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書籍大ヒット!“おじさん役”を究めた 個性派ジェンヌ・天真みちる【前編】 「スターじゃない私だからできること」

CREA WEB / 2021年9月4日 11時0分


 宝塚の男役といえば、マントを翻す麗しい王子か、スマートにスーツを着こなすクールガイか、正義に燃える凛々しい戦士か……と想像する人も多いかもしれない。

 しかし女性だけが所属する宝塚歌劇団で作品を上演するのだから、当然そのなかには、嫌味ったらしかったり、ちょっとイカつかったり、お調子者だったりする役を演じるタカラジェンヌもいるわけで。

 そんな“おじさん”を演じることを自身の個性と定め、在団中、名バイプレイヤーとして人気を博した元宝塚歌劇団の天真みちるさんにインタビュー。

 自身の宝塚人生を中心に綴った著書『こう見えて元タカラジェンヌです』は、軽快な筆致とたっぷりのユーモアで、宝塚ファンならずとも楽しめる一冊に。


まさか、退団後も行く先々で「宝塚にいてよかった」とこんなに思うとは……

――自身の宝塚人生を中心に綴った著書『こう見えて元タカラジェンヌです』は、軽快な筆致とたっぷりのユーモアで、宝塚ファンならずとも楽しめる一冊。もともとwebでの連載から始まって書籍化されたものですが、書き始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

 宝塚歌劇団を退団してもうちょっとで1年というくらいの頃に、書籍の出版元である左右社の編集の方からお話をいただいたんです。

 でもそのときはありがたいオファーにもかかわらず何と返していいのかわからず、1カ月くらい返事もできずにいました。

 それまで宝塚の方の本といえば、前向きに努力を重ねて来られ、選ばれてきた方々による自己啓発的な内容のものというイメージがあり、自分に何が書けるんだろうって全然見当がつかなくて。

 その頃、ちょうど勤めていた会社を辞めるかどうしようか、という時期だったのもあります。

 その後、フリーランスでやっていこうという決意が固まったタイミングで、一発目にまずその連載の仕事をやれたら楽しいなと思ったんですよね。

 自分が何を書けるかを考えた時に、宝塚でスター路線とは違う道を歩いてきた自分だからこそ、これまでの方とは真逆の視点で、入団から振り返って書いたら面白いかなと思えたことでした。

 退団してから1年、全然違う仕事をしてきましたけれど、ふとした瞬間、宝塚にいてよかったと思うことがとても多かったんですね。

 舞台に立つのではなく、イベントのプロデュース的なことをしていたんですが、仕事でお会いする方のなかには宝塚時代の私を知ってくださっている方も結構いて、それがわかった瞬間から、距離があっという間に縮まって話せる内容も変わってくる。

 退団する時、宝塚にいて本当によかったと思いましたけど、まさか辞めたあとに、あらためてそう思えるなんて考えてもみなかったこと。

 そういうことも含めて、私だから伝えられることがあるんじゃないかと思ったことも大きいです。


組の宴会でタンバリンを披露した事をきっかけに、タンバリン芸にも注目が集まる。

――最初から、順調に書き始められました?

