精神科病院を舞台にしたコミック 『こころのナース夜野さん』

CREA WEB / 2020年3月30日 20時0分

著者・水谷 緑さんにインタビュー


小学館 591円。

今月のオススメ本
『こころのナース夜野さん①』

 部屋に虫が出る妄想にとりつかれている熟年男性、リストカットが止められない少女、自分の幻聴をキャラ化して悩みから自分を切り離していく青年など、こころが揺れている患者たちを、〈すみれ精神科病院〉の医療スタッフたちが、温かなまなざしと献身で支える。

 身近になってきた〈心の病気〉だが、その境界は曖昧で、わからないことも多い。

『こころのナース夜野さん』は、その混沌とした精神科医療の世界を舞台にしたコミックだ。

 新人看護師・夜野さんの目を通して、精神疾患を抱える人々と、そうした患者さんに寄り添う医療者たちの姿が描かれており、気持ちが通うことで生まれるささやかな希望が、静かな感動を呼ぶ。

「お医者さまによれば、『ふたつ以上の悩みを抱えると誰でも心がつらくなる』らしいんですね。病気というよりも『状態』なんだなと」

 紹介されているエピソードはみな、数年越しの取材をもとにフィクション化したものだ。

 たとえば看護師の橘さんが統合失調症の男性がとりつかれている部屋に虫が出る妄想に乗っかり、話ができる状態に落ち着かせていくさまは印象深い。

「橘さんのモデルの方が、『とりあえず患者さんがしたい話を全部聞きます。そのあとで本当の悩みがぽろりと出てくるもの』とおっしゃっていたのが印象的でした。

 自分の率直な思いを言葉にする、それを聞いてもらうというのが、精神医療においては何よりも大事らしいんです」

 対話を重視したフィンランド発祥のオープンダイアローグという治療法に興味を持ち、体験取材もした。

「患者や家族の前で、医療者たちが公開カンファレンスのように会話をするんです。

 ふだん医療者は客観的な視点でしか意見を言わないイメージがありますが、その手法では『私はこう思う』と主観で話す。

 その治療法を積極的に行っている西ラップランド地方では投薬治療や入院がかなり減ったそうです」

 表現によっては誰かを傷つける可能性があることは意識している。

「でも、ただの綺麗事にしてしまうと伝わらないので、私がある患者さんの行為に本音では共感できないと思っているなら、理解しようとしているふりはせず、夜野さんがそういう見方をする人として描いたり」

 自分が取材したときに何を感じたかを大事にしている、と水谷さん。

「自殺未遂をした患者さんに夜野さんがかける言葉を探しあぐね、結局、何も言えずに隣で満月を見上げる場面を描きました。

 私たちも、悩んでいる友達に、そんな寄り添い方をしてあげられたらいいなと思うんですね。うまいことが言えなくても、一緒にやる、一緒にいる。それだけでも意味があるんです」

 その控えめな優しさが、本書を貫くメッセージだ。


水谷 緑(みずたに みどり)

神奈川県生まれ。2014年『あたふた研修医やってます。』でデビュー。著書に『精神科ナースになったわけ』『32歳で初期乳がん 全然受け入れてません』『カモと犬、生きてる』『コミュ障は治らなくても大丈夫』など。

文=三浦天紗子

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