かつて栄華を極めた富山の港町・岩瀬 古民家で極上料理に舌つづみを打つ

CREA WEB / 2021年2月17日 7時0分

カウンター越しの調理に舌も目も満たされる「御料理 ふじ居」


風になびく白い暖簾。お店の営業開始とともに門が開けられ、暖簾が架けられる。

 富山市の北部にある港町・岩瀬は、神通川と富岩運河が富山湾へと繋がる、かつての水運の要衝。江戸時代から明治30年頃まで、大阪と北海道を行き来する北前船の中継地として栄えた町だ。廻船問屋や釣具屋、薬問屋、海産問屋などが軒を連ねてにぎわっていた。当時の木造古民家が残る街並みは商人たちが行き交った港町の面影を色濃く残している。ここは、富山の銘酒「満寿泉」の「桝田酒造」があることでも知られる町だ。

 最寄りの東岩瀬駅までは、富山駅から富山地鉄富山港線の路面電車で約20分。そこから徒歩10分。600メートルほどの長さの岩瀬大町通り周辺に、今、食通たちの熱い視線が注がれている。2019年から、次々と美味しいお店がオープンしているのだ。


暖簾をくぐると中庭が。池には石造りの太鼓橋が架けられて趣がある。

カウンターに座ると、大きなガラス窓から中庭を望むことができる。

 木造の外壁に架けられた白い暖簾。その先に、小さな池を囲んだ中庭に面して「御料理 ふじ居」がある。店主の藤井寛徳(ひろのり)さんは、鮮魚店を営む父親の背を見て育った。辻調理師専門学校で学んだ後、金沢の「銭屋」、京都祇園の「味舌(ました)」、富山の「海老亭 別館」で修業を重ね、2011年に故郷の富山で独立。富山駅近くに「御料理 ふじ居」をオープンさせた。

 それから8年後の2019年8月、現在の東岩瀬に移転。古民家を改装した瀟洒な佇まいの建物での再オープンとなった。カウンター席と個室があるが、ここではカウンターを選びたい。ガラス越しに望む中庭の風景を背に、目の前で調理してくれるからだ。


信州の松茸のすまし汁。お椀の蓋を開けた瞬間の香しさは至福!

透き通っている身が光っているようにも見えるイカのお造り。元気よく動いていた活きイカを目の前で捌くからこその鮮度! 角が立っていてコリコリと、口の中で主張する。

秋を表現した美しい八寸。イクラのしょう油漬けや、とんぶりが入った富山の名店「高野屋最中種店」の最中の中など。イガグリのトゲは素麺でできていて、すべて食べることができる。

 地元富山の食材を使った、四季折々の季節を感じさせてくれるお料理をいただくことができる。今回ご紹介するお料理は、秋の松茸のシーズンのもの。旬のキノコなど山の幸はもちろん、魚介類も港町ならではの鮮度のよさだ。朝、港に揚がったばかりの魚介をその日のうちにいただくことができる。


朝獲れの紅ズワイガニ。まだ動いている!

茹で上がった紅ズワイガニの身はほぐして、たっぷりのカニ味噌のソースで。

ライブキッチンのこだわりは、カウンター内に火鉢を持ってきてしまうほど。炭火で焼いたアナゴのなんと香ばしいこと!

 次々と活きのいい魚介類が目の前で調理されていくライブ感と「満寿泉」のペアリングで、時間が経つのが早い。気がつくとお腹が口福でいっぱいになっていた。季節ごとに、食材もお庭の風景も変わるので、何度も通いたくなる富山の名店だ。


ひと抱えもある大きなシバタケ。

シバタケは天ぷらで。小さく見えるが、品数が多いので、この量じゃないと食べきれない。

シメはもちろん炊きたての松茸ご飯。土鍋炊きなので、おかわりでは香ばしいお焦げもいただくことができる。

御料理 ふじ居

所在地 富山県富山市東岩瀬町93
電話番号 076-471-5555
https://www.oryouri-fujii.jp/

「GEJO」で鮨を握るのは新進気鋭の料理人


木造平屋建ての小さな古民家。キッチンは隣の棟にある。

 およそ鮨店らしくない「GEJO」という横文字の店名。実はこれ、オーナーシェフの名字なのだ。ここで腕を振るっているのは34歳の下條貴大(げじょうたかひろ)さん。フランス、イタリア、スペイン、ブルガリアなどを巡り、腕を磨いてきた。鮨店の店主としては異色の経歴だ。


