堤幸彦監督が「何万円払っても観たい」 映画『望み』豪華俳優陣の演技対決

CREA WEB / 2020年10月13日 20時0分


映画監督の堤幸彦さん。

 人気作家・雫井脩介さんの小説を、堤真一さん・石田ゆり子さん・岡田健史さん・清原果耶さんら豪華キャストの共演で映画化した『望み』が、2020年10月9日(金)に劇場公開を迎えた。

 建築家の石川一登(堤真一)と妻・貴代美(石田ゆり子)、高校生の息子・規士(岡田健史)、中学生の娘・雅(清原果耶)は、郊外の高級住宅で平和に暮らしていた。

 しかしある日、けがでサッカー部を辞めて以来、無断外泊が続いていた規士が失踪。時を同じくして、規士の同級生が殺害される事件が発生。

 さらに、もう1人が殺されたというニュースが入る。愛する息子は、殺人犯か、被害者か――。真実が明かされないまま、一登たちは疲労困憊していく。

 演技達者な面々とともに、重厚なテーマと向き合ったのは、『人魚の眠る家』や『悼む人』など、骨太な作品も多く手掛ける堤幸彦監督。 今回は堤監督にインタビューを行い、舞台裏についてじっくりと伺った。


“気持ち”を表情に乗せるため 俳優を追い込んでいきたかった


――堤監督は『人魚の眠る家』や『天空の蜂』で東野圭吾さん作品、『悼む人』で天童荒太さん作品など、ベストセラー作家の原作に取り組むことも多いですよね。今回の『望み』も、『犯人に告ぐ』や『検察側の罪人』の雫井脩介さんの作品です。

 最初にお話をいただいて、雫井さんのお名前をお聞きしたとき、チャレンジはしたいけど果たして僕で平気なのか? とは思ったんです(笑)。

 先生の作品は警察モノや裁判モノなど、とにかく緻密な取材を行われたうえで書かれているから、自分が太刀打ちできるのか不安だった。

 ただ、『望み』の原作を読んだときに、「これは家族の話だ。やらなければならない」という強い使命感に駆られたんです。

 僕はいま64歳で、あと何年生きていられるかわかりませんが、自信があるとかないとかではなく「この作品をやらなければ次にいけない」と感じ、自分から「やらせてください!」と手を挙げました。


――どういった部分に、とくに惹かれたのでしょう?

 息子が不在になって、犯人なのか被害者なのかわからない――という状況に陥った家族の“感情”が、父母の気持ちのあり方を中心としてしっかり描かれているところですね。

 原作で描かれている“気持ち”を、きちんと役者の表情に乗せることができれば、強い作品になると確信できたんです。

 そのためには俳優を追い込んでいきたかったので、今回は物語の頭から順番に撮影する“順撮り”をやらせてもらいました。

 たとえば通常はリビングのシーンはまとめて撮っちゃって……といったような作り方をするので、順撮り方式は全く効率的じゃないんですよ。

 経済的にも大変なのでプロデューサーには迷惑をかけましたが、役者それぞれが順を追って気持ちを作ることができたので、とても良かったと思っています。

ハイレベルな俳優陣の演技対決は「何万円払っても観たい!」


――いま話題に上りましたが、『望み』は、堤真一さん・石田ゆり子さん・岡田健史さん・清原果​耶さんという4人の演技対決が、大きな見どころかと思います。堤監督から、皆さんが家族に見えるように、演技面でのアドバイスなどは行われたのでしょうか?

