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もはや“アラサー主人公”も珍しくない! 越境していく「少年漫画」を考察

CREA WEB / 2021年7月3日 13時0分

今、勢いに乗る「少年漫画」は一体どこが新しい?


「別冊少年マガジン」から世界的な社会現象を巻き起こした『進撃の巨人』。2021年6月に最終巻34巻が発売され、その幕を閉じた。

「少年漫画」「少女漫画」というジャンルが定着してから幾星霜……。時代とともに、これらの言葉が持つ意味は変容してきた。いまや、「少年漫画」「少女漫画」の定義は、「少年・少女向けの漫画」とは言い切れないだろう。作品によっては、成人した20歳以上の世代のシェアが圧倒的に高いものも多く見られ、各作品の「表現の幅」も、大きく変わりつつある。

 もちろん、これは“今だけ”の現象ではない。あくまで一例だが、これまでも『ドラゴンボール』に『ジョジョの奇妙な冒険』、『SLAM DUNK』や『るろうに剣心』、『名探偵コナン』『鋼の錬金術師』『DEATH NOTE』『進撃の巨人』等々――多士済済な傑作群が“時代のにおい”を感じ取りつつ、“時代を動かすオリジナリティ”も発揮し、新たな潮流を生み出してきた。

 つまり、その時代ごとのヒット作が、「少年漫画の領域を拡張」してきたということ(アニメの“地位”の向上や、様々な副次的な要因も大きい)。社会現象化した『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』も、先達が作った流れの中から生まれてきた作品であり、その中で個性を輝かせ、次世代に新たな可能性を示してきた。

 では、いままさに勢いに乗りつつある新連載の作品群は、どんな“新鮮味”を持っているのだろうか? 本企画では、「少年漫画編」「少女漫画編」の2回に分けて、従来のイメージにとらわれない新作を紹介していきたい。第1回目の「少年漫画編」では、「年齢」「性別」の観点から、現在の潮流を考察していく。

変化① “アラサー主人公”の活躍も珍しくない


佐藤 健主演の映画シリーズによりブーム再燃中の『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』。主人公、緋村剣心は当時のジャンプ作品としては異例の28歳。

 まずは、「少年」にも深く関わる、主人公の年齢について。少年漫画といえば、多くの場合主人公は高校生から20代前半の年齢が多いのではないか。「少年」の定義にも諸説あり、14歳まで、18歳まで、未成年者全般等々……まちまちではあるため、10~20代前半の主人公は「少年」の範疇に入る読者から見て等身大、ないし近い存在であるといえる。

『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の連載開始前、作者の和月伸宏氏が当時の担当編集者から「少年誌の主人公で30歳越えはどうなのか」とNOを出されたというエピソードが示す通り、おおよそこの範囲に収めることが少年漫画の不文律といえるかもしれない(『るろうに剣心』の主人公・緋村剣心の年齢は、最終的に28歳に落ち着いた)。


ロングヒットを重ねた『銀魂』の主人公、坂田銀時も、当時としては異例の27歳という設定だった。

 また、『銀魂』の主人公・坂田銀時の年齢は、連載終了後に27歳(初登場時)と公表。作者の空知英秋氏は、「初代担当に『読者が引くので言っちゃダメ』と口止めされてたんですが、もう終わったんで言います」と説明している。

少年漫画の「制限」をぶち壊すニューカマー


一児の父を主人公にすえた『SAKAMOTO DAYS』。

『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』『銀魂』はともに週刊少年ジャンプに掲載されていた作品だが、いまとある漫画がその「制限」をぶち壊し、新たな世界を切り開いている。それが、鈴木祐斗氏による『SAKAMOTO DAYS』だ。本作の主人公・坂本太郎は、第2話時点で27歳と判明。しかも結婚しており、一児の父なのだ。

 この漫画は、「元・伝説の殺し屋が結婚して引退し、太った」という設定が敷かれており、「太ったのに鬼強い」ギャップが面白さを生み出している(ふくよかな男性が、実写映画の影響を感じさせるキレッキレのアクション描写で輝くという斬新性も大きな強み)。もちろんその部分が最大の魅力なのだが、「20代後半」「妻子持ち」「恐ろしく無口」という坂本の主人公像は、『るろうに剣心』や『銀魂』の裏話を聞いた後だと、なかなか感慨深いのではないか。