カウンター8席と、テープル席が8席ある。

 故郷の富山に戻ってからは、同じ東岩瀬町のフランス料理「カーヴユノキ」や、新根塚町の鮨店「鮨人」などで研鑽を重ね、東岩瀬町で独立。店を構えた古民家は、刻まれた家紋が下條家と同じ、という不思議なご縁で導かれたという。2021年1月に1周年を迎えたばかりながら、既にリピートするファンも多い。


ブリの生ハム種。左が腹肉、右が背肉だ。高さのある黒い器は、同じ東岩瀬町にギャラリーをもつ陶芸家の釋永岳さんの手による(次回でご紹介)。

握りの前にいただくおつまみの中には、下條さんならではの和洋折衷のものも。こちらは、朝獲れのブリとクエに湯葉や辛味大根やスダチなどを加え、マリーゴールドとスミレの花が添えてある。

蓋付きの器には、季節の香箱ガニと平飼いの卵を使った茶碗蒸し。マダラの白子と木柚、菜の花がトッピングされていて華やかだ。

 下條さんのお料理は、地元富山の食材を使って海外で出会った美味しいものを表現している。握りに至るまでの序章も楽しい。おつまみ7品(7切れ)に始まり、昆布で締めて炙った真鯛や、パクチーオイルを使ったブリのリエット、和え物、茶碗蒸しなどだ。食用花を飾ったり、スモークしたり、薪のおき火という手法を使ったり、イカを使った味噌汁には、明治28年創業の「石黒種麹店」のこだわりの蔵出し味噌を使っていたり。



左:富山の冬の味覚、白エビは卵をトッピングに。甘くて口の中でとろける。
右:刻んで柔らかくした岩瀬のアオリイカに京都の白ゴマ。イカの旨みと香ばしい白ゴマの香りが溶け合う。

 かなりの品数をいただいてから、握り10貫と手巻き鮨となる。とはいえ、シャリの量が控えめなことと、何より鮮度のいい地元富山のネタと下條シェフならではの発想のお鮨が美味しいので、するりと胃袋に納まってしまう。



左:サバは中央にシャリを挟んで見た目でも楽しませてくれる。
右:白馬のA5和牛とマグロに、ウニ、カワハギのキモを和えて手巻きに。よくばりな高級食材が口中で相乗効果でさらに美味しくなるマジックだ。

 飲み物のペアリングは、地元の東岩瀬「満寿泉」のラインナップの中から厳選した銘酒や、ブルゴーニュやピエモンテ、富山「セイズファーム」のワインなど。ゲストの好みでアレンジしつつ、お料理にぴったりなものを合わせてくれる。


甘味は地元の銘酒「満寿泉」の酒粕を使った羊羹。八女茶とともに。

 器のほとんどが同じ通りにギャラリーを構え、納品は2年待ちという釋永岳さんの作品。甘味に添えられた鉄製の楊子も、同じ東岩瀬町に工房をもち、海外での受賞歴もある「IRON CHOP(アイアンチョップ)」澤田健勝さんのもの(次回でご紹介)。富山のよさを世界に発信したいというGEJOワールドのお料理を支えている。


オーナーシェフの下條貴大さん。料理の腕もさることながら、また会いたくなるナイスガイだ。

GEJO(ゲジョウ)

所在地 富山県富山市東岩瀬町180
電話番号 076-471-8522
https://gejo.jp/

地産地消にこだわったイタリアン「ピアット スズキ チンクエ」


大きな窓が印象的。お店を囲む木々は古民家だった頃の面影を残している。

 食通の方なら店名に見覚えがあると思うもしれない。シェフの鈴木五郎さんは、麻布十番の星つきイタリアン「ピアット スズキ」で修業した料理人なのだ。名字は同じ「スズキ」だが、親族ではなく偶然なのだとか。