 4人それぞれ経験値は違いますが、大変レベルの高い俳優さんが揃いましたからね(笑)。そのため、僕から「こうしてほしい」と言う必要がほぼありませんでした。

 堤さんは、主演映画『クライマーズ・ハイ』などを観て大感激していた人間なので、ずっとご一緒したいと思っていたんです。苗字も同じですし(笑)。

 セリフの一言一言にかける熱意というか、考えていらっしゃる気持ちの強さが、この作品を非常に高いところに押し上げてくれたと思います。


 石田さんは、ご一緒した映画『悼む人』で体当たりの演技をしていただきましたが、今回も「子を持つ母の想い」をすさまじいレベルで見せてくれました。

 ご本人はのほほんと温かな人に見えますが、非常に心が強い方ですね。その部分は、『望み』の後半で存分に生かされています。

「父のプライド」と「母の愛」が、本作で最も表現したい部分でしたが、堤さんと石田さんは本当に100パーセント出し切ってくれました。



――そのおふたりに挑んでいくのが、岡田さんと清原さんです。長男役の岡田さんは物語の中心になる「殺人犯なのか? 被害者なのか?」という部分をにおわせないといけない、非常に重要なポジションですね。

 岡田くんはこれからの未来が嘱望される俳優さんですが、なんて言うのかな……“残り香”が凄いんです。

 彼が演じる長男が家から出ていくときに、少しだけ後ろを見て去っていく。きっと母親の脳裏にも、観客にもずっとそのイメージが残っていく。それくらい印象的でした。

「見返り美人図」のように、こんなに振り返るのがセクシーな役者はなかなかいないと思いますね。流し目なのか背の高さなのか顔の造作なのか……立派な存在だと思います。


 岡田くんには、顔には出せないけどその実、切羽詰まってるという感じの芝居をしてもらったのですが、僕自身そういう気持ちに至ったことは何度もあるし、自分の子どもがそう思っている瞬間もきっとあるだろうなと……。

 どんなに父母が子どもたちを守っているつもりでも、子どもたちの心の底には届かない何かがある、ということを描いた作品なので、そんな気持ちを表現させたら天下一品だと思いました。


――岡田さん扮する規士の妹を演じた清原さんは、兄の失踪によって両親が壊れていく姿を目の当たりにするポジション。こちらも、難しい役どころかと思います。

 清原さんは天才的に上手いです。これはもう言うことなしですね。説明せずとも、カメラを構えて「じゃあちょっと1回やってみよう」となったときのセリフのスピードや抑揚……いわゆる演出したい部分は全部クリアしているんです。

 さらに「その上には、何があるんですか?」という質問を浴びせかけてくる役者さんで、「そうか、映画監督というのは“その先”まで指示しないといけないんだ」と僕が教えてもらいました。


 まだ十代の若さで、カメラがあったり、大勢の人が動き回ったりしている中ですごい集中力で役の思いのたけをクリアに表現していくなんて、普通はできないですよね。様々な作品に引っ張りだこなのが、よくわかりました。

『望み』はこれだけレベルの高い役者が集まったから、自分で撮っておきながら「何万円払っても観たい!」と思えるような舞台に立ち会っている感覚でした。それくらい心に迫るシーンや、芝居が多いですね。

何か月も探して見つけた 物語の鍵となる「家」


――堤監督が本作で行われた演出で興味深かったのが、太陽のカットが要所要所で入り込む演出と、画面に向かって強い光が射すレンズフレアです。これらの狙いを教えてください。

『悼む人』『人魚の眠る家』でもご一緒した撮影の相馬大輔さんが、古いレンズを使う方で、ちょっと写真家のようなタイプなんです。

 光が乱反射するカットなどは、彼の個性が生きていますね。脚本を読んだうえで提案してくれました。

 太陽のカットについては、暗くて追い詰められる“不幸テーマ”であるが故に、美しく見える風景が胸を締め付けるような効果を持つことを示したかったんです。

――4人が暮らす家も、もうひとりの主人公と言えるほど重要な存在ですよね。

 この家を見つけるまでに、何か月もかかりました。本作の裏テーマは、一登(堤真一)が建築家として名を挙げること、だと思うんです。

 そのために、建築事務所の隣に細部までこだわったモデルルーム的な家を作って、本人は満足しているけど家族はどうなのか? 彼らの気持ちの“影”が、家の中に落とされていくさまを描きたいと思いました。


不穏な“影”はポスターにも。

 子どもたちが自分の部屋に行くには必ずリビングを通らなければならず、両親と顔を合わせなければならない。

 それがコミュニケーションの契機になるから良いことだ、とはよく言いますが、子どもだってそれぞれの社会を背負って、家に帰ってくるわけです。

 強制されたら、僕だったら嫌になって駅にたむろしちゃいますね(笑)。

――(笑)。堤監督の作品には、カメラワークやカット割りなどシリアスな中にも遊びがありますが、どういった部分からインスパイアされているのでしょう?

