後 | ダブルウィッシュボーン/マルチリンク |
タイヤサイズ前後 | 195/50R16 |
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