 神奈川県小田原市の出身という鈴木シェフは、大学卒業後に半年間ワーキングホリデーでオーストラリアへ。そこでカフェや鮨店で働いたことがきっかけとなり、料理の道を目指したという。銀座の「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」では皿洗いから始め、「ピアット スズキ」で10年間働いた。その後「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」に戻ったときに、富山市内出店の話があり、富山へ。3年間働いてから退職、独立準備に入った。

 鈴木シェフが富山移住を決意した最大の理由は、その食材の豊かさだった。1年間、市内の鮨店で魚の処理等を学び、富山湾の食材、海の幸以外の食材と徹底的に向き合った。そして、2017年3月に、廻船問屋・宮城家の古民家の一角で「ピアット スズキ チンクエ」を開業した。


店内は広々としていて、オープンキッチンに面したカウンターとテーブル席がある。

「ピアット スズキ チンクエ」は、古民家レストランが多い岩瀬地区にあってまるで新築のようなモダンな佇まい。実はこのお店、2017年の開業からたったの3か月で火災に見舞われた。意気消沈する店主を、地元岩瀬地区の人々が支えて再建。2019年3月に再オープンしたのだ。

 新しく造られたお店へのアプローチには古民家の名残りがあり、扉を開けると広々としたモダンイタリアンな空間が広がる。壁一面を占める大きなガラス窓からは大きなテラスと庭の緑を望むこともできる。地元の皆さん、鈴木シェフのお料理のファンの皆さんとの強い絆で再オープンした、たくさんの愛で支えられたイタリアンなのだ。


前菜は、手前から山田の里芋と自家製テリーヌ、マスタードポテトサラダ、トマト煮、鈴木シェフの奥さまが焼いた自家製プリッシーヌ生ハム巻き。ワインが進む!

富山のボタンエビ。

 店内は広々としていて、オープンキッチンに面したカウンター6席と、4人掛けのテーブル席が5卓の、全26席がある。テーブル席を配した壁には樹木のイラストがあり、オープンキッチンの壁は茶系のタイルがポップな幾何学模様のように並べられている。


富山牛のグリル。左手前はフィレ、右奥はイチボ。新鮮で味が濃い富山野菜とともに。

シメのカニのリゾット。ついさっきまで生きていた新鮮なカニだ。

 地産地消にこだわり、朝、水揚げされた魚介や、採れたての野菜をその日のうちに調理。プレゼンテーションも地中海の太陽のように華やかだ。ペアリングはワインだけでなく、地元岩瀬の銘酒「満寿泉」もラインナップ。こちらも地産地消だ。


デザートも盛りだくさん! 手前から時計回りに、パンナコッタのマンゴーソース、「満寿泉」の酒粕のタルト、シークワーサーのゼリー、サンシャインマスカットのシャーベット、ティラミス。

 鈴木シェフの穏やかな人柄も相まって、美味しくて癒やされる食事が約束されている。


お店の火災という困難を乗り越えた穏やかな笑顔が印象的な、鈴木五郎シェフ。

Piatto Suzuki Cinque(ピアット スズキ チンクエ)

所在地 富山市東岩瀬町93
電話 076-482-4014
https://www.facebook.com/piattosuzuki.cinque/

ふたりの外国人が造る本格的な地ビール「KOBOブルーパブ」


エントランスは木造の塀に囲まれた門を抜ける。

 廻船問屋の米蔵として使われていた天井の高い大きな土蔵。「KOBOブルーパブ」の中に入ると他の東岩瀬のお店とは少し違う雰囲気だ。天井の高さのせいだけではない。カウンター越しに笑顔で迎えてくれたのは、スロバキア出身のボリス・プリエソルさん。富山で出逢ったチェコ出身のビール醸造家ジリ・コティネックさん(愛称コチャスさん)とともに地ビールを造り、土蔵でパブを営業しているのだ。