 難しいですね……。というのも、作品ごとに撮り方を変えようと思っているんです。困ったときに『シャイニング』を観る、みたいなものはありますが(笑)。

 フランスの映画監督ルイ・マルは、『死刑台のエレベーター』というサスペンスと『地下鉄のザジ』というコメディを同時期に撮っていて、そういう多種多様な作品を撮ることができるスタイルに憧れます。

 とはいえ僕の場合はやっぱり商業監督で芸術家ではないので、その作品に求められるその時々の全力を尽くすことを大切にしていますね。

新型コロナの影響で編集作業はリモートに


完成披露試写会より。

――ありがとうございます。ちなみに本作は、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言、それに伴う外出自粛によって、編集作業はリモートで行われたそうですね。

 洲﨑千恵子さんという天才的な編集技師とディスタンスをとりながら、何度も何度も映像を作っては壊し、作っては壊しを行いました。それが納得いく作品作りの基礎となったのは、事実です。

 新型コロナによって、撮る予定だった作品が何本も飛んだり来年にずれ込んだりして大打撃を受けたのですが、『望み』という作品単体にとっては、じっくり向き合う時間が取れたのは良かったと思っています。

――堤監督にとっても、新型コロナは甚大な影響を及ぼしたのですね……。

 いま現在も、状況自体はそれほど変わっていないですしね。

 映画館に行くか行かないかが問われる時代が来るとは、想定外でした。常識だと思っていた行動様式が、疫病によってできること/できないことに変えられていく――そういう強制力が働くし、周りの目も気になってしまいますよね。フラストレーションがどんどんたまっていく。

 家族と向き合う時間が増えたのは良いことですが、家族といえど「他人」ですから、ストレスを醸し出すこともままある。

 そうすると、この『望み』が持つテーマも、作った本人でありながら深く染み入るところもあって……。

 望む・望まざるにかかわらず、時代に沿った映画になったという、運命の不思議さを感じます。


――今回の『望み』もそうですが、監督の近年の作品は、人間の二面性が1つのテーマになっている気がします。

「人間の心をテーマにする」ことにシフトしなくてはならないとは、思っていますね。人生であと何本映画を作ることができるかわからないし、日本人監督でしか描けない、日本人の映画は今後もずっと撮っていきたい。

 さらに許していただけるなら、日本における社会的・歴史的な不条理を扱った作品を描きたいと思っています。

――具体的には、どういった内容でしょう?

 差別とか格差、あるいは外国との向き合い方――ノモンハン事件や、1970年代に起こった差別事件など、いくつかあります。

 僕がそういうことを描くのは不遜だと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、これをやらないとちょっと死ねない、という思いはありますね。

堤幸彦(つつみ ゆきひこ)

1955年、三重県生まれ。演出家、映画監督として「金田一少年の事件簿」「ケイゾク」「TRICK」「SPEC」シリーズなど大ヒットドラマや映画を多数輩出。近年の監督作品に『イニシエーション・ラブ』(15)、『人魚の眠る家』(18)、『十二人の死にたい子どもたち』(19)などがある。


『望み』

読者満足度100%!(ブクログ調べ)
衝撃と感動のベストセラーを 堤真一×石田ゆり子×堤幸彦監督で遂に映画化!
愛する息子は、殺人犯か、被害者か。それとも──。 父、母、妹──それぞれの〈望み〉が交錯する中、 家族がたどり着いた〈3つ目〉の答えとは? ラストの〈光〉に魂が慟哭する感動のサスペンス・エンタテインメント。
2020年10月9日(金)公開
https://nozomi-movie.jp/

文=SYO
撮影=鈴木七絵
スタイリング=関恵美子

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