 編集の方から、できれば1話完結にして、1回につき最低でも2500字は書いて欲しいと言われて、最初は「無理だ」って思ったんですよ。

 でも、最初に書き始めたテーマが、私がどうやって宝塚を知って、どうやって入ったかだったんですね。

 意外と知られていないし、私の記憶に強烈に残っているので、これなら書けるかもしれない、と。

 で、実際に書いてみたら……なんと1万字を超えちゃったんです(笑)。

 宝塚音楽学校は、中学卒業から高校卒業までの間に4回受験のチャンスがあるんですが、私は中学卒業のタイミングで1回落ちていて、2回目で受かっています。

 そこまで書けば、なんとか2500字いけるかなと思っていたのが、1回目の受験の合格発表手前までで2500字を超えてしまって、ちょっと待て、と。

 高校1年でもう一回目指そうってなったところで5000字を超えてしまい、怖くなってしまって、編集さんに相談しました。

 結果的に、宝塚音楽学校に受かるところまでで、前・中・後編に(笑)。

 そこでよくわかったのは、私は書きたいことを簡潔にまとめるのが苦手なんだということ。

 一番伝えたいテーマっていうのはあるんですが、それだけじゃなく、一方その頃どこどこでは……っていうサイドストーリーも書きたくなってしまうようです。

 でもそのおかげもあり、第1回を書き切ったところで、この調子でいけば連載もいけるかなという気持ちになれました。

子どもの頃からわりと物事を俯瞰的に見たり、斜に構えたところがあったような気がします


――サイドストーリーがあることで、書かれている出来事がより立体的に見えて、とても楽しかったです。しかも、毎回しっかりオチもあるんですよね。担当編集の方も最初から構成がしっかりとしていて驚いた、とのこと。

 うちは4人きょうだいで、私はお姉ちゃんと妹、弟の真ん中なんです。

 お姉ちゃんが「私はこうしたい!」って確固たる意志を両親にぶつけたりしていた時期に、私はそこまで自己主張しなくても……と思っていたのですが、妹も、末っ子時代が長かったこともあって「私はこうありたい!」っていうタイプ。

 遅く生まれた弟も、長男然として大事に育てられて……。

 そういうきょうだいの間に挟まれて育った私は、子どもの頃からわりと物事を俯瞰的に見たり、斜に構えたところがあったと思います。

 それで、歌劇団に入った時に、自分はスター候補じゃないんだろうなって気づくわけですけど(笑)。

 スター候補生の方々って、下級生の頃から本当にすごいんですよ。

 宝塚というのは、これまでの数々のスターさんが築いてこられた“所作”があり、スター候補の方々はその道を踏襲して、舞台の上でその伝統を体現してくださっているんですね。

 そういう方々って、自分がいかに努力したかを語るようなことはせず、パフォーマンスを見てくれたらわかるからっておっしゃる方が多い。

 だから私のような、その光り輝くスターさんの背中や側面を見てきた人がそれを語ることで、伝わることってあるんじゃないかなと思ったんです。

 辞めた私が宝塚を外から支えられるとしたら、そういうことかなと。

 私、いつ誰がどこで何を言ったのかという記憶が、どうも周りの人よりあるみたいで。

 それを自分の中だけで持っておくのではなく、宝塚を知らない人にも、こんな世界なんだってことをより魅力的に、より詳細に伝えられたらと思って書きました。

 最初の3話までは、宝塚に入団するまでの自分の話なんですけれど、その後からは、自分がどんな人に出会って、どんな人に憧れて、誰に影響を受け、どんなふうに生きてきたかを書きたい。

 ここまでたくさんの方にめちゃくちゃお世話になってきて、同じ道を歩まなかったとしても、私にとって大きな影響を与えてくださったということを伝えたかったんです。


緊張する集合日に、自主稽古……どんなときも面白いと思える側面を捉える

――それにしても語り口がとても軽快です。もともと、ネガティブな出来事も笑いに変えて面白がるようなところがあったんですか

 人に話すとき、この通り……話がすっごく長いんです(笑)。

 だから真面目に話しているだけだと、相手に長いな〜って思われるんじゃないかって強迫観念にかられてしまって。

 宝塚では、自主稽古で気になったことは上級生が言わなきゃいけないんですね。

 トップスターさんならば、どんなに話が長かろうと耳を傾けると思うんですけれど、私がただ説明しても、下級生からは話長いよって思われるだろうなと。

 その空気に耐えられないであろう私は、どうやったら楽しく簡潔に伝えられるか、どうしたら興味を持って聞いてもらえるかを考えていたところはあるかもしれません。

 あと、基本、真面目な世界ではあるんですけれど、柔らかくできるところはしたいという気持ちは、つねにどこかにあります。

 宝塚の稽古初日って、意外とピリピリしているんですね。その日に配役が発表されて、台本が全員に配られて本読みをするんです。

 その時、上級生順に前から座っているんですが、結構重要な役の時に後ろの方から声がすると、「誰?」って上級生たちが振り返ったりする。

 その緊張感がすごすぎて、毎回逃げたくて仕方ない気持ちになるんで、集合日(稽古初日)が死ぬほど嫌いだったんです。

 それでもちろん集合日やお稽古では、うまく出来なくて反省したり、怒られたり、いろいろなエピソードがあるわけですが……ただそれを人に話すとき、自分としては楽しく聞いてほしくて、ちょっと面白おかしくしてしまう。