「KOBOブルーパブ」の建物は、もともと江戸後期から北前船主・廻船問屋として成功した馬場家の米倉として使われていたもの。

 チェコの専門学校で醸造を学んだコチャスさんは、10年間クラフトビール醸造に関わった後、2005年に来日。石川県の「日本海倶楽部」で数多くの受賞歴を重ねながらビールを造り、いつか日本で自分のブルワリーを造りたいと夢見ていた。


左がチェコ出身の醸造家のコチャスさん、右はスロバキア出身のボリスさん。ビール好きが意気投合した。

 そして、2007年、コチャスさんは富山県内のイベントでボリスさんと知り合った。意気投合したふたりは、10年後の2017年に、同じ富山市内の下新町に「KOBOブルワリー」を立ち上げた。ブルワリーの名前は、ふたりの名前の頭文字から「KOBO」と名づけた。2020年、東岩瀬町に「KOBOブルーパブ」をオープンさせ、9月に初めてのビールを仕込んだ。コチャスさんの来日から15年、ついに夢が現実のものとなったのだ。


壁に沿って大きなテーブルが並び、その中央ではビールが造られている。

ガラス越しに醸造タンクを見学することができる。

 定番のビールは3種類。プレミアントホップが香って飲みやすいレミアントピルスナー、深い苦みに麦の香りが広がる3Aラガー、2種類のホップの苦みと柑橘系の香りでバランスがいいペールエールだ。そのほか、夏みかんやレモンを使ったピルスナー、レッドエールやダークラガーなど、様々なビールを楽しむことができる。


カウンターとその周りの壁のイラストは、地元在住のフランス人アーティストが描いたもの。描かれているのは地元の皆さん。

中央でビールグラスを持っているのは、「満寿泉」の桝田酒造店の桝田社長だ。

 ビールとともにいただきたいのは手作りソーセージ。特に、ボリスさんの故郷スロバキアスタイルのオリジナルレシピで、地元富山市のハム・ソーセージ専門店「メツゲライ・イケダ」が作った、クロバッサソーセージはビールにぴったりだ。


小ぶりのグラスで4種類のビールを楽しめるテイスティングセットは1,200円。自家製ソーセージもいただくことができる。

 定番ビールは、お店で500ミリリットル瓶入りで購入できるが、「KOBOブルワリー」のホームページから通信販売で、500ミリリットル瓶、10リットル樽、20リットル樽で購入することもできる。


ボリスさんの奥さまが一緒にカウンターに立つこともある。

KOBO Brew Pub(KOBO ブルーパブ)

所在地 富山市東岩瀬町107-2
電話 080-3047-9916
https://www.facebook.com/kobobrewpub/(KOBOブルーパブ)
https://www.kobobrewery.jp/(KOBOブルワリー)

【取材協力】
富山県観光・交通振興局 観光振興室
公益社団法人 とやま観光推進機構

https://www.info-toyama.com/

たかせ藍沙(たかせ あいしゃ)

トラベル&スパジャーナリスト。渡航約160回超・70カ国超、海外スパ取材約300軒超、ホテル取材2000軒超、ダイビング歴約800本超。日々楽しい旅の提案を発信中。主な著書は『ファーストクラスで世界一周』(ブックマン社)、『美食と雑貨と美肌の王国 魅惑のモロッコ』(ダイヤモンド社)、『 LOVE! ROSE 薔薇のチカラでもっとキレイになる!』(宝島社)。楽園写真家・三好和義氏と共著の『死ぬまでに絶対行きたい 世界の楽園リゾート』『地球の奇跡、大自然の宝石に逢いに… 青の楽園へ』(ともにPHP研究所)。
Twitter @aisha_t
ブログ http://ameblo.jp/aisha/
公式Facebook http://www.facebook.com/WRT.by.FirstClassFlight
CREA WEB連載「たかせ藍沙のファーストクラスで世界一周」

文・撮影=たかせ藍沙

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