 作品のテイストこそ違えど、「かつて最強の殺し屋で、いまは『NO KILL(殺さない)』を貫く」坂本は、緋村剣心の人物像に通じるものがある。また、『SAKAMOTO DAYS』のヒロイン、陸少糖(ルー・シャオタン)は『銀魂』の神楽を彷彿とさせる部分もあり、坂本と彼に魅せられたエスパーのシン、ルーの3人組の構造は、万事屋のメンバーにも近い(シンが新八と同じツッコミポジションであるという点もニヤリとさせられる)。

 もっとも、先に挙げたように『SAKAMOTO DAYS』は、作品単体でみても実戦形式のアクションとほほ笑ましいコメディの配合が秀逸。激しい戦闘で坂本がやせる演出は笑えると同時に、「本気モード」的なカッコよさも両立している。現在コミックスは2巻まで発売中で、6月14日発売の週刊少年ジャンプ2021年28号では表紙&巻頭カラーを獲得。今後も、この勢いは加速していきそうだ。きめ細やかなアクション構築&演出はアニメ映えもしそうで、メディアミックスも期待できる。


『高校生家族』はもはや「年齢の枠」を超越している。

 また、少年ジャンプ作品では仲間りょう氏による『高校生家族』も極めて斬新。本作は、同じ高校に父・母・長男・長女・飼い猫が入るという設定で、これまでに話してきたような「年齢の枠」を超越している。ギャグ漫画のため縛りはよりゆるいかと想像されるが、それでもこれまでになかった物語だ。浮世絵調で話題をさらった『磯部磯兵衛』の仲間氏らしいアイデア作である。

変化② 女性コンビや女子高生も主人公に


週刊少年サンデーで連載中の『かけあうつきひ』は女性2人が主人公。画像は「サンデーうぇぶり」より。

 次に、性別について。「少年漫画」であれば、やはりこれまでは男性主人公が多かった印象だ。女性主人公の場合も、男性とのバディものが基本構造。完全に女性の単独主人公だと、少年ジャンプでは近作だと『アクタージュ act-age』くらいであろうか。

 そんななか、面白い動きを見せているのが週刊少年サンデーの連載作品群。福井セイ氏による『かけあうつきひ』は、芸人を目指して上京した女性2人がコンビを組み、駆け出しの芸人として奮闘する物語。2021年5月12日発売の週刊少年サンデー第24号で連載開始したが、第5話時点で「早くも大反響御礼!」としてセンターカラーを獲得している。


『響~小説家になる方法~』の柳本光晴氏の最新作『龍と苺』は、前作に引き続き女性が主人公。

『響~小説家になる方法~』の柳本光晴氏は、新作『龍と苺』でも引き続き女性主人公の物語を踏襲。こちらは「女性棋士」をテーマにした作品で、周りを畏怖させるほどの超好戦的な女子中学生が、将棋の魅力にのめり込んでいく物語だ。6月17日には第4巻が発売。


アニメ化を期待する声も大きい『葬送のフリーレン』。

 マンガ大賞2021で大賞に輝き、現在話題沸騰中の『葬送のフリーレン』(原作/山田鐘人 作画/アベツカサ)は、魔王を倒した勇者一行の“その後”を描く物語。勇者や仲間は天寿を全うするが、長寿の種族であるエルフの魔法使いフリーレンはひとり残され、その後の時代を生きていく。命の尊さと儚さを“後日談×ファンタジー”という文脈で描く画期的な作品だが、こちらも「女性主人公の少年漫画」といえるかもしれない。コミックスは4巻まで発売中だが、現時点で累計発行部数は250万部を突破するなど大人気だ。

 WEBメディアとなる「少年ジャンプ+」等にまで範囲を広げれば、もはや自由度は無限大。先日も、モリエサトシ氏の『16歳の身体地図』が大いに話題を集めた。こちらは、重い生理痛に苦しむ女子高生と、初潮がまだ訪れない同級生の物語。「スポーツ漫画」というジャンルにおいて新たな挑戦を行った本作は、WEBというフィールドにおける、少年漫画の可能性を十二分に示した。