 “何々の乱”とか“何々事変”のような感じで、勝手にネーミングをつけてみたり(笑)。

 ものすごく怒られた記憶も、“もう、ごめんなさいと言いたくない——2020夏”のように、タイトルをつけると少し話しやすくなる。

 たとえば、真面目に伝えたい要求も、少し面白く言う方が受け入れられやすかったりしますしね。

 在団中から、嫌な出来事ほど事件名とかをつけて、同期のちなつ(鳳月杏さん)とかに笑ってもらうことが多かったですね。

トップスターになっている方々は、努力をずっと続けることができる人


――お話を伺っていて、とても客観的に自分を分析されているんだなという印象です。天真さん自身は、自身を宝塚での落ちこぼれていたように語られていますが、実際はお芝居も歌も達者で、劇団内でもバイプレイヤーとして一目置かれている存在だったように感じます。

 そう言っていただくのは嬉しいですが、宝塚にいると、蘭寿とむさん(元花組トップスター)のようにパーフェクト・オブ・パーフェクトみたいな方を目の当たりにするわけです。

 これこそが上級生の鑑であり、トップスターであり、タカラジェンヌの最高峰! みたいな方々と一緒の舞台に立っていると、どうしても私も頑張ってきましたとか、簡単には言えないというか……。

 明日海りおさん(元花組トップスター)や望海風斗さん(元雪組トップスター)さんを筆頭に、スター性のある方々がひしめいていた89期さんは、私と3期しか違わないので、それこそ本当に身近にその姿を見させていただいてきたからこそ、余計にそれを感じるんですよね。

 スターと呼ばれる方々……とりわけ、トップスターになっている方たちというのは、努力の中身が半端ないんです。

 しかも、この公演を頑張ればいい、ではなくて、その努力をずーっと継続しなければいけない。宝塚だと、各組が大劇場公演を1年に2回、小さい公演を2回と、大体4本の作品を作るのですが、そのなかで全部結果を出し続けるって相当なこと。本当にアスリートレベルですよね。しかも、みなさんとても謙虚なんです。

 そうやって光り輝く人のそばにいると、自分はまだまだだなぁと思うんです。

 私は、自分にはそこまでできないとわかっているから、違う方法を見つけてきた人間ですし。


藁をも掴む気持ちで始めた“おじさん役。努力の方向を見極めることで拓けた道

――その違う方法というのが、おじさん役を究めるということなんですね。宝塚というのは劇団であるわけで、作品を成立させるには“おじさん”を演じられる役者さんというのは貴重な存在です。脇役の大事さに当初から気づいていらしたんでしょうか。

 おじさん役という、他の人があまり目指さない場所を目指せば、出番がもらえるんじゃないか、劇団での居場所がみつかるんじゃないかと思ったのが最初です。

 本にも書きましたが、小劇場での公演のメンバーに入らないという時期があり、自分は劇団に必要とされていない、このままでは辞めさせられるのではないかという危機感を抱いた時期があって。

 そのとき限りある宝塚人生のなかで、2年近くをグダグダ過ごしてしまって、同期とも差が開いてしまったわけです。

 このままじゃダメだと気づいたものの、そこから列の最後尾に並び直しても、本気で頑張ってますというアピールを見てもらえるところにすら行けないんじゃないかと追い詰められたことがあって。

 そうなった時、自分が劇団にアピールできるとしたら、若手が誰も狙っていないおじさん枠だ、と。ギリギリ辞めさせられずに済むんじゃないかって。

 おじさんを本気でやりすぎると、劇団の上の人に、この子はこの路線で行こうとしているんだって思われて、二枚目路線に戻るのが難しくなってしまうかもしれない。

「自分には二枚目路線はやれない」って肚を決めておかないとできないことで、下級生のうちはなかなか難しいんです。

 そういうなかで、自分はここに本気で命賭けてますっていう姿をアピールしたら、わりと早くにセリフがある役を任せてみようって思ってもらえるかもしれない。

 最初はそんな藁をも掴む気持ちで始めたことなんです。

 なぜ入団して2年の間、いまいち本気になれなかったのかと考えると、頑張ることに楽しみを見出せなかったからなんですよね。

 おじさん役に賭けてみようと思って、そこを研究しだしたら、すごく楽しかったんです。

おじさん役は、芝居が大好きな人にとって絶対に面白いポジションだと思うから


――役作りをする楽しさに気づけたんですね。

 おじさんのフォルムに見せるために、スーツをちょっとダボっとしたものにして、肩パッドを多めに入れたり。

 ズボンを太くすると劇団が用意してくれる靴だと足が小さく見えてしまうので、市販のおじさん御用達のお店で買って、それを舞台で使わせてもらったり。

 床山さんに、自分のような丸顔に合う説得力のある髭ってどんなものかを聞きに行って、面長に見せたいときはこう、真面目に見せたいときはこう、とアドバイスをもらったり、笑って欲しいときは冗談みたいなモミアゲをつける相談をしたり。

 いつの間にか、誰に言われるでもなく自分から興味を持って研究するようになって。

 私はこっちの路線でいく、と決めてからは、むしろ使命感を持って自分から演出の先生にプレゼンするようにも。

 それだけの楽しさと、自信みたいなものをもらえたのがおじさん役で、それに関しては、すごく感謝しています。

 だからこそ“おじさん役”も、追求していけばこんなに楽しい場所なんだよってことを、下の世代に伝えていきたいとも思うんですよね。

 宝塚って、各組に70人くらいの生徒がいて、そのなかでスター路線を歩む人数は限られています。

 おじさん役だって本人の希望とは関係なく、誰にも来る可能性のあるもの。

 芝居が大好きな人にとっては絶対に面白いポジションだし、その気にさえなればモチベーションは計り知れません。

――未婚の女性だけの劇団だけに、老け役……とくにおじさんやお爺さんといった役柄を説得力をもって演じられる人というのは貴重な存在だと思います。

 宝塚の舞台は、これはとくに新人公演で言えることなんですが、公演を見終わった後に「みんな頑張っていたね」っていう感想になってしまうことってあるんですね。

 新人公演は、そういう場でもあるからそれでもいいんです。

 でも私は、演出の先生がみせたい世界、みせたい物語を、ちゃんとお客さまに伝えたいと思っていました。

 新人公演に出られている間に、本役さん(本公演でその役を演じている人)よりおじさんだったねと言われることを目指していたんですよね。

 自分が演じるおじさんが物語の中で担っている役割というのがあって、それがしっかり全うできていれば、そこで描かれる物語がより一層深まるというか。

 そこに説得力があると、作品に厚みが生まれると思うんです。

天真みちる(てんま・みちる)

11月18日生まれ、神奈川県出身。愛称は「たそ」。2006年に宝塚歌劇団に入団。同期には、現・宙組トップスター・真風涼帆や、元花組トップ娘役・蘭乃はな、月組スター・鳳月杏などがいる。宙組公演『NEVER SAY GOODBYE』で初舞台を踏み、その後、花組に配属。在団中は、観客の目を惹きつける魅力的な演技と高い歌唱力で、男女を問わず幅広い役柄を演じ、名バイプレイヤーとして人気を博した。とくにおじさん役に定評があり、’17年に上演された『はいからさんが通る』では、宝塚では難しいと思われた牛五郎役を見事に演じ、高い評価を受ける。また、劇団内の余興で披露するため極めたタンバリン芸でも注目される。’18年に惜しまれつつ退団。現在はフリーのイベントプロデューサーとして、舞台やイベントの企画・脚本・演出なども手がけている。

文=望月リサ
撮影=鈴木七絵

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