少年ジャンプ+発のヒット作品、『怪獣8号』と『SPY×FAMILY』。

 ちなみに、『怪獣8号』は主人公・日比野カフカの年齢が32歳、『SPY×FAMILY』はメインで描かれる疑似家族の中に「少年」がいない。どちらも大人気漫画であり、今後、より自由な年齢表現が誌面のほうでもなされていくかもしれない。

変化③ 残酷性やパロディなど、表現にも多様性が

 今回挙げたのはほんの一例だが、「少年漫画」という枠を枷(かせ)としてみるのではなく、その範囲でどう工夫するのか、或いはどう超えていくかに挑む作品が続々と生まれてきたのは、漫画ファンからすると喜ばしいことではないだろうか。

 たとえば少年漫画における「残虐性」は、かねてより議論されてきたテーマであり、少年誌でどこまで残虐な描写が許されるのかは難しいところ。映画であれば「PG12」「R15+」「R18+」等の区分はあるが、漫画においてエロ要素以外はなかなか線引きが困難な部分も多い。とはいえ、こと表現の自由度においては、『呪術廻戦』などが攻めた描写に果敢に挑むことによって、後続の作品はより創作で冒険できるようになるだろう。

 未コミックス化の内容のため詳細は伏せるが、人の顔に刃物を突き立て、斬り上げる描写など、「ここまでやっても大丈夫」の上限を、『呪術廻戦』は更新してきた。『鬼滅の刃』においても、痛みから目を背けない表現を重要視しているし、『BEASTARS』は“動物”というフィルターを通して緩和しつつ、内容は極めて攻めている。『ONE PIECE』でも、種族差別や奴隷制度のえぐみを物語に入れ込んでおり、そもそも『ジョジョの奇妙な冒険』の初期などは、グロテスクな描写も目立つ。冒頭の話に戻るようだが、ただただその時代の漫画家たちが懸命に描いてきたものが、限界を突破してきたのだ。


既存のジャンプ作品のパロディが登場する『僕とロボコ』『ウィッチウォッチ』。

 ギャグ描写にしたって、既存作品をどこまでパロディ化してよいかは『銀魂』の功績が大きいだろうし、現在連載中の『僕とロボコ』の魅力のひとつである“ジャンプ作品パロ”が歓迎の方向にあるのも、“流れ”の中にあるものといえるだろう。

 ちなみに、魔女っ娘コメディ『ウィッチウォッチ』にもジャンプ作品パロが登場するが、作者の篠原健太氏は、『SKET DANCE』で誌面を、『彼方のアストラ』でWEBを経験し、本作で再び誌面に帰ってきた人物。その彼が最新の挑戦としてパロディ要素を盛り込んできたことは、今現在の漫画のトレンドを考えていくうえで非常に重要な事象といえる。


『東京リベンジャーズ』は、5巻発売時に旧表紙(左)から新表紙(右)へとリニューアル。背景にターゲット層の変化がうかがえる。

 ほかにも、不良漫画にタイムリープ要素をミックスさせた和久井健氏の『東京リベンジャーズ』は、不良たちのブロマンスだけでなく、恋愛感情に近い複雑な想いもしっかりと描写。男性同士のキスシーンもあり(ここには非常に切ないドラマが内包されている)、従来の不良漫画に、よりフラットな目線を持ち込んだ印象だ。

 余談だが、全国出版協会・出版科学研究所が発表したデータによると、2020年の紙・電子書籍を合わせた国内コミック市場の推定販売金額は、なんと過去最高(1978年~)の6126億円。これまでの最高額だった5864億円(1995年)を大幅に超えた。国内において、漫画というコンテンツがかつてないほどに覚醒しているのだ。ならばこそ、各作品の表現も、より深化していくもの。今後、どのような「これまでにない」少年漫画が生まれてくるのか、楽しみが尽きない。

SYO

映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、Fan's Voice、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema

文=SYO

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